PROJECT最前線 インドにおける日系メーカーのサプライチェーン強靱化支援
インドの民間銀行への融資を通じて、日系自動車メーカー、日系建機メーカーを「側面支援」。2案件の背景と意義、培ってきた交渉術について、営業経験の長い米山智さんに聞いた。


インフラ・環境ファイナンス部門 社会インフラ部第2ユニット ユニット長
米山 智さん 2001年入行。企業金融部、国際金融第1部(中国担当)、米州投資公社(IIC)出向、経営企画部人事室、産業投資貿易部(M&A支援等に従事)等を経て22年より現職。慶應義塾大学法学部卒、南カリフォルニア大学ロースクール修了
JBIC内で培ってきたインド流交渉術がものを言った
インドの案件にはタフな交渉がつきもの。金額や条件にはシビアなお国柄だ。加えて、インド人にはランクコンシャスな(肩書への意識が強く上位者の判断を尊重する)一面もあると、JBICインフラ・環境ファイナンス部門の米山智さんは説明する。
そのため、「どのタイミングで実務レベルの交渉をマネジメントレベルに上げていくかの見極めが重要でした。このあたりは、ニューデリー駐在員事務所と連携しながら交渉に臨みました」。つまり、交渉が行き詰まったときに、上の肩書の者の交渉に持ち込むことで事態を打開できる場合がある。
交渉時のもう1つのコツは要所での「ミーティング」だ。「インド人はメール等ではなく、ミーティングを設定しないと物事がなかなか進みません。ミーティングはオンラインの場合もありますが、協議を前に進めるためにほぼ毎月チームの誰かがムンバイに出張していた時期もありました」と、米山さんは語る。
JBICは2021年3月にインドの日系自動車メーカーのサプライチェーン強靱化への支援、23年4月には日系建機メーカーの同支援を発表した。両案件とも、インドの銀行を経由して、日系メーカーのサプライヤーや販売店、販売金融事業(日系メーカーの製品を買う際のローンを提供)に融資するツーステップローンだ。JBIC内で培ってきたインド流の交渉術がものを言った。
日系メーカーを側面支援する
ツーステップローン
ケース①自動車/ケース②建設機械


対銀行と対メーカー。普通の融資と異なる2方面作戦
日系企業が直接的には参画しない本案件では、JBICが軸となりインドの銀行と直接交渉しつつ、同時並行で日系メーカーとも協議を進めていくという困難さがあった。
対銀行では、どの銀行が支援対象セクターに強みを持っているか調査を行い、融資先銀行を決め、地場の部品メーカー支援にもなるこの融資スキームを説明しながら条件交渉をする。対メーカーでは、日系メーカーを側面支援する意義を説明し、融資対象とすべき取引のある現地サプライヤーのリストの絞り込みを協議する。米山さんによれば、2方面で同時に調整を進めていくのが、一般的な融資やプロジェクトファイナンスと異なるこの案件の特徴だという。
「JBICには日本の製造業の国際競争力を向上させるという使命があるため、日系企業にとってメリットのある形のスキームを目指し、調達先となる現地企業への支援意義を説明して回りました。結果的に、日系企業にも歓迎をいただけたことでこの融資スキームを構築することができました」

融資スキームの特徴を分かりやすく解説してくれたJBICインフラ・環境ファイナンス部門 社会インフラ部第2ユニット ユニット長の米山智さん
IT大国としての印象が強いインドだが、近年、製造業やインフラ部門の公共投資が成長分野として注目されている。22年の経済成長率は6.7%を記録し、JBICの「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」でも中期的な有望事業展開先として2年連続で1位を獲得するなど、多くの企業がインドの成長に期待を寄せる。
21年の日系自動車メーカーのサプライチェーン強靱化支援では、インドステイト銀行と6億米ドル(JBIC分)を限度とする貸付契約を締結した。これは前年の新型コロナ感染拡大で打撃を受けたインドの日系自動車メーカー支援に加え、環境配慮型自動車の製造・販売のために必要な支援も目的としている。
「インド政府は温室効果ガスの排出削減や深刻化する大気汚染の解決のために、17年から燃費や排ガスの規制を導入しています。本件はインドの環境保全政策にも沿う形になっています」(米山さん)

日本と相手国双方の役に立つ意義ある取り組みができる醍醐味
同じ融資スキームで、別のセクターの日系企業支援を――と実現させたのが、23年のインダスインド銀行向け、融資金額6000万米ドル(JBIC分)を限度とする日系建機メーカー支援の貸付契約だった。インドでは長年の課題である物流インフラの効率改善を目的とした「国家インフラ開発計画(PM Gati Shakti)」に基づき、総予算規模100兆ルピーを投じる数多くのインフラ開発プロジェクトが計画されており、米山さんらのチームはそこに着目した。
その中から建設機械セクターに照準を当てた理由として、「インドの建機市場は、販売台数ベースで世界第3位の規模。特に日系建機メーカーは、インドの掘削用建機市場で約6割のシェアがあり、高い成長が見込まれます」と米山さんは語る。

インド政府は「Make in India(メーク・イン・インディア)」政策を掲げ、「世界の工場」になるべく同国製造業への直接投資を世界中に呼びかけている。この2案件は、そのようなインドでリスクテイクをする日系企業だけでなく、そのサプライヤーであるインド企業、地場の民間銀行からもメリットを感じてもらえる案件となった。
「日本だけでなく、相手の国・企業の役にも立てる案件を考えられるのはJBICならではであり、この仕事の醍醐味かもしれません」とやりがいを語る米山さん。成長著しいインドの担当は非常に忙しいと話すその目の奥は、次なる挑戦に向けて輝いていた。

JBICインフラ・環境ファイナンス部門 社会インフラ部第2ユニット ユニット長の米山智さん
2021年3月に日系自動車メーカーの現地サプライチェーンに必要な資金の供給を行うことを目的に、インドステイト銀行との間で総額10億米ドル(JBIC分6億米ドル)を限度とする協調融資の契約を締結。また、23年3月には日系建機メーカーの現地サプライチェーンに必要な資金の供給を行うことを目的に、インダスインド銀行との間で総額1億米ドル(JBIC分6000万米ドル)を限度とする協調融資の契約を締結