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2011年12月2日
- 国際協力銀行(JBIC、経営責任者:渡辺博史)*1は、「わが国製造業企業の海外事業展開の動向」に関するアンケート調査を実施し、本日結果を発表しました。今回の調査は、本年7月に調査票を発送し、7月から9月にかけて回収したものです(対象企業数977社、有効回答数603社、有効回答率61.7%)。本調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で23回目となります。
- 本年度調査では、「中期的海外事業展開見通し」や「海外事業展開実績評価」、「有望事業展開先国・地域」などに加え、「東日本大震災後のサプライチェーン」、「インフラの海外展開」についても調査を行いました。
- 本調査結果の要旨・トピックスは以下の通りです。
【要旨】
わが国製造業企業は国内市場の成長が見込めない中、中堅・中小企業も含め海外市場の成長を取り込むため海外事業の取組みを加速し、今後も一段と拡大する見込みである。
2010年度実績の海外事業の業績評価は、主にタイ、インドネシアを筆頭としたASEAN諸国等の堅調な業績に牽引され引き続き改善した。中期的有望事業展開先国において、中国では労働コストの上昇が最重要課題となり、インドではインフラの未整備に加え、法・税制などの具体的課題が浮き彫りとなった。また、インドネシア、ブラジルが、特に、人気を集めた。
震災によりわが国製造業企業の約7割が部品調達に影響を受けたものの、主に自社グループ内または日系他社からの代替調達にて対処した。また、震災はわが国製造業企業にとってサプライチェーンを見直す契機となった。なお、電力供給制約が長期化、深刻化する場合には、一部企業に国内事業の縮小を促す懸念がある。
わが国製造業企業にとってインフラの海外展開は、市場の成長性の高い新興国を中心に関心は高いが、現状、部品・部材の納入等を含めても参入済み企業は一部に留まった。今後の取組みも部品・機器の販売による展開が主流であり、運営・管理・保守まで取り組もうとする動きはまだ少ない。更にインフラの海外展開を進めるには現地ニーズへ対応し、信頼できる現地パートナーを確保すると共にコスト競争力を高めることが必要である。(調査報告PDF)
【トピックス】
(1)中堅・中小企業も含め海外事業の強化姿勢が鮮明となる。
一部に震災の影響もあり、国内事業の強化姿勢は過去最低水準(25.9%)に落ち込む一方、海外市場の成長を取り込むため海外事業を強化するとした企業は過去最高(87.2%)となり、中堅・中小企業を含め海外事業の強化姿勢が鮮明となった。海外生産比率及び海外売上高比率も一貫して上昇し、リーマンショック後、更に、海外展開が加速した。海外生産比率は今後も一段と上昇し4割に迫る見込みである(→4、12頁)。
(2)海外事業を強化する企業は国内事業も維持・強化する傾向にある。
海外事業を強化・拡大と回答した企業(506社)のうち、国内事業を維持すると回答した企業は303社、強化・拡大と回答した企業は142社であり、海外事業を強化する企業の約9割が国内事業を維持・拡大する姿勢である。なお、海外事業を強化し国内事業を縮小する動きが見られるが、これは海外生産志向の高い売上高が中規模クラスの一部の企業の動きを反映したものと考えられる(→12、14頁)。
(3)売上高、収益満足度は、国別ではタイ、インドネシア、業種では鉄鋼、石油・ゴム、自動車が好調。
2010年度実績の売上高、収益満足度共にリーマンショック後の落ち込みから順調に改善しつつある。国別ではタイとインドネシアが、業種別では、鉄鋼、石油・ゴム、自動車が好調であった。特に自動車は東南アジア諸国における改善が顕著であった。なお、今回の調査では今夏の豪雨により引き起こされたタイの洪水の影響は含まれていないものの、回答企業の半数近くがタイに生産拠点を有しており、わが国製造業企業の生産活動への今後の悪影響については引き続き注意が必要と見られる(→8、11頁)。
(4)中期的有望事業展開先国では中国、インドの得票率が頭打ちとなる。
中期的有望事業展開先国では引き続き中国が1位、インドが2位となったが得票率は頭打ちとなった。中国では法制運用などが課題とされる中、労働コストの上昇が課題として、より一層認識されている。インドでは、引き続き多くの企業がインフラの未整備を課題とするとともに、法制運用の不透明さ、徴税システムの複雑さなどの具体的な課題もインドの関心が高まるにつれ認識されつつある(→8、10、16~18頁)。
