インフラ・環境ファイナンス部門

事業環境と重点課題

日本の成長戦略と海外インフラ需要の取り込み

  日本企業が参画するカタールにおける天然ガス焚き複合火力発電・淡水化プラント案件

世界のインフラ需要は、新興国の経済成長や急速な都市化を背景として、今後さらなる拡大が予想されており、例えば、電力、原子力、港湾、情報通信分野はそれぞれ年平均約2.2%、約2.4%、約5%、約4%の成長が見込まれています*1

こうした海外の膨大なインフラ需要を取り込むため、国内のインフラ整備で培われた高度で環境に優しい技術を有する日本企業が、インフラ関連機器の納入のみならず、インフラの設計・建設・運営・管理等のノウハウを組み合わせた総合的な「インフラシステム」の提供や、現地での「事業投資」を拡大していくことは、世界経済の安定・成長に必要な、良好な経済インフラ整備に資するものであるとともに、日本企業の海外展開、市場獲得にも貢献するものです。

日本政府は、こうした状況を踏まえ、「日本再興戦略」(2013年6月閣議決定、2016年6月改訂)、「インフラシステム輸出戦略」(2013年5月経協インフラ戦略会議決定、2016年5月改訂)および「経済財政運営と改革の基本方針」(2013年6月閣議決定、2016年6月改訂)を策定し、日本の「強みのある技術・ノウハウ」を最大限に活かして、世界の膨大なインフラ需要を積極的に取り込むことで、日本の持続的かつ力強い経済成長につなげていく方針です。かかる方針の下、安倍総理は、2015年5月に「質の高いインフラパートナーシップ」、2016年5月にはG7伊勢志摩サミットに向けて、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を発表しました。本イニシアティブにおいては、世界全体の質の高いインフラ整備に貢献するとともに、インフラ輸出の促進を通じた日本の経済成長に寄与するため、世界全体のインフラ案件向けに今後5年間で約2,000億ドルの資金等を供給する旨が表明されています。日本政府は、本イニシアティブを通じて、民間のさらなる資金およびノウハウを動員し、各国・国際機関と協働して質・量ともに十分なインフラ投資の実現を目指す方針です。

JBICは、電力、鉄道、水関連等さまざまな分野で多くの海外インフラプロジェクトに関わってきた経験、これまで培ってきた相手国との信頼関係を活かして、海外インフラプロジェクトへの日本企業の参画を今後も積極的に支援し、政府の施策を実現するとともに、世界経済および日本経済の発展と安定に貢献していきます。

官民一体の「インフラシステム輸出戦略」

  日本企業が参画するアイスランドにおける地熱発電案件

インフラシステムの輸出は、受注そのものに加えて、現地のインフラ整備を通じて日本企業の進出拠点整備やサプライチェーン強化につながり、現地の販売市場の獲得にも結び付くといった複合的な効果も生み出します。しかしその一方で、熾烈な国際競争が繰り広げられている分野であることに加え、一般に膨大な初期投資が必要とされ、さらには長期の投資回収期間をはじめとする事業リスクの大きさや現地政府との交渉等、民間企業だけでは対応困難な要素も含んでいます。

日本政府は、こうした観点を踏まえ、官民一体の取り組みを推進しており、前述の「日本再興戦略」および「インフラシステム輸出戦略」において、2020年の日本企業によるインフラシステム受注額の目標を約30兆円と明記しているほか、内閣総理大臣をはじめとする閣僚によるトップセールスの精力的な展開等をうたっています。安倍政権では、ASEAN、中東、北米、アフリカ、インドを中心に、総理や閣僚の訪問に経済ミッションが同行して強力なトップセールスを実施し、具体的なインフラシステム受注につなげており、2014年のインフラ受注実績は約19兆円に上ると示されています*2

また、地域軸の観点からは、「インフラシステム輸出戦略」において、インフラ海外展開のターゲットとなる新興国を①中国・ASEAN、②南西アジア、中東、ロシア・CIS、中南米、③アフリカに3分類したうえで、中国・ASEAN地域を重要地域として、ASEAN地域の連結性強化に資する高品質かつ強靭なインフラシステム導入支援を推進していくことが明記されています。

