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石油価格暴落でプロジェクト計画が見直しに――。コロナによる“想定外”に立ち向かう国際協力銀行の存在感とネットワーク

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(この記事はキャリア支援プラットフォーム「Liiga」が掲載しているコンテンツの転載です。転載元URLhttps://liiga.me/columns/1288

世界的な人口増加や経済成長に伴うエネルギー需要の伸びに対応するため、各国の石油会社は、海底石油・ガス田開発を積極的に進めている。その海底石油・ガス開発で重要な役割を果たしているのが、洋上で石油・ガスを生産する船舶型の浮体式設備、FPSO(※1)だ。

2020年10月、株式会社国際協力銀行(以下「JBIC」)は、FPSOの建造と操業で世界トップシェアを誇る三井海洋開発株式会社(以下「MODEC」)がパートナー企業と出資するSPC(※2)との間で融資契約を締結した。この契約はブラジル沖合にある海底油田開発のためのFPSO傭船(※3)プロジェクトを対象としたものだ。

海洋資源開発分野での日本の国際競争力の向上や、将来の日本の資源確保にもつながる重要なプロジェクトだが、融資検討が本格化し始めたタイミングで新型コロナウイルスの流行が拡大。石油価格の暴落や建造スケジュールの遅れなど、想定外の出来事を乗り越えて契約締結にこぎつけた道のりを、プロジェクトメンバーの一人、木田智宏氏の話を交えて追った。

※1 Floating Production, Storage and Offloading systemの略。海底石油・ガス田のある洋上で石油・ガスを生産、船体内のタンクに貯蔵し、輸送タンカーへ積出する。
※2 Special Purpose Companyの略。事業内容が特定され、その特定の事業の目的のために設立された会社のこと。
※3 船舶を借り入れること。チャーターともいう。


〈Profile〉 木田 智宏(きだともひろ)
国際協力銀行 船舶・航空部第1ユニット
立命館大学卒業後、香港上海銀行(HSBC)に入行。COO直下でのプロジェクトの企画・運営、法人営業部外資系事業法人課での営業支援・計数管理、ミドルオフィス部門での顧客情報管理などを担当した後、2017年から事業法人部で日系事業法人のGlobal RMを担当。2019年に国際協力銀行に入行し、現在は船舶・航空部第1ユニットでブラジルやガーナにおけるFPSO傭船事業へのプロジェクトファイナンスを担当している。
※内容や肩書は2023年3月の記事公開当時のものです

新型コロナウイルスの世界的感染拡大で状況が一変。プロジェクトの見直しを迫られた

2020年2月、新型コロナウイルスの感染拡大が日本でも始まったころ、JBICで船舶や航空機などの融資案件を担当する船舶・航空部第1ユニットも、一気に慌ただしくなっていた。同ユニットでは、大型クルーズ船や旅客機関連の案件も手掛けているが、世界的にクルーズ船の運航がストップ。連鎖するように航空業界にも影響が広がっていた。

前年の秋に外資系銀行から転職し、同ユニットに加わった木田智宏氏はちょうどこのころ、ブラジル・リオデジャネイロ沖の海底油田FPSO傭船プロジェクトを担当することになり、コロナ禍がこの案件にどう影響するのか、状況をモニターしていた。

木田氏にとって、JBICでの案件組成は、この案件が初めてになる。「融資契約を締結するまでには、行内での承諾手続きと併せ、協調融資を行う他の金融機関やFPSOを建造・操業するMODEC、鉱区の開発主体であるブラジル国営石油会社ペトロブラスなどとの交渉を進める必要があります。初めての業務ではありましたが、JBICはMODECがブラジルで手掛けるFPSOの案件を、これまでにも10件ほど手掛けておりノウハウを蓄積しています。それらを参考にしながらなんとか進められるのではないかと思っていました」と振り返る。

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しかし実際は、木田氏の見通し通りにはいかなかった。ちょうど承諾に向けた動きが本格化し始めるタイミングで、新型コロナウイルスによるパンデミックが起こったのだ。影響は大きく、プロジェクトの先行きに影が差した。

