PROJECT最前線 英国とドイツを結ぶノイコネクト国際連系線プロジェクトファイナンス
再生可能エネルギーの普及に伴い、送電線を各国で結び電力を融通できるようにする国際連系線の事業が拡大。多種多様な機関が参画し、複雑で難航を極めた交渉に挑んだ岡部舞さんに聞いた。


インフラ・環境ファイナンス部門/電力・新エネルギー第1部 第2ユニット/(欧阿中東及び米州担当)主任
岡部 舞 さん 2006年入行。米州ファイナンス部でメキシコ向け発電部品の輸出、米州国担当業務と中東・欧州での発電・造水案件に従事する。上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。学生時代はフラメンコサークルに所属
英独蘭日4か国、関係機関は約30。複雑で壮大なプロジェクトを組成
英国ロンドンで2022年11月に開催されたプロジェクトの式典で、オンラインで交渉を続けてきた各国の関係者が初めて対面。インフラ・環境ファイナンス部門でプロジェクト担当を務めた、岡部舞さんの姿もそこにあった。
時差もあり昼夜を問わない厳しい協議を続けた面々。「『本当に大変だったね』とお互いをねぎらいました」と岡部さんは笑顔で振り返る。それぞれの思惑が交錯する中で、何がなんでもこのプロジェクトを成功させたいという関係者一同の強い思いがワンチームの様相をつくり、最終的に交渉をまとめ上げたことへの達成感がその表情にみなぎる。
プロジェクトを笑顔で振り返る岡部舞さん
この「英独ノイコネクト国際連系線プロジェクト」は、英国南東部とドイツ北西部を結ぶ総延長720km、送電容量1400MWの高圧直流送電システムを建設し、完工後25年にわたり運営する壮大な取り組みだ。法的管轄地は英国、ドイツ、かつ送電線がオランダの排他的経済水域を通る。
日本からは高圧直流送電システム運営で高い技術を持つ関西電力等が参画。プロジェクトのスポンサー、事業会社、融資をするレンダーなど関係主体は、英独蘭日を中心に約30に及んだ。
「JBICにとって初の国際連系線事業へのプロジェクトファイナンス(PF)で、指標となるものがなく、どう交渉を進めていくか、最初はまったくの手探りでした」と岡部さんは回想する。岡部さん自身はそれまで、プロジェクト締結後の案件のモニタリングを主に担っており、新規のPFの組成は初めての経験だった。
事業収入から長期にわたり返済されるPFでは、事業性の評価が最重要課題だ。今回、プロジェクトの収入源は、英国とドイツの事業会社を中心としたスキームを組み合わせた複雑な形態で、レンダーも異なる(下図参照)。また、海底ケーブルの敷設・維持管理における環境面の影響、コロナ禍による建設資材調達の遅れなど、事業評価にかかるリスク要因も山積した。


ウクライナ危機でさらに高まる国際連系線の重要性
JBICが携わるようになった発端は、関西電力が18年に日本の電力会社として初の国際連系線事業に乗り出し、JBICに融資の打診をしたことだ。しかし当初、海底ケーブル敷設に関する英独関係機関の許認可の遅れや、英国のEU離脱などに伴い、プロジェクトは大幅に遅延した。
その後、事態は急展開を迎える。21年7月、英ジョンソン首相と独メルケル首相(いずれも当時)が会談で、この「英独ノイコネクト国際連系線」の重要性を改めて確認、一気に事業化に向けて動き出す。岡部さんがこのプロジェクトを担当するようになったのは、まさにその頃だった。
欧州では脱炭素に向けて、再生可能エネルギーの開発が進んでいる。風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーは天候に左右されやすく、電力を有効に活用するには、各国間で電力を融通できる国際連系線の拡充が不可欠だ。
そして、交渉が山場を迎えつつあるなかで、勃発したのが22年2月のロシアによるウクライナ侵攻だった。「今後の情勢がわからないので、とにかくこのプロジェクトを早くまとめなくてはならない、という関係者の思いが強くなりました」
欧州では電力供給への危機感が高まり、差し迫った状況だった。エネルギーの安全保障の面からもプロジェクトの重要性を再認識した。そして、JBICの業務が「世界情勢と連動していることを目のあたりにしました」と岡部さんは語る。
「スポンサー、事業会社、レンダーの思惑が異なり、議論がまとまらないときは、それぞれ個別に交渉を重ねました。壮大なプロジェクトですが、結局は一つ一つの積み重ねで成り立つことを痛感しました」
こうして、さまざまな難題を乗り越え、英独ノイコネクト国際連系線は、2028年の完成に向け、建設が始まった。

欧州で得た知見を今後、日本やアジアでも
18年から事業会社に出資し、このプロジェクトの開発に取り組んだ関西電力は、大容量かつ低損失の長距離送電が可能な直流送電システムで高い技術を持つ。瀬戸内海の南東部における国内での実績を掲げ、今回初めて海外での事業を手掛けることになった。
「関西電力の欧州進出を支え、日本企業の国際競争力の向上に貢献できたことで、国のために仕事ができたことにも大きなやりがいを感じています」と、岡部さんは自らの業務の醍醐味を述べる。プロジェクトにはその後、東京電力パワーグリッドも参画、日本企業の関与が拡大した。
JBICにとっても、初の国際連系線事業への融資という先駆け的な取り組みを達成でき、今後の大きな足掛かりとなった。「欧州で培った双方のノウハウや技術は、日本国内やアジア地域での高効率な電力連系線づくりにもつながることでしょう」
今回のプロジェクトを通じて、席を共にした欧州金融機関の女性職員らが説得力ある言葉で交渉を進める姿にも、刺激を受けた。今後さらに世界で脱炭素への動きが加速する中、岡部さんはもう次を見つめている。

JBICインフラ・環境ファイナンス部門 電力・新エネルギー第1部 第 2 ユニット(欧阿中東及び米州担当)主任の岡部舞さん