さらに「インフラシステム輸出戦略」では、我が国の先進的な低炭素技術を活用するとともに、途上国支援とイノベーションからなる「美しい星への行動2.0(Actions for Cool Earth: ACE2.0)」を着実に実施し、途上国の経済開発と温室効果ガスの削減に貢献するとともに、我が国が比較優位を有するインフラの海外展開を促進することがうたわれています。

海外インフラプロジェクトにおいて 日本企業が直面する3つの課題

前述のとおり、官民挙げてのインフラシステム輸出戦略が進行中であり、一部では成果が表れ始めていますが、日本企業の多くは、海外インフラプロジェクトを進めるにあたって、価格競争力、総合的オペレーターの不足、新興国等での事業性確保に向けたスキームの欠如といった困難な課題に直面しています。

まず、日本企業の価格競争力を強化するうえでは、既に多くの日本企業が取り組んでいるように、一部の部品の生産拠点をコストの安い海外にシフトして、日本で生産されるコア部品と組み合わせて価格競争力を高めていくことが有効です。また、オールジャパンにこだわらず、"Japan Initiative"という観点から、プラントのコア部分については技術面で優位に立つ日本企業が中核となりつつも、その他は他国企業との連携を進め、日本品と外国品のベストミックスを図っていくという対策も考えられます。

次に、総合的オペレーターの不足に関しては、例えば、日本国内の実情として建設・運営に関する知見やノウハウが公営企業を含む複数の企業に分散している水や鉄道セクター等では、マスタープラン作成等の「川上」から、設備の保守・管理、料金徴収等の「川下」に至る包括的なビジネス展開の実績を有する日本企業が不足している状況です。このため、インフラシステムの一体的提案を求める相手国側のニーズに必ずしも対応できていない例も見られます。このように包括的なビジネス展開に関するノウハウが不足する分野では、国際アライアンスの構築やノウハウ蓄積に資する海外企業の買収等が対応策として有効と考えられます。

さらに、新興国等のインフラプロジェクトにおいては、例えば、電力購入契約における現地の政府や国営企業の義務に関する法令が不備であったり、交通プロジェクトにおけるライダーシップリスク*3に対する現地の政府の手当てが不十分であるなど、事業者側に過大なリスク負担が生じる制度設計となっている場合があります。また、複数の官庁が関与したり、複数の地方自治体にまたがって建設されるプロジェクトにおいて、関係当事者を調整してプロジェクトを監理していく能力が中央政府に不足している例も少なくありません。このような状況では、事業参画を検討する民間企業から見て、プロジェクトスキームのフィージビリティが極めて希薄といわざるをえず、民間投資が円滑に進まないことになります。

こうした場合、プロジェクトの初期段階において官民が十分に意見交換・連携することによって、双方の立場から事業として十分に成り立ち得るプロジェクトスキームを確保することが効果的です。例えば、プロジェクト形成を促進するための会社を設立したり、相手国政府との定期的対話を活用する等して、案件形成段階から相手国政府や現地事業会社の取り組みに関与することで、プロジェクトの基本的なスキーム、プロジェクト実行・管理に対する相手国政府の適切なサポートや、ライフサイクルコスト*4等プロジェクト全体を見渡した入札条件の採用等を実現し、ニーズや現実に即した実効性の高い案件形成の可能性を高めることが期待されます。

JBICの取り組み

JBICの「インフラシステム輸出支援」

日本政府によるインフラシステム輸出戦略や質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブの一環として、JBICの役割に対する期待も高まっており、前述の日本企業が直面している課題の克服に向け、JBICは支援体制を整備・強化しています。

JBICは2013年2月より、輸出金融の運用の柔軟化(一定条件を満たせば、日本企業の海外現地法人等が生産したものも日本からの輸出品と類似のものとしてカウント)や、日本企業の海外現地法人等による第三国への輸出や進出国での販売支援のためのローカル・バイヤーズ・クレジット*5の運用を開始しており、インドに製造拠点を構えてインド国内で販売している日本の重電メーカーに対する支援をはじめとして、グローバル化の進展を背景に現地化が進行する日本企業の生産・販売体制の変化に合わせた支援に取り組んでいます。