世界的に経済活動が停滞したことでエネルギー需要が急減し、原油価格が暴落。「原油価格が下がってペトロブラスの業績が悪化すれば、MODECに対してFPSOの傭船料を支払えず、返済が滞るリスクが顕在化する可能性があるのです。プロジェクトに対する検討の見直しを迫られました」

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原油価格暴落。JBICのグローバルネットワークを通じて集めた情報で、冷静にリスクを分析して判断

予想外の事態は続き、2020年4月には原油価格がマイナスになるという異常事態まで起こった。マイナスの価格とは、原油の売り手が、買い手にお金を払って引き取ってもらう状態を指す。こうした状況で、本当に融資の行内承諾は得られるのか。

木田氏は上司とともにJBICの各地の駐在事務所にコンタクトを取り、情報収集に当たった。「ニューヨークの駐在員事務所から原油先物取引のマーケット動向についてレポートを送ってもらった他、リオデジャネイロ駐在員事務所からは、ペトロブラスが発表した情報をいち早くキャッチして共有してもらいました。あらためてJBICのグローバルネットワークの強みを実感しました」と木田氏は話す。

徐々に原油価格は持ち直し、5月に発表されたペトロブラスの2020年第1四半期決算からも、プロジェクト続行可能の見通しが立った。木田氏らは、同社の原油価格の予測や計上された損失引当額などを、他のオイルメジャーの決算見込みと比較するなどして、決算の数字が妥当かどうかを検討したという。

ただ5月というと、日本では初めての緊急事態宣言が解除されたばかりで先の見通しもまったく立たず、誰もが混乱の中にあった。しかし木田氏らは、集めた情報を基に冷静にリスクを評価し、コロナ後の将来も見据えた上で承諾に向けて前進可能と判断した。

日本企業の国際競争力強化や、将来の資源確保に寄与するプロジェクト

こうした判断の背景にあるのは、中長期的な視野で見たときの、このプロジェクトの重要性だ。日本では少子高齢化が進むが、世界に目を向けると人口は今後も増加を続け、特に途上国における生活水準の向上にともなってエネルギー需要は伸びるとみられている。

木田氏は、「脱炭素化は進むものの、再生可能エネルギーによる電力供給がすぐに既存施設と置き換わることは困難であることから、石油や天然ガスの需要は底堅いと予測されており、その増加分は海底油田から賄われると見込まれています。ただ、オンショアや近海の浅地の海底油田の開発余地は減少しており、沖合の水深2,000メートルを超えることもある大水深域にある油田に期待がかかる中、そうした油田の開発にも対応可能なFPSOの重要性は高いと捉えました」と言う。

そのようなFPSO市場で、石油・ガスの生産に関わるトータルサービスを提供する日本で唯一、かつ世界屈指の企業としてトップクラスのシェアを誇るのが日本企業のMODECだ。同社は1968年に創業し、長くFPSOを手掛ける業界のリーディングカンパニーで、ブラジルでの実績も多い。技術力も高く、最近のプロジェクトでは、トップサイド(原油・ガス生産設備)のデジタルツイン化や、操業に関係するビッグデータを収集してAI(人工知能)を用いた高度分析による予知保全を行うなど、デジタル化を推進して操業の効率化・最適化を図っている。

木田氏は、「FPSOの操業に関わる技術やノウハウなどを向上させることは、日本企業の国際競争力の強化につながります。またFPSOの技術は、日本近海の海底に眠るメタンハイドレートなどの海洋資源開発への転用の期待もかかっています。こうした、日本の産業全体を考えた視座の高さや、長期的な視野に立ったファイナンスができるというのは、やはり政策金融機関ならではだと感じます」と話す。

政策金融機関であるJBICの存在感を感じた出来事

このプロジェクトの融資は、日本や欧州などのメガバンクとの約9億6900万米ドルの協調融資で、JBICはこのうち約3億5200万米ドルを貸し付ける。「前職も金融機関でしたから、この金額は驚異的に感じました。それだけレンダー(融資銀行)としての存在感も大きいですし、他の関係者に対しても『JBICが参加しているなら』という安心感を与える『呼び水』のような存在になっていると感じました」

