PROJECT最前線 日米豪印連携によるインドのコロナ関連ヘルスセクター支援
2022年5月に締結した、インドのヘルスケア分野の改善に向けた融資プロジェクト。日米豪印4か国の連携が形になった、これまでにない取り組みだ。プロジェクトを率いた三木田聖さんに聞いた。


インフラ・環境ファイナンス部門/社会インフラ部次長
三木田 聖 さん 1997年入行。ワシントン上席駐在員、日立総合計画研究所SI-PI推進室主任研究員等を歴任。グローバル市場の鉄道・都市交通・廃棄物発電・水事業等の案件と米国・カナダ等の国担当業務に従事する。一橋大学法学部卒業
JBICとしては初めてだったコロナワクチン製造関連の融資
「JBICが掲げる『日本の力を、世界のために。』というビジョンをそのまま形にできたプロジェクトでした」。そう力強く語るのは、インフラ・環境ファイナンス部門で社会インフラ部次長を務める三木田聖さんだ。インドでの新型コロナワクチン生産拡大などに向け、インド輸出入銀行を通じ、ワクチンや治療薬を製造する地場企業などを資金面で支えるプロジェクトをまとめ上げた。
「今回の融資は、ワクチンの製造企業だけでなく、医療機器の生産拡大や医療施設の整備といった分野にも及びます。コロナ禍のもと、資金支援によるインドのヘルスケア分野の底上げで、インドの経済発展を下支えし、インドに進出している日本企業のビジネス環境の改善も後押しします」とプロジェクトの意義を述べる。
インドはワクチンの世界的な製造拠点だ。広く東南アジアやアフリカなどにも輸出している。そのため、この融資に伴うインドでのワクチン供給能力の拡大は、インドのみならず、国境を越え、広く世界の人々の健康にも役立つことになる。
「私たちの役目は、ただお金を貸すことだけでなく、その先にある相手国や世界の経済発展のために何ができるのかを考えること。それを改めて思い起こしました。コロナ禍でワクチン製造関連への幅広い分野に対する融資はJBICとして初めてのことです」。三木田さんはプロジェクトの広がりを振り返る。
このプロジェクトの特色の1つが日米豪印(QUAD)の連携強化という外交上の課題を、インドのヘルスケアセクター支援という実践的な協力で進めることができた点だ。日本の政策金融機関であるJBICだからこそ取り組めたプロジェクトと言える。

現在も新型コロナワクチンのブースター接種率が20%を切るインド。支援ニーズは引き続き大きい
コロナ禍で現地に赴けないなか、5時間のオンライン会議も
QUADは「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、幅広い分野で協調し、地域に貢献することを掲げている。2021年3月に開催された初のQUAD首脳会合(オンライン形式)で、4か国は新型コロナ対応を「最も喫緊の地球規模の課題」と位置付けた。その中で、インドのワクチン製造能力の強化に向け連携し、JBICなど各国金融機関を活用することで合意していた。
そのため意義の大きいプロジェクトだったが、政府レベルでの協調を進めるといった点で政治力学もからみ、多面的に交渉を進める必要もあった。「難しい半面、政策金融機関としての業務の面白みを肌で感じたプロジェクトでした」
融資先であるインド輸出入銀行との契約の細かい交渉に加え、QUADの枠組みにおけるこの融資の位置付けについて、米国との協議も不可欠だ。
コロナ禍で現地に赴くことができないなか、融資契約の締結直前は、インド輸出入銀行の担当者と連日5時間を超えるオンライン会議を続けた。ニューデリーで勤務するJBIC駐在員らの現地での丁寧な交渉も功を奏し、22年5月、東京で開催されたQUAD首脳会合に合わせて、契約締結にこぎつけた。

プロジェクトについて語る三木田聖さん
地方銀行の海外展開をサポート。インド融資拡大のステップに
今回の融資は、JBICと三菱UFJ銀行、八十二銀行及び京都銀行との協調融資だ。地銀の海外進出をサポートするというJBICの役目について、三木田さんは次のように語る。
「海外に多くの拠点を持たない地銀にとって、単独で海外ビジネスを展開するにはリスクがあります。まずは政府系金融機関と手を組み、地銀からの融資にJBICが保証を提供する協調融資という形で、海外展開の道筋をつけてもらえればと思います」
ビジネス拡大に向け海外に視野を広げる、あるいは、地元企業の海外進出を支援するためといった、さまざまな目的で海外に目を向ける地銀が増えている。今回は、地銀のインドでのビジネス展開の機会拡大を促進する形ともなった。

プロジェクトメンバーの一人、古屋俊洋さん。三木田さんのリーダーシップのもと、インド輸出入銀行との厳しい交渉をやり抜いた。「地政学や国際政治にも関わる意義深いプロジェクトでした」と振り返る
インドへの融資プロジェクトは5年ほど前まではほとんどなかったが、ここ最近、インド側のガバナンス強化などにより、案件数が増えている。インドは経済成長に電力需要が追い付いておらず、石炭火力発電への依存度も高いなど課題は山積している。今後、インドが脱炭素化などを進めるなか、再生可能エネルギー分野をはじめ、情報通信や農業といった分野でもJBICの出番が増えるかもしれない。
今回の融資は、外交面でのQUAD連携強化、そして日本の地銀の海外展開も含む、さまざまな成果を生み出した。
「このプロジェクトは伸びしろがあるインドへの金融支援に向け、新しい道を切り拓いたとも言えます。これからも日本の技術力といった強みを生かし、出融資というメニューを使って、インドの課題に寄り添っていきます」。三木田さんは、この先を見据えている。

JBICインフラ・環境ファイナンス部門 社会インフラ部 次長の三木田聖さん(左)と、インフラ・環境ファイナンス部門 社会インフラ部 第1ユニット長代理(調査役)の古屋俊洋さん(右)