特集スタートアップ支援が拓く未来
九電グループの海外事業会社キューデン・インターナショナルは「投資家」の顔も持つが、その狙いは何か。欧州の新興企業に注目し、投資ファンドNordicNinjaからの紹介で独企業に投資をした同社は、協業から新規事業のタネを育てることを重視している。
投資した独スタートアップ「LiveEO」のチームが九州を訪れ、九電グループ側のメンバーと佐賀の山中で現場検証を行った。「私たちが目指すスタートアップとの関係性」と荒木さん(前列左端)
欧州スタートアップに注目し、オープンイノベーションを模索
日本の事業会社が未上場の新興企業に投資を行う例が増えているが、その目的はさまざま。九電グループの海外事業会社として、アジアを足がかりにエネルギーソリューション事業を展開するキューデン・インターナショナル(福岡市)の場合、「新しい技術やビジネスモデルを探索し、パートナーシップを通じて事業のタネを育てること」がミッションだと、同社イノベーション室の荒木敏郎室長は語る。
近年は北米・欧州へと視野を広げる同社で、発足後約5年のイノベーション室は海外投資や新規事業創出に挑んでいる。なかでも注目しているのが欧州のスタートアップだ。
2023年に北欧スタートアップ投資ファンドであるNordicNinja VCに出資したのを契機に、外部のアイデア・技術を積極的に採り入れるオープンイノベーション型の探索を本格化した。同ファンドからDXやサステナビリティに秀でた数十社を紹介され、学びを得ながら、協業機会の獲得を狙った。「NordicNinjaの洞察力や決断力、投資先を信じ抜く姿勢に刺激を受けました」(荒木さん)
そこから25年春に投資と業務提携に至ったのが、人工衛星データをAI技術で解析し、インフラ設備の点検・監視や森林伐採の効率化に役立てるドイツのスタートアップ「LiveEO」だ。九電グループの送配電事業の現場に提案、保守の安全性・生産性向上ニーズと噛み合い、実証に進んだ。山間部に多い送電線の保守管理には今も人力に頼る部分が少なくないという課題があるためだ。
荒木さんは言う。「(当社のような)インフラ企業は新技術の本格採用に慎重な傾向がありますが、まずは小さく試し、価値を確かめるという第一歩を現場が受け入れてくれたことが大きいですね」
海外スタートアップとの連携において、大切にしているのは「目的の明確化。何のためにつながるのか、どんな価値を一緒に生み出したいのかを共有することです」と語るキューデン・インターナショナルのイノベーション室長 荒木敏郎さん
独スタートアップ「LiveEO」と「一緒に汗をかく」関係性を築く
印象的なエピソードがある。佐賀の山中、真夏の豪雨に打たれながら、送電線と周辺樹木のリスク評価結果を九州電力送配電の保全高度化チームとLiveEO、イノベーション室の混成メンバーが一緒に検証して回った。単なる資金の出し手・受け手を越え伴走する関係性の構築を重視する同社にとって「一緒に汗をかく」言葉どおりの現場共創となった。現在は九州から日本市場全体への展開、共同販売の仕組みづくり、鉄道など他インフラへの横展開も視野に入る。
この他にも、マイクログリッドや太陽光発電など米欧・アジアのスタートアップに投資をしてきた同社だが、投資方針は明快だ。財務リターンのみを重視するCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)もあるなか、戦略リターンと両輪で捉え、イノベーションを起こすべく模索を続ける。日本の大企業がスタートアップ投資を行う際の1つのモデルだが、こうした協業が企業の変革につながるのかもしれない。
株式会社キューデン・インターナショナル
企画本部 新規領域部 イノベーション室長
荒木敏郎(あらき・としろう)さん
1994年に九州電力株式会社入社。技術職として長く送配電事業に携わり、自治体や企業と連携する地域エネルギーマネジメントなどに従事後、2023年から現職





