インフラ・環境ファイナンス部門

部門長メッセージ

インフラ投資については、世界的に需要と供給の間の大きなギャップが指摘されており、G7伊勢志摩首脳宣言でも言及されています。このギャップを緩和するためには、資金面では、安定的で良質な長期資金の供給が重要であり、JBICは自らの長期資金の積極的な供給に加えて、長期民間資金の一層の動員に向けて努めてまいります。また事業形成の面では、特にPPP(Public Private Partnership)のような官民連携型事業の場合には、民間投資家による長期投資・事業運営を呼び込む良質な事業の組成が期待されており、JBICはホスト国政府や国際機関等と連携しながら、そうした事業形成にも努めてまいります。

JBICは、中期経営計画の下、日本企業のインフラ海外展開の多様化・高度化への支援(特に、電力分野において従来の国・地域、手法の枠を超えた支援、また鉄道・港湾・廃棄物処理・水等社会インフラ案件への取組強化)を推進するとともに、環境分野では気候変動対策を含む地球環境保全に積極的に取り組んでまいります。

インフラ・環境ファイナンス部門長 弓倉 和久(常務執行役員)

 

事業環境と重点課題

日本企業の国際競争力の向上に向けて

日本政府は、これまでの「質の高いインフラ」関連の政策に続き、2016年5月、G7伊勢志摩サミットに向けて、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を発表しました。また、同サミットの首脳宣言では、質の高いインフラ投資を推進するための5つの原則(伊勢志摩原則)(図表)について合意がなされました。

こうした日本政府の政策を踏まえ、JBICは、日本の高い技術を用いた質の高いインフラの海外展開を推進することで、日本企業の国際競争力の維持・向上に努めていきます。また、インフラ分野の国際競争が熾烈を極める中、日本企業がさらに多くの案件を受注し、また事業参画するために、JBICは、以下の課題の克服に努めています。

(1)多様なリスクへの対応

インフラプロジェクトは、一般に規模が大きく、計画・入札段階から建設を経て事業資金を回収するまでには長期間を要すること等から、さまざまなリスクに直面することが考えられます。例えば、信用力の低い開発途上国政府・地方公共団体などのカウンターパーティーリスク(契約相手方の契約義務不履行等のリスク)が大きい場合や、不確かな需要・販売リスクを伴う場合には、事業者の投資意欲が減退したり、金融機関からも所要の長期資金が十分に集まらなかったりする場合があります。また、インフラプロジェクトは基本的に現地通貨での収入となる一方、特に開発途上国の場合には、海外から先進的な技術や経営ノウハウ等の導入ニーズがある場合や、国内の金融市場が十分に発達しておらず、海外からの外貨建て長期民間資金に依存する場合もありますので、ホスト国政府を含め事業関係者間で為替リスクの問題をどのように解決するかも重要になってきます。

(2)バンカブル(Bankable)な案件*1組成の促進

特に開発途上国等のBOT(Build Own Transfer)、PPP等の官民連携事業の場合、所在国の法規制が不十分・不明確であったり、関係省庁・機関の能力・経験が不足していたり、また事前のフィージビリティスタディ(事業性調査)等が適切に行われない結果、対象事業のさまざまなリスクについて、ホスト国政府側を含む事業関係者の間で適切な分担が行われず、民間事業者側に過大なリスク負担が求められたりする場合があります。このような状況では、民間投資は円滑に進まず、結果としてホスト国政府側が期待するような形では官民連携事業は進捗しないことになります。官民連携事業の場合、対象事業に関わるすべての関係当事者が自ら管理・コントロールできるリスクを負担・分担し合うことの重要性が指摘されています。

(3)幅広い民間資金の動員

世界のインフラ需要は、特に新興国の経済成長や人口増大、急速な都市化を背景として、実際の投資を上回るペースで引き続き増大していくものと見込まれています。インフラ需給ギャップに対応するためには、上述の課題に加えて、国際開発金融機関(MDBs)やJBICのような各国公的金融機関からの資金供給だけでは量的に十分ではなく、生命保険会社や年金基金、投資ファンド等を含め幅広く民間金融部門からの資金を動員することが不可欠です。

