産業ファイナンス部門

部門長メッセージ

JBICは2016年10月に組織の改編を行いましたが、その一環として中堅・中小企業の皆様の海外展開をよりきめ細やかに支援するために中堅・中小ファイナンス室を設置しました。現在、産業ファイナンス部門は、この中堅・中小企業ファイナンス室のほか、産業投資・貿易部、船舶・航空宇宙部および西日本オフィスの4つの部署で構成され、各々の案件に応じて多様な金融手法を用いて我が国産業の国際競争力の維持・向上のための取り組みを実施しております。

海外M&A等を中心に我が国企業の対外投資意欲は引き続き高い中、当部門の2016年度の出融資保証承諾件数は221件、出融資保証承諾実績額は1兆1,416億円となりました。

2015年に作成した現行の「中期経営計画(平成27~29年度)」における最終年度を迎え、同計画の重点取組課題である「世界市場における我が国産業の優位性強化・成長の機会の拡大に向けた支援推進」と「中堅・中小企業の海外展開に対するJBICの特徴を活かした支援」につき、引き続き積極的に取り組んでまいります。

産業ファイナンス部門長 田中 一彦(常務執行役員)

 

事業環境と重点課題

増加傾向にある日本企業の海外M&A

日本企業の海外直接投資は、2008年のリーマンショックによる落ち込みはあったものの、急速に進んだ円高の影響もあり、2011年には1,000億ドルを超える水準に回復しました。その後円安に転じる局面もありましたが、その間も日本企業の海外直接投資は堅調に推移し、2016年には1,452億ドルに達する状況にあります(図表1)。

堅調な日本企業による海外直接投資の中においても、円高による買収価格の低下等を背景にリーマンショック後にいったん落ち込んだ日本企業による海外M&Aが急速に伸長し、こうした傾向はその後の為替動向に関わらず継続しています。ここ3年を見ても、海外M&Aの件数は2014年の557件から2016年には663件と増加を続けており、金額においても2015年、2016年と2年連続で10兆円を超えました(図表2)。このように、日本企業にとって、縮小する国内市場に替わる新規市場の獲得や、グローバル競争を勝ち抜くための規模拡大を目的とした海外M&Aが、事業戦略上の重要な選択肢となっていることが見て取れます。

 

回復傾向にある日本の輸出額

世界の輸出取引額は2011年から漸増し、2014年には19兆ドルに達したにもかかわらず、新興国の需要停滞、資源価格の低迷等を背景に2015年から減少しており、2016年には15.9兆ドルとなりました。一方、日本の輸出額は2012年から2015年にかけて円安が進行したものの減少を続けていましたが、2016年は前年比3.2%増の6,449億ドルとなりました(図表3)。日本企業が海外の成長を取り込むことを目的に現地生産体制を確立し、日本企業のサプライチェーンが海外に構築されてきたこと等、輸出の下押し要因もありますが、先進国経済の着実な成長と新興国経済の持ち直しにより、先進国向けの自動車関連財やアジア新興国向けの情報関連財を中心に需要が回復していること等が、世界の輸出取引額が減少したにもかかわらず日本の輸出額が回復してきた要因として挙げられます。

 

海外事業を強化する中堅・中小企業

また、中堅・中小企業の海外事業展開に目を転じると、日系大手企業の現地調達ニーズへの対応という進出動機に加え、海外市場の需要を取り込むことで商機拡大を目指す動きもあり、活発な状況と言えます。JBICでは毎年「わが国製造業の海外事業展開に関する調査報告」において、海外事業展開における中期見通しの調査を行っており、これまでの海外進出の積み重ねを踏まえれば、引き続き中堅・中小企業の海外事業展開の意欲は高い水準にあると考えられます(図表4)。

海外事業に挑戦する中堅・中小企業の裾野や進出先国、資金ニーズは多様化しています。一方、中堅・中小企業は大企業に比べて、海外事業に必要な資金調達、情報収集等の面で制約を抱えている場合があることから、中堅・中小企業に対してはより一層、支援を多面的に充実させていくことが重要となります。

 