(5)新興国ではインドネシア、ブラジルが躍進。
中期的有望事業展開先国においてタイ、インドネシア等の新興国が順位を上げる中、具体的な事業計画を有する企業数でみると、特に、インドネシア、ブラジルの躍進が目立った。今後、日本企業の進出が更に活発化することが期待される。また、カンボジアがはじめて20位以内にランクインした(→15、24頁)。
(6)新興国を中心にM&Aの取組みが増加。
「M&Aへの取組み」が前回調査の36社から70社へ倍増した。増分(34社)のうち、新興国向けは21社であり、インド(6社増)、ブラジル(6社増)の寄与が大きい。なお、業種別では化学(17社)、食料品(16社)が活発であった(→28頁)。
(7)震災後のサプライチェーンの混乱を「調達先の変更なし」または「日系企業からの代替調達」で対処。
回答企業(603社)のうち部品調達に影響を受けた企業(422社)は7割を占めた。そのうち5割(212社)が調達先を変更せず、4割強(191社)が日系他社からの代替調達にて対処した。一方、一部なりとも外資系からの代替調達により対処した企業は部品調達に影響を受けた企業の約2割(95社)に留まった(→33、34頁)。
(8)震災を契機としたリスク分散方策は「サプライチェーンの見直し」が主流。
震災を契機としたリスク分散方策については、「サプライチェーンの全体像の把握」及び「調達先の複数化」が更に進展する一方、 「国内での複数の生産拠点の整備」、「海外工場への代替」は既に多くの企業で実施されており、震災を契機に新たに実施した企業は少数に留まった。なお、新しい取組みとして「在庫の積み増し」、「調達先にリスク分散を求める」動きもみられたが実施企業は一部に留まった (→35頁)。
(9)電力供給制約の深刻化、長期化は国内事業縮小の可能性も。
回答企業(603社)のうち約7割(429社)の企業が電力供給制約を深刻に受け止めたものの、今夏の電力供給制約下で事業展開見通しを現状維持とした企業も約7割(434社)に達した。しかしながら、電力供給制約が深刻化、長期化した場合には2割弱(113社)の企業が事業展開見通しを「今後修正する可能性がある」と回答し、そのうち殆どの企業が国内事業の縮小を示唆した(→35頁)。
(10)インフラの海外展開は約3割の企業が商機と認識している一方、既参入企業は一部に留まる。
インフラの海外展開を商機とする企業は回答企業(603社)のうち192社(回答比率31.8%)となったが、部品・部材の納入等を含めても参入済み企業は126社に留まった。一方、商機と回答した企業で未参入の企業は76社あり、商機と回答した企業の約4割を占める。分野別では再生可能エネルギーや水ビジネス等に関心が集まり、業種別では要素部品への期待から、主に化学、電機・電子関連の企業から関心が寄せられた(→36~39頁)。
(11)インフラの展開先国では市場の成長性の高い新興国が人気。環境関連事業分野では米国も有望。
旺盛なインフラ需要を背景に分野横断的に中国、インドだけでなく、ベトナム、インドネシア、タイ、ブラジルなど市場の成長性の高い新興国に人気が集まった。一方、先進国では、スマートグリッド、スマートコミュニティ、再生可能エネルギーなどの環境関連事業分野において米国も有望視されている(→40頁)。
(12)わが国製造業企業によるインフラの海外展開は主に部品・機器販売で対応。
参入済み企業が今後インフラの海外展開を進めるにあたり、多くは部品・機器販売で対応し、運営・管理・保守まで取組もうとする動きは少ない(→41~43頁)。
(13)インフラの海外展開の課題は「信頼できる現地パートナーの確保」、「現地ニーズへの適合」、「コスト競争力」。
特に、参入前は「現地パートナーの確保」、参入後は「コスト競争力の確保」が重要(→44、45頁)。
- JBICでは、今回の調査結果も踏まえ、国際的にも厳しい競争環境にさらされている日本企業の海外事業展開支援及び各国・地域の投資環境改善に向けた現地政府当局や関係機関との対話などを引き続き行っていく方針です。
別紙1:(抜粋)海外生産比率と海外売上高比率の推移
別紙2:(抜粋)中期的(今後3年程度)有望事業展開先国・地域