特集 日本の地銀、世界へ
地域に根付く地銀と海外ネットワークを有するJBICは、相互に強みが異なるため補完関係にある
JBICと地銀の連携は、各種金融支援メニューに加え、現地の情報提供、人材交流など多岐にわたる
日本が人口減少に直面するなかで海外進出支援は、JBIC、地銀、企業の3者にとり価値ある取り組み


「銀行名からするとイメージしにくいかもしれませんが、当行は全国の地方銀行との連携強化にも注力して取り組んでいるんですよ」。こう話すのは、JBIC中堅・中小企業ファイナンス室の井上真紀子さんだ。東日本地域の企業の海外進出などを担当している。
JBIC大阪支店で、同じく西日本地域の企業の海外進出を地銀と連携して推進する有田淳介さんも「地方の中堅・中小企業の海外進出支援に際しては、各地域の地銀との連携が不可欠なんです」と口をそろえる。

(左)JBIC 産業ファイナンス部門中堅・中小企業ファイナンス室 第2ユニット長 井上真紀子(いのうえ・まきこ)さん、(右)JBIC 産業ファイナンス部門大阪支店 中堅・中小企業ユニット長 有田淳介(ありた・じゅんすけ)さん
地銀が持つ地方企業との信頼。JBICの海外知見とノウハウ
アジアを中心とする新興国の経済成長に伴い、大企業のみならず中堅・中小企業の中でも、海外でのビジネス拡大を目指すニーズはますます高まっている。一方で、日本企業の99%以上を占める中堅・中小企業の多くが地方に拠点を構えている。業種や規模、事業特性も多岐にわたる中堅・中小企業の海外進出ニーズに応えるには、長年の信頼関係を築き、その実情に精通する地銀との連携が欠かせない。
「日本企業の技術や品質は海外でも高い評価を受けています。地銀はそうした企業についてよく知っており、抱える課題や必要なソリューションも把握しています。その地銀の強みと、海外プロジェクトに関するJBICのノウハウやネットワークを掛け合わせることで、中堅・中小企業の海外進出のニーズに応えることができるのです」と井上さん。

「地域に密着して支援する地銀を通じて、まだ世の中に広く知られていない優れた技術を持つ、地方の企業を世界へ送り出す役割を担いたいですね」と笑顔で語る井上真紀子さん
実際、JBICでは、通常の協調融資スキームや現地通貨建て融資に加え、地銀を通じたツーステップローンにより、地方拠点の中堅・中小企業向けの融資支援策を整備している。中堅・中小企業向けに連携して協調融資を行った地域金融機関数(残高のあるもの)は、2024年3月末時点で52機関に上り、過去10年で2倍以上に増加した。北海道から九州まで、全国の地銀と連携している状況だ。
融資だけでなく、中堅・中小企業向けのさまざまな支援も行っている。海外投資セミナーや投資環境に関する情報提供、法務・税務会計アドバイザリーサービスの提供などだ。また、世界18カ所に駐在員事務所があり、現地の情報を基にしたローカルなアドバイスを行うこともある。
「特に海外拠点が限られる地銀が多いので、こうしたJBIC駐在員事務所によるサポートは重要な役割を果たしています。連携する意義を感じていただきやすいかなと思います」(井上さん)
さらにJBICと地銀の間では人的交流も行われている。地銀からJBICへの出向を通して、海外案件を実施するために必要なスキルやノウハウを学んだ経験は、出向元に戻った後も貴重な糧になる。有田さんは貢献度の高さをこう話す。
「出向期間は通常2年間ですが、複数期にわたり継続して出向者をアサインしてもらっている地銀も多いです。JBICとしても、出向者が地銀に戻った後、海外案件のカウンターパートとして活躍されることで、中堅・中小企業の海外進出をスムーズに推進する役割を担ってくれるメリットがあります」


JBICと地銀等の協調融資において、残高を有する地域金融機関数は2013年度末時点の21機関から2023年度末には52機関に拡大した
拡大する海外進出企業の幅。高まるインド市場への期待
地銀と連携して支援する企業の業種は、日本の産業構造を反映しており、これまでは製造業がその大半を占めてきた。しかし、近年は国内の産業構造の変化により、飲食業などのサービス業の例も出ている。
支援する中堅・中小企業の進出先としては、タイ、ベトナム、インドネシアなどの東南アジアの国が多い一方で、最近はインドへの進出に関する相談が増えている。
「高いハードルがあることは認識しつつも、いずれはインド市場に進出しなければならないと考える中堅・中小企業が増えてきている印象です。インドに拠点を構える地銀はありませんが、首都ニューデリーにはJBICの駐在員事務所があり、現地通貨での融資にも柔軟に対応できます。企業のニーズを地銀が汲み取り、必要なサポートをJBICが行う連携が、今後インドでも増加するのではないかと見ています」(有田さん)

「中堅・中小企業の経営者は会社のみならず従業員、さらにはその家族の人生までにも責任感を持ち奮闘されています。そうした生き様を持った方々に地銀を通じて会えるのはとても幸せですね」と穏やかに語る有田淳介さん
地銀との連携の意義について井上さんはこう強調する。「企業規模の大小に関係なく、人口減少が加速する日本に留まっているだけでは企業として成長の限界が少なからず生じてきます。メインバンクとなる地銀も、国内ビジネスを超えて海外に目を向ける必要があるでしょう。そうした両者の真剣な姿勢を、JBICのリソースで支援することに多大な価値を感じています。JBICを加えた3者にとって、手応えのある取り組みだと思いますね」
さらに有田さんも続ける。「地銀を通じた中堅・中小企業の支援では、短期間で多くの案件に対応することが求められます。案件ごとに必要とされる要件や要素はさまざまで、常に有形無形のカスタマイズが必要です。こうした地銀との連携による経験は、案件形成のプロセスにおいて重要な学びとなり、JBICの地域理解や対応力の向上に寄与しています」
JBICと地銀の連携した支援により成功体験を得た企業が、再度その仕組みを活用したいと希望するケースも少なくない。今後もJBICは日本の政策金融機関として、地銀との連携を強化し、中堅・中小企業を含めた日本企業の海外事業展開を金融面からサポートしていく。


JBIC 産業ファイナンス部門
中堅・中小企業ファイナンス室 第2ユニット長
井上真紀子(いのうえ・まきこ)さん
2007年入行。大阪支店、審査部、管理部等を経て、19年10月に中堅・中小企業ファイナンス室に配属。23年11月より現職


JBIC 産業ファイナンス部門
大阪支店 中堅・中小企業ユニット長
有田淳介(ありた・じゅんすけ)さん
2008年にキャリア採用で入行。米州ファイナンス部、鉱物資源部、経営企画部等を経て、21年6月より現職