地球環境保全への取り組み

2015年にパリ協定が採択されるなど、地球環境保全と経済発展の両立が世界共通の課題として認識される中、環境の保全・改善につながるようなプロジェクトの実施が世界的にも期待されています。JBICは、2015年11月に日本政府が発表した途上国支援とイノベーションから構成される「美しい星への行動2.0(Actions for Cool Earth:ACE 2.0)」のもとで、地球環境保全業務(Global action for Reconciling Economic growth and ENvironmental preservation:通称GREEN)を活用した支援などを行っています。これらを通して、途上国の経済成長と温室効果ガスの削減、気候変動対策等、世界経済に影響を与えるさまざまな地球環境問題に貢献していきます。

JBICの取り組み

日本企業の国際競争力の向上に向けて

日本企業が参画するクウェートにおける天然ガス焚き複合火力発電・淡水化プロジェクト

2016年度、当部門は、電力案件を中心に23件、合計6,902億円の案件を承諾しました。インドネシアでは、同国初のPPP事業であるセントラルジャワ超々臨界圧石炭火力発電事業の他、アジア開発銀行(Asian Development Bank: ADB)との協調融資によるムアララボー地熱発電事業等を支援しました。ベトナムでは、同国初の超々臨界圧石炭火力発電所である、ビントゥアン発電所向けの発電設備輸出案件を承諾しました。また、後述のとおり、政令改正も踏まえて、米国での廃棄物処理・発電案件も承諾しています。

また、投資事業の国際競争入札に際して、アジアのみならず、中東、北アフリカ等多くの商談にて、JBICは、対象事業のリスク分担やファイナンススキーム等を含め、日本企業の応札および事業権の獲得に向けた支援を実施しました。前掲の3つの重点課題に対する主な活動実績は、以下のとおりです。

(1)多様なリスクへの対応

2016年5月の株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律の成立に伴い、リスクテイク機能を強化する一環として「特別業務」が新設されました。

特別業務勘定を活用することで、より踏み込んだリスクテイクが可能となり、2017年3月にイラク政府向けに同業務の第1号案件を承諾しました。

また、併せて実施した政令改正により、先進国事業に対する支援対象分野が拡大され、廃棄物処理事業等の支援が可能となったことを受けて、JBIC初の廃棄物処理事業支援として、米国カリフォルニア州で実施される廃棄物処理・発電案件を承諾しました。

加えて、開発途上国等における国営企業や現地金融機関に対するローカル・バイヤーズクレジット*2供与を活用し、日本企業の海外現地生産・販売を支援しています。また、地方公共団体、現地民間企業等のリスクテイクに向けた協議も進めていきます。さらに、上記法改正で多様化された支援手法(プロジェクトボンド取得、イスラム金融等)の活用も積極的に検討しています。

(2)バンカブルな案件組成の促進

JBICは、相手国政府との政策対話や、個々の商談に即した相手国政府・実施機関との協議・交渉、またMDBsとの連携等を通じてバンカブルな案件組成にも努めています。

政策対話では、相手国の状況に応じて、安定的なインフラ事業運営に不可欠なマクロ経済や投資・金融制度に加え、インフラ事業等に関連する法規制やPPP制度等、また主要セクターにおける開発課題やプロジェクト形成等、さまざまな分野について協議しています。インドネシア、メキシコ、ベトナム政府との定期的な協議に加え、個々の商談に応じ、さまざまな国との間で相手国の法規制や事業権契約等における関係者間のリスク分担等について協議し、その改善等に努めています。フィリピンでは交通インフラ等のセクターを対象に、PPPにおけるリスクシェアリングのあり方を提案・協議し、インドでは、太陽光発電案件における海外資金動員の課題について共同研究を行う等、日本企業の投資事業機会の拡大に努めています。

