JBICメニュー閉じる

  • EN
  • 検索閉じる
JBICについて
JBICについて

JBICの役割や組織に関する情報についてご案内します。

閉じる

支援メニュー
支援メニュー

支援メニューについてご案内します。

閉じる

業務分野
業務分野

業務分野についてご案内します。

閉じる

情報発信
情報発信

情報発信についてご案内します。

閉じる

サステナビリティ
サステナビリティ

サステナビリティに関する取り組みをご案内します。

閉じる

プレスリリース
プレスリリース

プレスリリースについてご案内します。

閉じる

IR情報
IR情報

IR情報についてご案内します。

閉じる

自動車・IT・環境── 歴史に裏打ちされた中東欧の産業力

特集 中東欧の現在地①

>>>>

「労働力」「産業力」「人材の質」という特色を持ち、90年代から自動車の一大サプライチェーンを形成

>>>

理数系の教育水準が高く、2010年代からソフトウエア産業が発展、スタートアップも多数誕生している

>>>

ロシアによるウクライナ侵攻以降はエネルギー高騰で打撃を受けるが、環境対策の機運がさらに高まっている

破壊と再興を繰り返して築かれた古い街並みを第2次大戦後に再現することで、常に歴史を大事にしつつ新しい分野を切り開く今の中東欧を象徴するポーランドのワルシャワ歴史地区の画像

破壊と再興を繰り返して築かれた古い街並みを第2次大戦後に再現することで、常に歴史を大事にしつつ新しい分野を切り開く今の中東欧を象徴するポーランドのワルシャワ歴史地区

EU加盟から20年で約3倍に成長。自動車など機械産業が集積

1989年から91年にかけて、相次いで社会主義から体制転換した中東欧の国々。「日本から見ると、まだその頃の貧しいイメージを持つ人がいるかもしれません。ですが、特に2000年代以降に多くの国がEU加盟を果たしてからは大きく様変わりしました」。国際協力銀行(JBIC)パリ駐在員事務所の今井南海さんは、そう概括する。

「中東欧」にはさまざまな定義があるが、ここでは04~13年の10年間でEUに加盟した11カ国に、歴史的な共通項も多いオーストリア(95年にEU加盟)を加えた12カ国とする(下地図参照)。

パリ駐在員事務所では中東欧を含む大陸欧州全域と、フランス語圏のアフリカをカバーしている。「なかでもホットな地域が中東欧です」と今井さん。彼女自身、フットワーク軽く、赴任して3年で中東欧の12カ国中6カ国、プライベートを含めれば11カ国を訪れたという。

JBICパリ駐在員事務所のオフィスで取材に応じる駐在員の今井南海さんの画像

JBICパリ駐在員事務所のオフィスで取材に応じる駐在員の今井南海さん

注目したい中東欧の12カ国

本記事では「中央ヨーロッパ・東ヨーロッパ」として下地図の12カ国を対象とする。2015年にはバルト海・アドリア海・黒海の「3つの海」に囲まれるこれらの12カ国で「三海域イニシアティブ」を設立し、地域内の協力強化も企図。全体でGDPは約2兆4177億米ドルとEUの中でも存在感を増す。

注目したい中東欧の12カ国の図 注目したい中東欧の12カ国の図

出典:外務省 海外進出日系企業拠点数調査(2022年10月1日時点)

12カ国全体で日本の3倍ほどの面積に、約1億1000万人が暮らす。経済規模はGDPベースでEU全体の14%を占める。「民主化後、各国のEU加盟から20年ほどを経て、当時の約3倍までグッと伸びてきています。経済発展の観点からは後発組ですが、重要性がより増してきている地域だと思います」

今井さんによれば、中東欧はその長い歴史の中で合従連衡を繰り返し、民族、宗教、歴史、文化が複雑に絡み合うが、経済面では共通する3つの特色がある。「労働力」「産業力」「人材の質」だ。

