特集スタートアップ支援が拓く未来
スタートアップ投資への本格参入、起点となった2017年の民間企業との投資アドバイザリー会社の共同設立
欧州でのファンド設立を通じ、スタートアップ投資ノウハウを蓄積、日本発のオープンイノベーションを後押し
JBIC法改正により、国内スタートアップへの投資が可能に。新設の投資委員会のもと、新たな支援スキームが始動
投資活動の起点となる合弁会社。民間との協働で開く新領域
「前例のない取り組みをゼロから形にしていく。達成感は大きいです」。JBIC常務取締役としてエクイティファイナンス部門および資源ファイナンス部門を所管し、スタートアップ投資委員会委員長、さらにJBIC IG Partners(JBIC IG)の取締役も務める内田は、自身が立ち上げ段階から携わってきたスタートアップ投資活動をこう振り返る。
海外インフラや資源開発の他、日本企業の海外展開支援に対し、融資や出資による支援を主軸としてきたJBICであるが、近年ではスタートアップ投資にも積極的な姿勢を見せている。
その始まりとなったのが、2017年に海外投資に特化した投資アドバイザリー会社「JBIC IG Partners(JBIC IG)」を、戦略コンサルティング会社の経営共創基盤(IGPI)と共同で設立したことだ。
JBIC IGの設立は、JBICにとって初の外部パートナーとの合弁会社の設立による投資プラットフォームの構築であり、IGPIの企業価値向上における知見とJBICの国際金融ネットワークを融合させることで、投資現場での実務を通じてリスクマネー供給のノウハウを蓄積することができた。
制度づくりの起点となったJBIC IGの設立と、民間企業との共同運営体制の確立は、前例のない挑戦だった。まさに手探りの連続だったと内田は振り返る。
「人への向き合い方も、大企業との関係とは異なります。ベンチャーキャピタル(VC)の運営は『個の集合体』で動く世界です。共同運営パートナー、現地チーム、そして投資先ファウンダーとの信頼関係が成否を左右します。異文化や言語の壁も含め、相互理解に時間とエネルギーを注ぐ重要性を痛感しました」
「欧州にはまだ米国シリコンバレーのようなスタートアップの拠点がない。だからこそ北欧から、新たなハブづくりに挑んだのです」と語るJBIC常務取締役の内田 誠
欧州向けファンドを相次ぎ設立。日欧連携で磨く現場力
JBIC IGの大きな成果の1つが、19年に誕生した北欧向けVCファンド「NordicNinja VC」である。内田は、「JBIC IGを介してNordicNinjaを立ち上げましたが、JBICにとっても未経験の領域でした。このNordicNinjaで得た知見がとても大きかった」と、この取り組みの意義を振り返る。
同ファンドは、北欧・バルト地域のスタートアップ企業に対し、日本企業との協業を促進することを目的に設立された。クリーンテック、モビリティ、デジタル分野などで複数の有望企業に投資を実行し、日本の技術や企業ネットワークを現地の成長企業と結びつける、日欧連携モデルの先駆けとなった。
この経験を踏まえ、23年には中東欧地域のスタートアップ企業への投資を目的とするVCファンド「ff Red & White」を設立。同ファンドは、中東欧発の産業DX・自動化・省力化などに取り組むシード・アーリーステージ(起業前・事業開始直後)企業を主な投資対象とし、同時に日欧の事業連携を行う。米国ニューヨークを本拠地とするff Venture Capitalと共同運営体制を構築し、ポーランド人と投資チームを作っており、チーム形成や投資判断力をさらに磨いた。
北欧のイノベーション拠点であるフィンランド・ヘルシンキに本社を構えるNordicNinja。多様性とサステナビリティを軸に、欧州と日本のスタートアップをつなぐ
スタートアップ投資においても、JBICがこれまで培ってきた強みを存分に発揮できると、内田は自信をのぞかせる。