また、日本の産業の国際競争力の維持・向上等につながる個別案件の実現に必要な、フィージビリティスタディ等の調査も外部専門家の知見を活用して実施しています。

加えて、MDBsと連携した取り組みも実施しています。2017年5月に横浜で行われた第50回アジア開発銀行(ADB)年次総会では、PPP制度に係るセミナー「官民連携によるアジアでの質の高いインフラ・プロジェクトの将来展望」をADBと共催し、アジア地域におけるPPP事業の促進に向けた課題や方策について議論しました。また、JBICは世界銀行が主導するGlobal Infrastructure Facility(GIF*3)にアドバイザリーパートナーとして参画しており、またB20*4のインフラ分野のタスクフォースにも参加するなど、バンカブルな案件形成促進に向けた国際的な議論にも加わっています。

ADB総会にてJBICとADBが共催した「官民連携によるアジアでの質の高いインフラ・プロジェクトの展望」セミナー

(3)民間資金の動員

日本企業が参画するインドネシアにおけるサルーラ地熱発電プロジェクト

JBICは、民間資金のさらなる動員へ触媒機能を果たすべく、多様な取り組みを実施しています。

JBICは、個別案件の内容に応じて、協調融資に参加する民間金融機関に対して保証を提供しています。例えば、民間金融機関にとってポリティカルリスクやホスト国政府・政府機関のカウンターパーティーリスクが高いと見られる事業の場合、JBICは同リスクに対する保証を提供することにより、民間金融機関の融資参加や長期融資の実現を支援しています。2016年度には大型のインフラ事業や、海外の政府および地域開発金融機関向け融資に参加する協調融資銀行に対して保証を提供しました。

また、日本の地方銀行や生命保険会社等に対してプロジェクトファイナンスやGREEN案件に関するセミナーを実施しています。2016年度は3行の地方銀行(八十二銀行、横浜銀行、常陽銀行)がGREEN案件の協調融資に初めて参加する等、近年、協調融資に参加する金融機関のすそ野が拡大しています。

併せて、民間資金動員を目的として貸付債権の流動化にも取り組んでいます。2016年度は、アジアの電力インフラ向け既往プロジェクトファイナンス債権の流動化を実施し、地方銀行(伊予銀行、千葉銀行、群馬銀行)の資金動員を図りました。

地球環境保全への取り組み

日本企業が参画するヨルダンにおける太陽光発電プロジェクト

JBICは、高度な環境技術を活用した太陽光発電やエネルギー効率の高い発電所の整備、省エネ設備の導入等の高い地球環境保全効果を有する案件に対して、民間資金の動員を図りつつ、融資・保証および出資を通じた支援「地球環境保全業務(GREEN)」を実施しており、これまで*5、再生可能エネルギープロジェクトやエネルギー効率化案件を中心に31件の承諾実績があります。

2016年度のGREENの実績としては、初のエクアドル政府向け案件として、エネルギー効率化事業を支援しました。本件はGREEN業務での米州開発銀行(The Inter-American Development Bank:IDB)との初の協調融資でもあります。また、アンデス開発公社(Corporación Andina de Fomento:CAF)に対しても、再生可能エネルギーおよびエネルギー効率化事業の支援を目的とした、第2次クレジットライン(融資枠)を設定しました。

今後も、JBICは、拡大を続ける海外のインフラ需要を日本企業のビジネス機会に着実につなげ実現していくとともに、地球環境保全に向けた取り組みを金融面から支援していきます。

 

注釈
  1. *1対象事業の実現可能性、経済性、関係者間のリスク分担等が適切に確認・確保されており、民間企業の事業参加と金融機関による長期資金提供が期待できる案件。
  2. *2日系現地法人等による設備や技術の輸出・販売に必要な資金を、当該現地法人等の取引先である現地企業等に対して融資するスキームのこと。
  3. *3PPPを活用したインフラプロジェクトの組成を目的として世銀グループが主導して設立したプラットフォーム。
  4. *4B20(Business 20)は、国際的なビジネスコミュニティとG20との公式な対話窓口。
  5. *52017年3月末時点。