わが社のグローバル展開 広島アルミニウム工業株式会社
あらゆる工法に対応する高度な鋳造技術は、創業時からの挑戦者スピリットが生み出した。自動車業界の変革に合わせ、国内外でさらなる進化を目指している。


広島アルミニウム工業株式会社/代表取締役社長 小松理央さん 米国の大学を卒業後、銀行でインターネットバンキングのネットワーク構築などを手掛けた後、2007年入社。23年、伯父にあたる三代目の後を継ぎ、代表取締役社長に就任した
無水鍋®から自動車部品まで、先見の明を持つ100年企業
ものづくりの現場は変化しており、鋳造業界もITを活用する次の段階を迎えている――。2023年4月、広島アルミニウム工業の四代目社長に就任した際の挨拶で、生産現場を担うブルーカラーと、ITを駆使するホワイトカラーを組み合わせた「ライトブルー人材」の育成に注力する方針を、小松理央代表取締役社長は打ち出した。
金属を熱で溶かし、鋳型に流し込んで製品を作る鋳造技術は、紀元前に始まったとされる歴史ある古い金属加工法。その鋳造業界で、常に先見の明を持つ姿勢は、創業以来脈々と受け継がれてきたものだ。
1921年、金物や日用品の仕入れ、販売を手掛ける金物屋を創業したのが始まりだ。当時まだ珍しかった軽くて丈夫なアルミニウムに目を付け、鋳造分野へ進出。かまどに置きやすいよう、周囲につばが付いた羽釜の製造をアルミ鋳造により始めた。
しかし、創業の地広島は45年の原爆投下で壊滅状態となり、創業者の命も工場もすべて失われた。それでも、挑戦し続けるスピリットまでは失わず、創業者の長男である二代目社長は、アルミ鋳造の技術を生かし、ガスの普及に合わせて、ロングセラー商品として今も人気の「無水鍋®」(調理に水を加えなくてよい鍋)を生み出した。
溶かしたアルミを金型に注入し瞬時に成型するダイキャスト鋳造や、砂でできた型に流し込む砂型鋳造など、あらゆる工法に対応した広島アルミ。その技術力に注目したのが、同じ広島に本拠を置く自動車大手のマツダだった。モータリゼーションの進展や自動車軽量化の流れから、アルミ部品の製造で協業先を探していた。
「本格的に自動車部品に参入したい意向もあり、タイミングが合致したという運もありました。技術が身に付くときはチャンスをもらったとき。技術力をさらに上げて要望に応えようとしたと聞いています」。小松社長は、創業から息づく挑戦者スピリットを振り返る。


創業以来培ってきたアルミ鋳造の技術を生かし、自動車の根幹を支える多くの製品を製造。国内8カ所、海外現地法人計5カ所の工場では、さらなる生産効率向上を目指し、ITを採り入れ不良率の削減等に挑戦している
いち早くベトナム工場設立。北米市場を視野にメキシコへも
95年に就任した三代目はさらに事業拡大を進め、マツダ以外へも販路を拡大。大型ダイキャストにも対応した。今や製造するアルミ部品は数千点に上る。
マツダ系の自動車用アルミ鋳造部品メーカーとしての地位を確立しながら、三代目は海外にもいち早く目を向けた。グローバル化が進展する中、2002年、同業他社に先駆けてベトナムにダイキャスト鋳造の生産拠点を設置。海外展開のノウハウをじっくりと積み上げながら、次に進出したのは、10年のメキシコだ。北米市場での旺盛な自動車需要を見込んだ挑戦だった。
当時、原材料などを調達する部門を担っていた小松社長は、メキシコ工場の立ち上げに向け、何度も現地に足を運んだという。当初は難しさを感じていたが、現地を訪れると、すでに日本の同業者が事業展開していることを知った。「自分たちにもできるはずだ」と、挑戦者スピリットがうごめいた。
「やはり現地に行って、生の情報を自ら得て、自分の目で確かめることの大切さを痛感しました。国によって制度や国民性などはまったく異なるので、国ごとの状況をしっかり見極めることが大事なのです」と、その時の経験を糧にしている。
メキシコではグループ会社を通じてもう1カ所生産拠点を構え、JBICからの融資も活用した広島アルミ。中国、タイへも海外展開を進めており、若い社員たちが海外勤務を経て成長して帰ってくる姿に「頼もしさを感じる」と、小松社長は話す。


北米拠点として設立したメキシコ工場(写真)では、大型のアルミ鋳造部品を中心に製造。受注増に対応するため15年に第2工場を設立した
アメーバ経営と技術革新で変革の時代を乗り越えていく
「鋳造は古い技術なので、業界全体にも古いやり方が残っています。溶かした金属を型に流し込む過程は目に見えないため、完成した製品の不良率が(他業種より)高くて当たり前といった常識がありました。でも今では、センサーやシミュレーションを活用すれば、改善ができます。広い視野で自分たちの当たり前を変え、アップデートしていかなくてはいけません」
そう語る小松社長は、社員一人ひとりの意識改革にも注力する。社員自らが経営者マインドを持つことを目指し、96年に「アメーバ経営」を導入済み。京セラの稲盛和夫氏が創り出した経営手法で、大きな組織を独立採算で運営する小集団に分け、全員が目標達成に向けて力を結集する。

海外の現地法人でもアメーバ経営を導入し、人材が育ったベトナムでは現地の人が社長を務めているという。今後の展望を語る代表取締役社長の小松理央さん
社員との対話を重視する小松社長。生産現場を定期的に回る際は、工場の幹部ではなく、より現場に近い立場の社員に話を聞くという。「先日現場へ行った際、社員が自分のやりたいことを話してくれたのはちょっと嬉しかった」とはにかむ。
自動車業界は今、EV化が進み、変革の時代を迎えている。自動車部品はより軽量化を求められ、素材もアルミから樹脂へと置き換わりつつある中、広島アルミは樹脂製品の加工にも注力し、技術革新に磨きをかけ続けている。「積み重ねてきた過去があってこそ、その先の未来が見えてきます。一足飛びに未来へ行けるわけではなく、しっかりと地に足を着け、将来を見据え、方向性を示していければと考えています」
挑戦者スピリットを持ちながらも、謙虚に堅実に時代の荒波を乗り越えていく。
広島アルミニウム工業株式会社
1921年 | 創業 |
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1945年 | 原爆の被害に遭い工場焼失 |
1973年 | 東洋工業(現マツダ)の 品質保証認定会社第1号に |
1996年 | アメーバ経営を導入 |
2002年 | HAL Vietnam Co., Ltd.設立 |
2010年 | HAL Aluminum Mexico, S.A. de C.V.設立 |
2011年 | 広島鋁工業(南通) 有限公司設立 |
2013年 | HAL Aluminum (Thailand) Co., Ltd.設立 |
2023年11月、広島アルミニウム工業のメキシコ法人HAL Aluminum Mexico, S.A. de C.V.との間で、融資金額1260万米ドル(JBIC 分)を限度とする貸付契約を締結。三菱UFJ銀行との協調融資。メキシコでの自動車用アルミニウム部品の製造・販売事業への支援を通じ、日本の産業の国際競争力の維持・向上に貢献する