また、プロジェクト形成を促進する会社の設立や、相手国政府との定期的対話等を通じた事業性確保に向けた取り組みも行っています。前者については、インド国内のデリー・ムンバイ間の地域を対象に開発マスタープラン作成や個別プロジェクトのフィージビリティ・スタディ等を担うDelhi Mumbai Industrial Corridor Development Corporation Limited (DMICDC)への出資や、同様の役割を担うプロジェクト開発促進会社をミャンマーやタイに設立し、具体的な運営についてミャンマー政府/タイ政府と協議を行っています。後者については、JBICとインドネシア政府との間の「財務政策対話」が代表例であり、同様のスキームを他国にも広げて展開しているところです(同様の対話枠組みをメキシコ政府、ベトナム政府との間で設定済み)。また、JBICは、投資回収期間が長く、収入が現地通貨建てとなるインフラプロジェクトでの事業性確保に向けた支援策として、事業者となる日本企業の外貨借入に関する為替リスクを回避し、長期にわたる安定的な運営を支援するための現地通貨建て融資にも取り組んでいます。

また、2016年5月には、「株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律」(平成28年法律第41号)が成立し、海外における社会資本の整備に関する事業に係る更なるリスク・テイクや、現地通貨建て融資の拡大、プロジェクト・ボンドの取得等の支援手法の多様化等が可能となりました。こうした機能強化も踏まえ、JBICは日本企業の今後の海外展開をより一層後押しできるよう引き続き支援していきます。

今後もJBICは、コア業務である金融機能を市場やニーズに合わせて拡充・強化するとともに、官民双方を取り持つ存在として、拡大しつつある海外インフラ需要を日本企業のビジネス機会の創出・拡大につなげていくことができるよう、さまざまな側面から支援していきます。

JBICの地球環境保全への取り組み

  日本企業が参画するオランダにおける洋上風力発電案件

先進国、新興国を問わず、地球環境保全と経済発展の両立を図ることが世界共通の課題として認識されており、環境の保全・改善につながるようなプロジェクトの実施が世界的にも期待されています。2015年12月には、国連気候変動枠組条約第21回締結国会議(COP21)において、京都議定書に代わる、温室効果ガス削減のための新たな国際枠組みとして、パリ協定が採択され、世界の温暖化対策の取り組みが今後進展するものと見込まれます。

この分野においては、エネルギー効率の改善を図る省エネ事業、太陽光発電や風力発電をはじめとする再生可能エネルギー事業、CO2排出量を低減できる高効率の火力発電事業、渋滞や大気汚染の緩和に資する鉄道などの都市交通事業、IT技術を駆使して電力の効率的な供給を図るスマートグリッド事業や環境都市の実現を図るスマートシティ事業など、さまざまな取り組みが世界中で進みつつあります。

JBICは、インフラシステム輸出戦略の下で日本の先進的な環境関連技術を世界に普及させることによって、こうした取り組みに貢献しています。加えて、新興国における高度な環境技術を活用した太陽光発電やエネルギー効率の高い発電所の整備、省エネ設備の導入等の高い環境保全効果が認められる案件に対して、民間資金の動員を図りつつ、融資・保証および出資を通じた支援「地球環境保全業務(Global action for Reconciling Economic growth and ENvironmental preservation、通称GREEN)」を実施しています。

JBICは、日本企業のビジネス活動を支援するとともに、GREENも駆使して、今後とも、地球環境保全に向けた取り組みを金融面から支援していきます。

近年の主な海外インフラプロジェクトへの取り組み

近年の主な海外インフラプロジェクトへの取り組み

 

注釈
  1. *1「インフラシステム輸出戦略(平成26年度改訂版)」(2014年6月3日 経協インフラ戦略会議決定)
  2. *2「インフラシステム輸出戦略フォローアップ第4弾」(2016年5月23日 第24回経協インフラ戦略会議)
  3. *3ライダーシップリスク:プロジェクトの収益を確保するうえでの一定程度の乗客数または利用者数を確保できないリスクのこと。
  4. *4ライフサイクルコスト(LCC):計画・設計・施工といった初期費用だけでなく、維持管理、最終的な解体・廃棄までに要するプロジェクトの全期間を通じた費用の総額のこと。
  5. *5ローカル・バイヤーズ・クレジット:日系現地法人等による設備や技術の輸出・販売に必要な資金を当該現地法人等の取引先に対して融資するスキームのこと。