特集 2023年JBIC法改正3つのポイント①
昨今の国際政治経済情勢を踏まえ、サプライチェーンの強靱化に向けて経営資源を投入する動きが拡大している。国際分業体制の下での安定調達を目指し、外国企業、海外子会社を含めたサプライチェーン全体を支援する。


特定外国法人向け融資を新設
日本企業のサプライチェーンや産業基盤を支える外国企業への支援が可能に
半導体、蓄電池など、国民生活に欠かせない重要物資・技術のサプライチェーンや産業基盤は、現在、国際生産分業が高度に発達している。複雑化する国際情勢を踏まえ、こうしたサプライチェーン・産業基盤に組み込まれた外国企業(=特定外国法人)が、融資対象として新たに追加された(具体的な対象は財務省令で指定)。
特定外国法人に対する融資等の検討にあたっては、経済安全保障の視点を含む日本の産業の国際競争力の維持及び向上に資するよう、以下の点などが審査される。
●JBICによる融資等が、日本企業が調達する重要物資のサプライチェーン強靱化や日本企業が利用する重要技術の提供促進に必要であるか。
●外部の法的環境等により支援対象事業に支障が生じる懸念がないか。
●我が国の産業のノウハウやデータが外部に流出する懸念がないか。
また、この検討にあたり、特定外国法人とサプライチェーンのつながりのある日本企業(海外日系企業を含む。以下同じ)または事業基盤の利用において関係のある日本企業から支援要請があることが前提となる。
その他、通常の融資案件等と同様、「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」に基づく環境社会配慮が実施されていることの確認が別途行われる。

対象となるもの
新たに追加された特定外国法人への融資は、日本企業にとって「重要な物資」の調達や「重要な技術」の提供、また、日本企業の「海外における事業活動に必要な基盤」の整備において外国企業が重要な役割を果たしている場合に融資対象となる。具体的には、財務省令によって以下のものが指定されている。
以下の事業のうち、日本企業・日系企業が調達する物資の供給網の強靱化に必要なもの
●我が国にとって重要な資源の開発
●再生可能エネルギー源による発電に必要な設備等の製造
●蓄電池の製造
●船舶・航空機の部分品・附属品の製造
●医療機器の開発及び製造
●医薬品の開発及び製造
●電動機(モーター)の製造
●半導体(製造に必要な原材料及び装置を含む)の製造
●食料の生産(農業を含む)に必要な肥料、農機具その他の物資の開発及び製造
●低炭素素材の製造
以下の事業のうち、日本企業・日系企業が利用する技術の提供の促進に必要なもの
●人工知能関連技術の開発
●量子計算機その他の量子の特性を利用した装置に関する技術の開発
●バイオテクノロジーに関する技術の開発
●ブロックチェーン技術の開発
以下の事業のうち、日本企業・日系企業が利用する技術の提供の促進に必要なもの
●再生可能エネルギーによる電気の供給に必要な発電、送電その他の基盤の整備
●情報通信技術を活用するための基盤の整備(情報通信に係る人工衛星の打上げ、追跡及び運用を含む)
●医療
半導体の製造工程は細分化され、世界を巡るサプライチェーンが構築されている。各段階は、高い技術力を有する企業が独占的地位を有していることが多い。もし何らかの理由で他国企業の生産が止まれば、日本企業の生産も止まる。サプライチェーンに含まれる他国企業が安定的に生産することは、日本企業にとっても非常に重要だ。そこで、こうした日本企業からの要請を受けて、JBICが直接、外国企業を支援する。当該日本企業の生産を守るだけでなく、半導体の世界的な供給を維持して、日本と世界の需要に貢献する。

電気自動車(EV)の普及で需要が急増しているリチウムイオン電池。日本の大手電機メーカーは世界トップのEVメーカーに独占提供しているが、競争は激しい。より高品質で環境にも配慮した製品への改良を進めるためには、原料となる鉱物の採掘はじめ他国企業との協業が不可欠だ。JBICは日本企業とそのパートナーである外国企業とを一体的に支援し、重要物資のサプライチェーンにおける日本企業を支援していく。

海外での資源引き取りを対象に追加
資源等の日本国内への輸入に加え、海外で引き取る場合も融資可能に
JBICの輸入金融はこれまで、資源等を海外から日本へ輸入する場合を対象としてきた。しかし、昨今の日本企業のグローバル展開においては、海外で調達した資源等をそのまま日本国外にある日系企業で引き取り、そこで製品の製造・販売を行うケースも増えている。
そうした状況に対応すべく、日本企業が海外で外国企業から資源等を引き取る場合も輸入金融の対象になった(海外で調達した資源をもとに製品を製造・販売する場合も同様)。

対象となる資源……石油、石油ガス、天然ガス、石炭、ウラン、金属鉱物、金属、燐鉱石、蛍石、塩、木材、木材チップ、パルプ、バイオマスに由来する燃料、水素、燃料として使用されるアンモニアなど
日本企業向けサプライチェーン強靱化支援を拡大
サプライチェーン強靱化のための海外事業資金への日本企業向け支援を柔軟化
日本企業のサプライチェーンは国境を越えて広がっている。その実態を踏まえ、国内企業が海外の子会社に提供する事業資金についても、JBICによる融資対象に追加された。
中堅・中小企業以外の企業に対しては、これまで資源、M&A、インフラ向けツーステップローンのための資金に限り融資が可能であったが、そこにサプライチェーン強靱化のための海外事業資金を追加。これにより、日本企業の海外サプライチェーンを上流から下流にわたって支援する。
なお、従来から国内向け融資の対象となっていた中堅・中小企業向け融資については、変更ない。

「中小企業」……原則として資本金3億円以下または常時使用する従業員数が300人以下(製造業の場合)の企業および個人(業種ごとに異なる。また、一部業種は対象外)
「中堅企業」……資本金10億円未満の企業(いずれも上場企業も対象だが、大企業の連結子会社は対象外)