株式会社国際協力銀行 総裁記者会見
- 日時)2020年2月27日 16:30~17:30
- 場所)国際協力銀行 本店
- 説明者)総裁 前田 匡史
Ⅰ.「自由で開かれたインド太平洋構想」に向けて 資料:P.3
2018年11月、JBICは、米国・海外民間投資公社(以下「OPIC」)並びに豪州・外務貿易省(以下「DFAT」)及び輸出金融保険公社(Efic)との間で業務協力協定を締結しました。昨年、米国ではBuild ActによりOPICが改組され、米国国際開発庁(USAID)の一部機能を承継するとともに投資上限額を倍増し、新たに国際開発金融公社(以下「DFC」)が設立されました。新総裁はAdam Boehler氏で、DFCは年初より本格的に始動しています。また、豪州は、主に南太平洋の国々を対象とした資金協力の枠組みを立ち上げており、米豪両国は、インド太平洋地域における取り組みを強化しています。日米豪連携の枠組みの下、JBICもインフラ協力に係る合同ミッションに参加してきました。
このような中、新たな取り組みとして、昨年11月、タイ・バンコクで開催されたインド太平洋ビジネスフォーラムにおいて、米国OPIC、豪州DFAT、JBICの3者でBlue Dot Networkのコンセプトを公表しました。昨年6月に日本がホストを務めたG20において、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」が合意されましたが、それをさらに一歩進め、個別案件においてこれらの原則が遵守されているかを確認し、認証する仕組みを作るという構想です。
本年1月30日、米国ワシントンDCにおいてその第1回steering committee(設立準備委員会)が開催されました。具体的な運営方法については、今後事務レベルで検討を進めていく予定です。
Ⅱ.気候変動問題への対応 資料:P.4~5
本年1月、私は第50回世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席しました。今年のダボス会議では、気候変動問題が例年以上に大きく取り上げられたという印象を持っています。会議では、世界で10億人以上の人々が電力のない生活を強いられている状況を踏まえ、様々な要素を総合的に勘案しながら中長期的に気候変動問題に対応していく方向性について議論が行われました。
気候変動問題への対応に関するJBICの具体的な融資案件として、モロッコ・タザ陸上風力発電事業をご紹介します。この事業は、フランスのÉlectricité de France(EDF)という電力会社の子会社であるEDF Renouvelables SAと三井物産株式会社が共同で、風力発電所を運営し、完工後20年にわたりモロッコの電力・水公社に売電するプロジェクトです。発電能力は約87.2MWで、協調融資総額は約1億1,300万ユーロ、うちJBIC分は約4,400万ユーロです。民間金融機関の融資の一部に対し、株式会社日本貿易保険(NEXI)の保険が付されます。
モロッコは、従来ヨーロッパから電力の融通を受けていますが、近年再生可能エネルギー事業に注力しています。モロッコ政府は、持続可能エネルギー庁(MASEN)を設立し、技術提携等を通じて再生可能エネルギー事業を推進しています。先日、日本モロッコ協会主催のシンポジウムにおいて同庁のエグゼクティブディレクターにお会いしましたが、その際にも取り組みが進んでいるという印象を受けました。アフリカ地域における再生可能エネルギー事業という観点で、モロッコは重要な立ち位置にあるのではないかと思います。
Ⅲ.JBICにおける制度改正 資料:P.6
本年1月、「株式会社国際協力銀行法施行令の一部を改正する政令」が公布・施行され、JBICによる先進国向け輸出(輸出金融)及び先進国向け事業(投資金融)の支援対象分野が拡充されました。先進国は、開発途上国に比べると民間金融機関でも対応できる分野が広いため、民業補完の観点から、法律上、対象分野が限定列挙されています。そこに、これまでのお客様からのニーズを反映し、いくつか対象分野を追加させていただいたものです。
第一に、水素の製造・輸送・供給・利用に関する事業の支援が可能となりました。水素には様々な製造方法がありますが、日本国内でも水素サプライチェーンを確立しようという動きが出てきています。最近、川崎重工業株式会社が「すいそ ふろんてぃあ」という液化水素運搬船の進水式を行いました。この船は、天然ガスをマイナス162度という低温で輸送するLNG船の技術を活用しており、水素をマイナス253度に冷却して液化し、輸送します。神戸市のポートアイランドにデモ水素発電プラントがあり、既に豪州から運ばれてきた水素を受け入れ、再気化して発電し、近郊の学校や病院に電力を供給しています。エネルギー資源に乏しい日本にとって、水素は脱炭素の時代における有力なエネルギー源になる考えられるため、日本政府としても水素事業には力を入れています。
この他、蓄電事業は、再生可能エネルギーの増加に合わせ、電力の安定供給のため必要となるバックアップ電源を確保するために必要となります。空港・港湾は、ロジスティクス/コネクティビティーの観点から重要性が増しています。植物由来の有機物を原料とする化学製品の製造については、具体的にはバイオプラスティックを想定しています。海洋プラスティックごみが問題となる中、これを植物由来の製品で代替するという流れを受けたものです。最後に、高度情報通信ネットワークとは、例えば5Gの整備等を指します。これは、従来から投資金融では支援可能でしたが、輸出金融にも追加したものです。
(参考)最近の特徴的取り組み 資料:P.7~9
最後に、参考として個別案件を2件掲載しています。
まず、ファンドを通じたオープンイノベーションの促進についてですが、昨年1月、JBICの子会社である株式会社JBIC IG Partnersが、北欧バルト地域の技術系スタートアップを投資対象とするファンドJB Nordic Fund Iを設立しました。本ファンドは、バルト地域最大のファンドマネージャーであるBaltCapと共同で設立・運営されています。戦略投資家としてオムロン株式会社、パナソニック株式会社及び本田技研工業株式会社の3社が出資参画しており、日本企業と同地域のスタートアップとの事業提携機会の提供にも取り組んでいます。
既に数件の投資を行っている中で、特徴的な案件を2件ご紹介します。Maas Globalは、いわゆる"Mobility as a Service"のコンセプトを世界で初めて実用化した会社です。アプリを介して、タクシーや公共交通機関、レンタカー、自転車等の多様な交通手段を一括で検索・予約・決済できるサービスを提供しています。ヘルシンキにおいて2017年にサービスが開始されており、この他に英国・バーミンガム、ベルギー・アントワープ、オーストリア・ウィーンの3都市でも既に導入されています。JB Nordic Fund Iの枠組みとは別に、三菱商事株式会社と三井不動産株式会社も出資しています。
また、フィンランドのCombinosticsは、バイオマーカー、認知テスト結果、ゲノム情報等の複数の診断結果を組み合わせ、神経科医による神経変性疾患(アルツハイマー病等)の診断を支援するソフトウェア技術を開発しています。独Siemensのグローバルなソフトウェアプラットフォームに組み込まれており、住友化学株式会社とGEヘルスケア・ジャパン株式会社の合弁会社である日本メジフィックスとも提携しています。
この他の特徴的取り組みとしては、日本板硝子株式会社による太陽光発電パネル用透明導電膜ガラス(TCOガラス)の製造・販売事業に対して融資しました。米国法人NSG Glass North America, Inc.(NSG GNA)及びベトナム法人NSG Vietnam Glass Industries, Ltd.(VGI)が実施するTCOガラスの製造・販売事業に対するもので、融資額は、協調融資総額約3億ドルのうち約半分にあたる約1億5,000万ドルです。本融資は、日本の産業の国際競争力の維持・向上とともに、太陽光発電事業に不可欠な基幹部品の供給を支援することを通じて、地球環境の保全に貢献するものです。