中東欧地域の経済成長を象徴する、黒海に面したルーマニア最大の貿易港コンスタンツァの画像

中東欧地域の経済成長を象徴する、黒海に面したルーマニア最大の貿易港コンスタンツァ

「良質で安価な『労働力』を背景に、90年代からドイツや日本の完成車メーカーがハンガリーやポーランド、当時のチェコスロバキア等に進出しており、そうした自動車をはじめとする機械産業の集積が、その後2000年代にかけて進みました」

完成車メーカーだけでなく、エンジン関連部品やシート、排ガスフィルターなどさまざまな部品メーカーもそろい、今では欧州内で一大自動車サプライチェーンが形成されている。「こうした『産業力』を支えているのが『人材の質』。中東欧の方々は真面目な人柄だと聞く機会が非常に多いです。手先が器用だし真剣に学ぶので、習熟も早い。また親日家も多いので、日系企業にとっては非常にポジティブな地域ですね」

環境対策の追い風を受けて、電機産業、EV関連も投資相次ぐ

日系企業は、中東欧のポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニアの4カ国に多く進出している。業種としてはやはり自動車が最大だ。スズキがハンガリー、トヨタがチェコにそれぞれ生産拠点を構える。デンソーやニデック(旧日本電産)、矢崎総業といった自動車部品メーカーも現地に工場を持つが、日系だけでなく欧州系企業向けのOEM(相手先ブランドによる生産)ビジネスにも触手を伸ばしている。

中東欧の主要4カ国
─地域経済を牽引し日本との関係も深い

中東欧の主要4カ国 ─ 地域経済を牽引し日本との関係も深いの表 中東欧の主要4カ国 ─ 地域経済を牽引し日本との関係も深いの表
データは2022年 出典:世界銀行、外務省、UNHCR

自動車に続く業種は電機産業で、ダイキン、パナソニック、三菱電機などが代表格だ。なかでも、欧州で盛んな環境対策の追い風を受け、近年は大気中の熱エネルギーを集めて空調や給湯に使うヒートポンプ関連の追加投資が目立つ。

自動車関連での最近のトレンドは、こちらも環境対策をきっかけとする欧州のEVシフト。なかでもハンガリーはEV関連工場の誘致に積極的で、メルセデス・ベンツグループやアウディAG、BMWといったドイツメーカーが進出。歩調を合わせるようにEV用バッテリーメーカーの工場建設も相次ぐ。サムスンSDIやSKイノベーションといった韓国企業に加え、世界最大のEV用バッテリーメーカー・寧徳時代新能源科技(CATL)も総工費73億4000万ユーロを投じて欧州最大の製造工場を建設中だ。

こうしたメーカーの進出理由の1つが、部品を域内で調達できること。長年にわたる産業の集積がここでも窺える。「日系企業も、例えばセーレン(EV向け軽量合皮シート製造投資)や東レ(バッテリーセパレーターフィルム製造)がEVシフトに呼応する動きを見せています。それ以外でも、工場の拡張やラインの入れ替えでEV対応済みか、今後対応するという声を多く聞きます」

高スキル・低コスト・起業家精神。ソフトウエア産業が急伸中

日本ではまださほど知られていないが、製造業以外では、2010年代に入って大きく発展したソフトウエア産業に勢いがある。その背景の1つとして、コペルニクスやキュリー夫人はポーランド、ジェットエンジンの父アンリ・コアンダはルーマニアなど、著名な科学者を生み出してきた歴史にも触れながら、今井さんが解説する。

「GDP比の高等教育就学率が高く、特に理数系の教育水準が高い。国際数学オリンピック、国際情報オリンピックのメダリストが多数いるのもその証左でしょう。中東欧には欧州でも有数のソフトウエアエンジニア輩出国がそろい、若い世代では英語を流暢に話せる人材にも事欠きません」

しかも、高騰する米国や西欧と比べ、人件費が安い。「ソフトウエアエンジニアの賃金だと、中東欧はイギリスの半分程度というデータもあります」

今井南海さん②の画像

インテルやグーグル等のビッグテックのR&Dセンターも理数系の人材を狙って進出しており、そうしたグローバル企業での勤務経験を有する人材が今度は自身で起業することも。資金力の限られるスタートアップにとっても、高スキルの人材を低コストで確保できる点は魅力だ。