JBICの取り組み

多様な手法を活用した日本企業の海外展開支援

日本企業による海外M&A案件(医療)を支援 海外展開支援融資ファシリティにより支援した中堅・中小企業のタイ現地法人開所式

JBICは海外M&Aやインフラ、資源分野等への長期資金供給を通じて日本企業の海外展開支援を推進することを目的に、2013年4月に「海外展開支援融資ファシリティ」を創設しました。なお、同ファシリティは2016年6月に中堅・中小企業の支援を追加する形で更新しております。引き続きニーズの高い海外M&Aについては産業ファイナンス部門を中心に支援しておりますが、JBICからの直接融資および日本の金融機関と締結したM&Aクレジットライン(融資枠)を活用した間接融資(ツー・ステップ・ローン)を通じて、医療、食品、薬品、自動車部品、半導体、貴金属回収精製、人材派遣、ITといったさまざまな業種の海外企業に対して日本企業が行うM&Aに必要な長期資金を機動的に供給し、2016年度は海外M&A案件向けに9,710億円の融資承諾を行いました。

また、自動車部品の製造・販売事業へのタイ・バーツ建て融資による支援や、JBIC初となるロシア・ルーブル建て融資を行うなど、日本企業の海外現地法人に対する現地通貨の調達支援を実施しました。このように、2016年度も日本企業の国際競争力維持・向上のため、海外事業展開を積極的に支援しました。

日本企業の輸出・海外販売支援

日本企業によるプラント機器の輸出の拡大を支援

JBICは日本企業の輸出支援や海外販売支援にも積極的に取り組んでいます。2016年度には、相手国政府等のバイヤーに対し、案件検討の初期段階からファイナンスに関する提案を行うなどの働きかけや交渉を直接行い、円滑なファイナンス組成を通じて、低環境負荷燃料を生産可能とする製油所改修プロジェクトへの日本製プラント機器の輸出を支援しました。そのほかにも、日本の造船会社が建造するタンカー、LNG船等の輸出は、国内で取引関係にある多くの中堅・中小企業や地域経済に大きな役割を果たしている造船業の支援につながるため、バイヤーのリスクテイクやプロジェクトファイナンスでの船舶輸出バイヤーズ・クレジットを機動的に活用し、多様なリスクテイク機能を発揮して日本の造船業の支援を行いました。

また、JBICは2016年5月施行の株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律により、海外現地法人等による第三国向け輸出や進出先国での販売支援のための融資であるローカル・バイヤーズ・クレジットを輸出金融として位置づけ、日本企業の受注拡大支援を一層強化していきます。

中堅・中小企業の海外事業展開支援

日本企業により建造された船舶を輸出金融により支援 中堅・中小企業向けにセミナーを開催

JBICは2012年度から本店および西日本オフィスに中堅・中小企業支援専門の部署を配置し、中堅・中小企業の海外事業展開支援に積極的に取り組んでいます。その取り組みが確実に実を結んでおり、中堅・中小企業支援融資の件数は支援専門の部署を配置した初年度となる2012年度は34件でしたが、2016年度には114件となりました。

中堅・中小企業の支援にあたっては、民間金融機関を通じた投資クレジットライン(融資枠)を設定する等の取り組みにより、地域金融機関およびリース会社の海外現地法人との連携を拡大しています。また、米ドル・ユーロ等のハードカレンシー建てでの円滑な融資のほか、現地通貨建て融資であるタイ・バーツ建て融資等を行うことにより、中堅・中小企業の海外現地法人における現地通貨ニーズにも積極的に応えてきました。

資金調達面での支援に加え、開発途上国の州政府および地場金融機関との間では、日本の地域金融機関を通じた中堅・中小企業の海外進出支援のための覚書を締結することにより、日本側、ホスト国側関係者をさらに結び付けていくべく連携の強化も行いました。また、中堅・中小企業の海外志向の強まりを受け、海外投資環境をはじめとする各種情報提供も引き続き実施し、海外事業展開や覚書締結に関する情報を提供するセミナーや個別相談会を全国各地で開催しました。

多様化する日本企業のニーズへの対応

新興国経済の動向、とりわけ不透明な米国の経済政策運営や英国のEU離脱交渉の行方のグローバルベースでの波及等、日本企業を取り巻く国際経済環境は絶えず変化していますが、今後もJBICは日本政府の政策動向を踏まえつつ、日本の産業の国際競争力の維持・向上のために貢献していきます。

プロジェクトファイナンス、資本性劣後融資、現地通貨建ての融資などを含めたJBICの金融メニューは、2016年5月施行の株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律により一層多様化されました。

産業ファイナンス部門では、これらの金融手法を活用しながら、日本企業の海外事業展開への支援を深化しつつあり、我が国の持続的な成長につながる新たなビジネス機会の探索と創造に貢献すべく、日本企業のニーズへの的確な対応を通じて、日本と世界をつなぐ役割を引続き果たしていきます。