「投資活動のように不確実な領域では、言語の違い以上に異文化の壁が大きい。現地に根ざした人材と一体的に運営できるかが分水嶺となります。日本人だけのチームでローカル市場に深く入り込むのは限界があるからこそ、現地拠点やパートナーとの協働は前提と考えています。実際に、NordicNinjaもff Red & Whiteも、現地メンバーとの混成チームになっています」
ここで生きてくるのが、JBICが誇る海外案件への対応力、世界18拠点に広がるネットワーク、政策・産業情報の分析力だ。
「投資先と大企業との協業機会を具体的に結びつけられる点が評価されています。日本企業のオープンイノベーションと、海外の有望スタートアップを橋渡しする『実働の回路』を提供できるのはJBICの強みです」
ポーランド・ワルシャワを拠点に活動する ff Red & White。歴史と再生を象徴するこの都市から、次世代技術の芽を掘り起こしている
法改正で広がる支援。国内投資へ備えた体制整備
22年初め、当時の岸田政権が「スタートアップ創出元年」を掲げ、スタートアップ支援を国家成長戦略の柱に据えたことを受け、JBICでも制度面での整備が進んだ。
23年4月にJBIC法が一部改正。改正により国内スタートアップ企業への直接出資が可能となった。
同年10月の改正法施行を踏まえ、JBIC内部でも制度運用の具体的検討が進められた。最適なスキーム設計、投資領域の設定、スピーディーな意思決定プロセスの確立を目指し、1年をかけて検討を重ねた。その結果、24年10月に「スタートアップ投資戦略」を策定し、同時にその実行を担う投資チームを組成するとともに「スタートアップ投資委員会」を設置した。
「欧州でのVC運営を通じて培った知見は、日本のスタートアップ・エコシステムに還流させる貴重な基盤となっています。海外投資で得た経験と教訓が、今後の国内投資においても大きな武器になるでしょう」と内田は見通す。
出資スキーム概要
信頼とエネルギーがカギ。世界で勝ち切る投資を目指す
投資は件数ではなく中身。成功案件を積み上げてこそ意味がある、と内田は語る。「目利き力」を磨く上で、腹を割って信頼関係を築ける相手かを見極める姿勢を重視する。
「経営者・ファウンダーに会う際は、『信頼』と『エネルギー』の有無を確認します。誠実に経営に向き合っていることはもちろんですが、どれだけの熱量で、どんな視野で、どう人と組織を動かすか。技術力はもちろん、PMF(プロダクトマーケットフィット)や価格設計、量産・品質、チームビルディングなど、経営の現実を乗り越える力を見ています」
ゼロから形にしていく達成感は大きい。その一方で、関係者との合意形成、現地との信頼構築、行内の意思決定を同時並行で進めるには、相当なエネルギーを要する。それでも、前例のない挑戦の連続の中で、確かな手応えを感じている。
NordicNinjaは19年の1号ファンド以来、23年に2号ファンドを設立、ff Red & Whiteも同年に始動。複数案件でのエグジット(IPOやM&Aによる投資資金の回収)も視野に入ってきている。
「NordicNinjaの知名度が欧州で上がるにつれ、日本企業からの照会も増えています。投資先の質が評判を呼び、良質な案件や情報がさらに集まる好循環が生まれている。日欧の両面でシナジーを最大化していければと考えています」
内田が期待を寄せるのは、次代を担う若手人材だ。長期的な投資活動を見据え、スタートアップ投資チームには20代、30代の職員を含めた構成としている。士気も高く、挑戦の機運が広がる。
JBICの長い歩みにおいて、スタートアップ投資の挑戦はまだ始まったばかりだ。
「ユニコーンを本気で生み出す投資を、愚直に積み上げていくこと。市場から評価されるように、勝てる芽に資源を集中し、世界で勝てるスタートアップ企業を育成していきたい」と、内田は前を見据える。日本発のオープンイノベーションが、より広く世界で価値を発揮できるよう、支援を続けていく。
JBIC 常務取締役
内田 誠(うちだ・まこと)
民間の金融機関勤務を経て、2002年に入行。経営企画部長、インフラ・環境ファイナンス部門長、エクイティファイナンス部門長などを歴任し、24年6月から現職。スタートアップ投資委員会委員長、JBIC IG Partners(JBIC IG)取締役。早稲田大学政治経済学部卒業