レンダーとしての存在感の大きさを感じた出来事として木田氏は、コロナ前、このプロジェクトを担当する以前に訪れたブラジル出張を挙げる。「2019年の秋に、役員と部長と3人でペトロブラスを訪問し、CFOにお会いしました。国営企業のCFOと今後の協業可能性について直接対話できるというのは衝撃でした。やはりそれだけ、先方から求められているもの、期待されているレベルが高いということを、まざまざと見せつけられたのと同時に、『それに応えなくてはならない』と気持ちが引き締まり、仕事へのやりがいを感じました」

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次々に降りかかる難題、コロナで造船所が閉鎖しスケジュールに遅れ

案件への着手早々にコロナ禍に見舞われた木田氏だが、畳みかけるように次々と難題が降りかかった。5月のペトロブラスの決算発表で融資の見通しは立ったものの、7月にはFPSOを建造していた中国の造船所がコロナ禍で1カ月間閉鎖。このため、当初7月に予定していた工程が10月にずれ込んでしまった。「造船所が閉鎖しただけでなく、物が届かない、物が届いても検査員がいない、など影響が広がり、1カ月の閉鎖で3カ月もスケジュールが遅れることになりました」

工期が遅れることで、どんなリスクが発生するのか。収益性や関係企業の業績へはどう影響するのか、関係する契約上の条項は何か、など、次々に確認事項が降ってくる。「ジャグリングのように、いろんなボールを同時にさばかなくてはなりませんでした。エクセルでタスク管理をしながら、ひたすら承諾や融資契約締結に向けて必要なパズルのピースを埋めていったという感じです」と木田氏は語る。

そして2020年10月には無事、融資契約が締結された。木田氏は「このころには、『自分が手掛けたプロジェクトなんだ』という“手触り感”を得ることができるようになりました」と振り返る。

しかし、木田氏の仕事はここで終わりではない。「もちろん、コロナ禍などのイレギュラーな対応があって大変ではありましたが、融資契約締結までのプロセスは、ある程度見通しを持って対応できるんです。しかしその後は、案件ごとに対応が異なるので、予想がつきません」と説明する。

実際にFPSOが稼働し始めるのは2023年4月の予定だが、今もまだ、新型コロナウイルスのリスクは消え去っていない。「既に、建造は佳境を迎えていますが、コロナ禍による中国の造船所の閉鎖で建造スケジュールに影響が出ていますし、今後同類の事態が発生する可能性はゼロとは言い切れないことから、モニタリングは欠かせません。JBICが融資している他のFPSOでは、乗務員の感染が判明し、船内で感染が拡大したことで操業が停止するということもありました。一度陽性が確認されると、船内での感染拡大リスクが懸念され、操業に影響を与えます。操業停止となると、プロジェクトが生み出すキャッシュフローが減少する可能性がありますから、返済に影響しかねません」

日本企業の海外進出支援、社会にインパクトを与える仕事…JBICで夢がかなった

木田氏にとっても、今回のFPSO案件は非常に印象深いものになった。「日本企業の海外進出を支援し、多くの人が関わり社会にインパクトを与える大きな仕事に携わることは、幼い頃からの私の夢でした。JBICに入ってやっと、そこに関わることができた。やはり、ここに来てよかったと思います」。木田氏はそう言い切る。

「案件組成を一つ経験したことで、JBICで手掛ける仕事の意義も、より深く理解できたように思います」とも話す。「JBICは、政策金融機関として中長期的な視野に立ち、日本や国際経済社会への貢献といった公益性を追求していかなければなりません。行内では『民業補完』と言っていますが、民間の銀行では補いきれないリスクや役割を担っているところにも、非常に大きな意義を感じます」

今後も引き続き、日本企業の海外展開を支援したいと語る木田氏。機会があればぜひ、海外の拠点でも働いてみたいという。「せっかくJBICに入ったのですから、海外の現場にも飛び込んでいきたいと思っています。そして、JBICという組織についてももっと理解を深めたい。そうすることで、提案内容のレベルを上げ、さらにそれを実現する力を高められるのではないかと考えています」

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