わが社のグローバル展開 株式会社フジックス
顧客の要望に果敢に挑み、研究開発を重ねることで、自社製造の多品種化を実現。米国・中国に加えてベトナムにも進出、労働集約的な量産体制を構築し、グローバルな安定供給と生産拡大を追求する。


株式会社フジックス/代表取締役 中込雅晴さん 成蹊大学卒業後、自動車部品卸売業での業務を経て、父が創業した株式会社富士ホーン製作所(株式会社フジックスの前身)に入社。1985年に代表取締役に就任。自ら海外の現地法人に足しげく赴き、現地のスタッフと密接なコミュニケーションを重ねる。
自動二輪車用クラクションから転換、取り扱い製品数は6万点にも
自動車、産業ロボット、家電製品から、その製造工程で使われる機器に至るまで、あらゆる電気製品には、その内側のさまざまな部品に電力や電気信号を伝えるために、ケーブルやコネクターなどで構成されるワイヤーハーネスが使われている。人間の体でたとえると、血管や神経に相当する重要な部品だ。
このワイヤーハーネスを主力製品として製造・販売するのが株式会社フジックス。1951年に自動二輪車用クラクションの研究開発と販売を手掛け、創業した。高度成長期を経て、自動二輪車産業にも陰りが見え始めた頃、取引先の半導体メーカーから、自動二輪車用のハーネス関連製品について相談を受けたことがきっかけとなり、自社生産を開始した。
「クラクションの生産過程でもハーネス関連部品を扱っていましたから、その知見も生かし、先を見据えて、先代の父が汎用性のあるワイヤーハーネス事業に取り組んでいこうとしたのです」
そう語るのは、2代目の中込雅晴代表取締役だ。事業拡大の矢先、先代を亡くし、30代で会社を継いだ。先を見極める先代の姿勢を受け継ぎ、事業の継続性をにらんで、ゴム製造や産業機器関連の放熱技術などの研究開発を進め、ワイヤーハーネスのみならずゴム製品、アルミダイカスト部品などへと道を切り拓いてきた。
今や扱う製品数は6万点に上る。顧客からは、「製造品目からして中小企業としては、5社が集まった規模の組織内容ではないか」と言われている。
「顧客のニーズに応え、新しいアイデアを提案し、常に自分たちにしかできないことは何かを考えながら対応するようにしています」と語る中込代表取締役のモットーは、前のめりにでも挑戦をして、成果で顧客の期待を裏切らないことだ。新しい製品の製造は一朝一夕には実現しない。
しかし、顧客に「できない」とは言わない。顧客の要望に応えるため、やりきる。そうして研究開発を重ねることで、実績を築いてきた。

「お客様の期待を常に超えてゆくことで企業としての価値をさらに高めていきたい」と笑顔で語る中込代表取締役
顧客第一主義を胸に海外へ。環境規制に適応したモデル工場に
海外進出においても、顧客への迅速で的確な対応を貫く「顧客第一主義」が根底にある。自動車部品に関する新しい情報収集を目的に、また顧客が生産拠点を米国・シカゴに構えたことも受けて、2002年、同地に現地法人を設立した。同じ頃、受注量の拡大により日本の生産拠点だけでは追い付かなくなっていた。
「当社のような労働集約的な仕事で生産能力を上げるには、日本だけで生産を続けていては成長が見込めない」と判断。同じく02年に、中国・上海に隣接する江蘇省に独資で生産拠点を設置した。
大量生産とコスト削減を図りながらも、品質は落とせない。「中国では最初は言葉も通じず、製品の絵を細かく描きながら、ノウハウを伝えました」と当時の試行錯誤を振り返る。コミュニケーションの難しさを痛感しながらも根気強く向き合い、現地の文化の理解にも努めた。地方出身の現地従業員には、福利厚生面でサポートするなど親身になって付き合い、信頼関係を築いていった。
今では、設立当初から共に仕事をしてきた現地従業員は幹部となって日本語を習得し、不自由なくやりとりする。社内で一貫して技術指導を進めていった結果、その生産技術は今や日本を凌ぐレベルに到達した。
中国の環境規制に対応するため、17年には同じ江蘇省の南通市に新たな生産拠点も設置。JBIC からの融資も後押しし、工場の自動化も進めるなかで、環境モデル工場の認証も受けた。

中国でも生産を拡充してきた(写真は2017年設立の中国現地法人の富海精密電子工業(南通)有限公司)
コロナ禍での苦い経験を機に。地政学リスクの分散へ
「コロナ禍で、上海では3カ月のロックダウンに直面しました。わずか100m先にある材料メーカーとの行き来もできない状況で顧客への供給が満足にできなくなったのです」
この苦い経験から、中国の生産拠点に依存して、グローバルに存在する顧客に向けて製品を提供する、というビジネスモデルの危うさを痛感。地政学リスクを分散させるため、人口増が見込まれ、親日的でもあるベトナムでの生産拠点の設置に動いた。

ベトナムの生産拠点を取り仕切るのは、ご子息であり常務取締役の中込佑介さん(左)
サプライチェーンの強靱化に向けて、ベトナム工場は24年10月にも稼働開始を予定する。ここでも JBIC の融資を活用し、生産能力の拡大を進める。ベトナム工場は今後3年を目途に、中国の生産体制と同等の品質と供給力を目指す。
「日本ではさらなる顧客のニーズを開拓し、少量多品種の生産に特化。中国とベトナムでは労働集約的な量産体制を構築し、グローバルに展開する日本の顧客への安定供給を図る。このバランスが大事です」と力を込める中込代表取締役。そのためにも、まずはベトナムでの生産拠点の立ち上げに向けて邁進する日々だ。

主力製品のワイヤーハーネス(写真左上)では自動車、産業機器など各種分野に最適化した部品形状を提供。ゴム・絶縁紙(写真右上)、樹脂成形品(写真左下)、アルミ部品(写真右下)など多様な製品へと生産品目を拡大する
株式会社フジックス
1951年 | 創業 |
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2002年 | 米国シカゴにFUJIX USA,INC.を設立。中国江蘇省昆山市に昆山富通電子有限公司を設立 |
2011年 | 中国遼寧省瀋陽市に瀋陽富光電子有限公司を設立 |
2017年 | 中国江蘇省南通市に富海精密電子工業(南通)有限公司を設立 |
2023年 | ベトナムにFUJIX ELECTRONIC VIETNAM COMPANY LIMITEDを設立 |
2023年12月、フジックスとの間で、融資金額570万米ドル(JBIC分)の貸付契約を締結。三菱UFJ銀行との協調融資。フジックスのベトナム法人FUJIX ELECTRONIC VIETNAM COMPANY LIMITEDが実施する電気部品の製造・販売拠点の設立への支援を通じて、日本の産業の国際競争力の維持及び向上に貢献する