特集 インド 新経済大国の勃興③
米ブルッキングス研究所のインド拠点を前身とする公共政策シンクタンクであり、インドおよび世界が直面する課題について研究を行う社会経済開発センター(CSEP、ニューデリー)。そのアソシエートフェローであるリヤ・シンハさんに、周辺国との連結性やインド経済の自由化、海外直接投資を呼び込む方策について聞いた。


社会経済開発センター(CSEP)
アソシエートフェロー
リヤ・シンハさん
かつて外国から見たインド経済と言えば、ICT関連の委託相手国だとか、コールセンター拠点といったものでした。現在の主要産業と、その成長見通しを教えてください。
これまではIT部門と、企業の業務プロセスを一括して外部委託するビジネス(BPO)が、サービス業中心の経済を率いていて、インドは「世界のバックオフィス」と呼ばれるほどでした。10年ほど前はサービス業が経済の約57%を占めましたが、雇用に占める割合は約28%にとどまっていました。
そこで政府は製造業を強化する必要があると考え、技能開発に重点を置いた「メーク・イン・インディア」という製造業振興政策を始めました。さらに「自立したインド」という政策も進められています。
歴史的に製造業は強くなかったのですが、近年はいくつかの分野が発展を見せています。鉄鋼、医薬品、繊維などがその例です。
インドの経済自由化と、その影響について詳しく聞かせてください。
経済の自由化が始まったのは1990年代です。国際収支危機を受けて、政府は公共企業が製造業を独占している状況を打開する必要があると考えたのです。
メーク・イン・インディアなど最近の政策は、25の経済セクターを対象にしています。自動車、航空、宇宙、バイオテクノロジー、港湾・海運、道路・高速道路などです。これはインドが外国投資を求める分野の非常に広範なリストとなっており、30年前、いや20年前でもこの状況は想像できませんでした。
さらに、若い世代の雇用に焦点を当てた「スキル・インディア」や、公共のデジタル・金融インフラの改善を目指す「デジタル・インディア」などの支援策もあります。


インドの国内市場やサプライチェーンについて、外国資本がインドに投資を決める際に最も有望な分野は何ですか?
インフラ整備は重点分野の1つであり、さまざまな産業回廊(工業地帯)や末端までのサプライチェーンも整備されています。政府はパートナー国から最良の投資事例を得ることを非常に期待しています。
日本の中小企業はインドに高い関心を向けています。インド投資を考えている企業に伝えたいことはありますか?
インドでは投資を呼び込むために、手続きや規制の改善を進めています。最近では通関手続きを簡素化する「NSWS」というシステム導入により、これまで6~8か月かかっていた認可手続きが30日以内にまで短縮できるようになりました。中小企業をインドに迎え入れるためには重要な進展です。
インドへの海外直接投資(FDI)の上位国はどこでしょうか?
日本は最大の投資国の1つで、投資先のセクターが多岐にわたっています。日本は地政学的にも信頼に足るパートナーだと国内では見られており、投資は大歓迎です。また、欧州とは自由貿易協定(FTA)の実現に向けて交渉しており、投資を増やすための協議も行っています。


投資先としてさらに魅力的な国になるために、インドは何ができるでしょうか?
インドは長年、投資誘致に消極的なパートナーと見られていました。そう見られてしまう要因もあったのですが、この10年で状況は変わりました。インドは経済規模を2025年までに5兆ドルにするという目標を掲げています。
しかし自力では達成は難しいため外国投資が必要です。今、首相や商工相の外国視察や使節派遣の回数は過去30年で最多のレベルです。2国間FTAや経済提携に前向きである証拠です。インドは東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定からは離脱しましたが、2国間FTAには力を入れています。10年前の商工省内では、FTAという言葉を耳にすることなどあり得ませんでした。
日本とインドの今後の経済関係については、どのように見ていますか?
国内のどの州にもチャンスはあります。インド各地域において投資拡大に取り組んだ結果、外国資本による投資ははるかに容易になりました。
日本は南アジア地域で重要なプレーヤーです。バングラデシュでも存在感を示しており、インドとバングラデシュの2国間の連結性を高める計画を支援するのに適した立場です。
以前はインドからシンガポールまで1日で荷物を運べたのに比べ、隣国のバングラデシュには5日もかかっていました。近年では両国の貿易は、双方を結ぶインフラの整備が進むとともに発展しています。防衛産業も協調の可能性がある分野です。特に日本が得意とするドローンやロボットの分野は有望です。
技術や能力開発への投資も重要です。この動きは「日本式ものづくり学校(JIM)」のプログラムを通じてすでに進んでいます。若年層の能力と日本の強みを活用していけば、さらに可能性が開けるだろうと思います。