事実、約30社のユニコーン企業が中東欧で誕生しており、なかには時価総額100億ドル以上の評価額で株式上場を果たした企業もある。中東欧全域では歴史的な産業集積を背景に製造業向けのB2Bソリューションを提供するスタートアップが多いが、これらユニコーン企業はゲーム開発やEC事業、暗号通貨、フィンテック等の領域をもカバーしている。

「起業家精神を強く感じます。中東欧では1990年前後の社会主義からの体制転換が記憶に残っており、日本の戦後のような『経済成長を通じて新しく自分の国を立ち上げていこう』という人が多い。そういった意味でのハングリー精神もあるのでしょう。また、中東欧は国内市場がそう大きくないので、起業家の多くが海外市場への強い進出意欲を持っています。そしてアメリカでイグジットを達成した起業家が、自分の国に戻って次世代の起業家を支援するという還元サイクルも構築されつつあります」

ウクライナ侵攻でインフレ打撃。EUは脱炭素の政策をさらに推進

民主化以降、長期的には安定した発展を重ねてきた中東欧に大きな影を落としているのが、22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻の影響だ。侵攻前まで主要4カ国は5%前後のGDP成長率を見せていたが、23年には1%以下に落ち込む国が大半となる見通し。原因はロシアへのエネルギー依存に起因するインフレである。

「西欧以上に中東欧はロシアへの依存度が高く、ロシアによるウクライナ侵攻を機に原油や天然ガス、石炭などの燃料価格が高騰、調達コスト増や消費低迷により経済成長が鈍化しました」。中東欧はEU全体の平均よりも高いインフレ率となり、22年は多くの中東欧諸国が10%以上のインフレ率を記録、リトアニア等では15%を超えた。

例えば天然ガスの場合、中東欧12カ国のうち10カ国がEU平均を上回る依存度だった。突如としてロシア依存を見直す必要に迫られた中東欧は、エネルギー調達先の変更にとどまらず、再生可能エネルギーへの転換やエネルギー効率の向上といった新たな領域に進出する必要にも迫られている。

EU全体としても、温室効果ガス排出量を 2030 年までに 55% 削減することを目的とした政策パッケージ「Fit for 55」を土台として、ロシア依存からの脱却を目指すプラン「REPowerEU」を打ち出し、ヒートポンプなどによるエネルギー利用効率化やさらなる再エネ導入を推進中だ。

今井南海さん③の画像

こうした流れは日本企業にとっては「商機」でもあると今井さんは見ている。「もともとヒートポンプのような省エネ技術や洋上風力発電で海底ケーブルを活用する際の国際連系線といった分野でも、日系企業は強みを有しています。また、トラック等の自動車による貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道等へ転換するモーダルシフトが進むなか、中東欧各国のコネクティビティを高める鉄道分野での事業機会も見込まれます」

23年春以降、足許ではインフレも落ち着き、経済成長率が上向く兆しも出てきている。深い歴史に根差した、労働力と産業力、人材の質を併せ持つ中東欧は、既に次の時代へと歩みを進めている。今井さんは言う。

「どの分野の日本企業にも注目してほしいし、ぜひ一度、足を運んで勢いを体感してもらいたい。JBICがそのサポートをさせていただきたいと思っています」


JBICパリ駐在員事務所駐在員 今井南海さんの画像

PROFILE

JBICパリ駐在員事務所駐在員 今井南海さんの画像

JBICパリ駐在員事務所
駐在員

今井南海(いまい・みなみ)さん

2016年入行。エクイティ · インベストメント部にてファンド出資業務、経営企画部報道課にて広報業務を経験し、20年より現職。大陸欧州及び仏語圏アフリカにおける案件形成に携わる。東京大学教養学部卒業

今号トップに戻る