特集スタートアップ支援が拓く未来
TeraWatt Technologyの日本国内における生産拠点。国内製造によるサプライチェーン強化とエネルギー安全保障への貢献が期待されている
研究と製造の一体化を実現
「これからの勝負は量産力に移る」。次世代リチウムイオン電池の開発を行うスタートアップ、TeraWatt Technology (テラワットテクノロジー)共同創業者兼CEOの緒方 健さんはこう指摘する。
1991年にソニーが商品化して以来、ノートPCやスマホに搭載されるリチウムイオン電池は、改良を重ねて成熟の段階に達した。
「これからの時代に求められる電池は、ニッチで高単価なプレミアム品ではなく、高性能でありつつもコモディティを前提とした価格競争に耐えうる電池です。今求められているのは『高性能な電池を安く、安全に、大量に作る』ための製造技術です」と緒方さんは断言する。
緒方さんは東京大学で材料工学を学び、ケンブリッジ大学で博士号を取得。同大学でリサーチフェローとして次世代電池の研究に従事した後、2014年頃、シリコン電池への関心が高まり始めたことを機に、外資系大手電池メーカーへと転じた。その際に痛感したのは、研究と製造の間に横たわる大きな隔たりだった。
「従来型のリチウムイオン電池であれば、研究成果を工場に渡せば量産できました。しかし次世代電池では、装置やプロセスそのものが刷新されるため、研究と製造の現場がまったく噛み合わない。この課題に対応するため、当社では開発エンジニアと生産技術エンジニアを分断せず、同じチームとして編成しました。世界的にも希少な第一線のエンジニアを集結させるために泥臭い採用活動も必要でしたが、結果として競争力の向上につながりました」
米国に本社を置き、20年に創業した同社は資金調達やガバナンスをグローバルに設計できる点が強みだ。一方で日本国内には開発・生産拠点を構え、ものづくりの強みを生かしている。
市場は二輪・四輪EVのほか、ドローン、定置用蓄電池など、地政学的重要性の高い用途も視野に入れる。5年をかけて、従来よりも大幅に軽量・小型・高出力で、安全性にも優れたリチウムイオン電池を安価に大規模製造できる技術を実現した。
企業連携が支える世界展開
同社は、新設計電池の開発から量産までを一気通貫で行える複数の国内拠点を整備し、各拠点で生成される全データを内製の「AI×電池」プラットフォーム「テラスペース」上で同時並行的に処理する体制を構築。25年7月にはJBICも出資し、この取り組みを後押し。
リチウムイオン電池は地政学的要素が強く、各国が自国生産を重視している。日本ももちろんその例外ではない。グローバル展開に向けた企業間ネットワークの形成において、JBICへの期待は大きいと緒方さんは語る。
「驚いたのは、投資家や産業界との関わりの広さと深さです。JBICを介して、より良いパートナーシップを築きながら、リチウムイオン電池の世界市場を牽引する中国・韓国・日本の中で、より確かな存在感を発揮していきたいと考えています」
成熟の限界を迎えた電池産業の革新に、研究と製造を一体化する抜本的な仕組みで挑む同社。安価、軽量、小型、かつ高い安全性を備えた次世代リチウムイオン電池は、EVや定置用蓄電池といった循環型社会実現のためのキー技術だ。その挑戦は、脱炭素社会の実現に向けた確かな一歩となっている。
TeraWatt Technology Inc. 共同創業者兼CEO
緒方 健(おがた・けん)さん
東京大学工学部卒業。ケンブリッジ大学で博士号取得。同大学でリサーチフェローとして次世代電池の研究に従事し、海外大手電池メーカーで開発に携わった後、同社を2020年に創業。第22回「Japan Venture Awards」にて、科学技術政策担当大臣賞を受賞





