PROJECT最前線 チリのケブラダ・ブランカ銅鉱山開発における建設現場の衛生環境整備等支援
日本企業が出資するチリでの世界有数の銅鉱山開発へ、JBICが追加融資を展開する。未曽有のコロナ禍のなかで案件の組成に取り組んだ松野木隼人さんにその意義や道のりを聞いた。


資源ファイナンス部門 鉱物資源部 第1ユニット
松野木 隼人さん
2022年入行。鉱物資源部にて米州大陸やアフリカのベースメタル、バッテリーメタル案件に従事。ペルー及び太平洋島嶼国を担当。早稲田大学政治経済学部卒
採掘現場は標高4400メートル。衛生環境整備等に追加資金が必要に
チリ北部に位置するケブラダ・ブランカ銅鉱山へは、日本から丸2日以上かかる。標高4400メートルにある宿舎のベッドの脇には、酸素ボンベが設置されていた。「苦しかったら、マスクをつけて寝てくださいと言われたんです」と話すのは、鉱物資源部第1ユニットの松野木隼人さんだ。
過酷に見える現場だが、「何でも楽しめる性格」だという松野木さんにとっては、好奇心が大いに刺激されたようだ。「仕事でないと見られない世界。入行して初めての案件だったので、非常に思い入れがありました」
ケブラダ・ブランカ銅鉱山開発プロジェクトは日本企業が計30%出資参画しており、JBICは2019年の融資金額9億米ドルのプロジェクトファイナンスを含む融資承諾(計20億9000万米ドル)を同プロジェクトに対して行っている。
プロジェクトの建設が進むなか、世界的に新型コロナ感染症が蔓延したことで感染対策を含めた衛生環境整備が追加的に発生。また、建設作業員の感染隔離や建設効率の低下などに由来した建設期間長期化の影響により開発投資額も増加したことから、出資参画する日本企業からJBICへ支援の要請があった。

ケブラダ・ブランカ鉱山の採掘場及び鉱石処理施設
松野木さんはこの追加融資を担当し、計4億5000万米ドルの融資契約を23年3月に調印した。日本企業を含むスポンサーは早期のプロジェクト完工及び生産開始を目指しており、今回の融資はプロジェクトに出資参画している日本企業2社に対するバックファイナンスで行われた。バックファイナンスは融資先の会社の信用力に依拠することから、融資契約締結までの期間が短くスピーディな対応ができる利点がある。
これまでもJBICにはチリの銅鉱山開発向けの支援実績が多くあるが、ケブラダ・ブランカ銅鉱山は埋蔵量が豊富で、23年時点で山命約27年、可採鉱量が約700万トンと、フル操業後は世界有数の生産量を誇る鉱山となる長期かつ巨額な案件だ。初案件でその一端を担うことに、プレッシャーはなかったのだろうか。
「融資金額が大きい分、整理しなければならないポイントが多く、世の中の変化がプロジェクトに影響を与えることも少なくありません。ですが、上司をはじめ営業経験豊富な先輩方にもアドバイスをもらい、やりがいのある仕事ができました」

国際的な仕事をするのにこれ以上ない職場で、日本の「羅針盤」となって働けることに強い魅力を感じていると語る松野木隼人さん
短期間での大型案件の組成へ。行内説明と調整に奔走
ケブラダ・ブランカ銅鉱山は建設中のプロジェクトであり確認事項は多岐にわたった。だが、銅の需給がひっ迫し緊急性が高いなかで建設に必要な資金でもあったことから、5カ月という短期間で大型案件を主担当としてまとめ上げた。
「完工に向けたプロジェクトの進捗をはじめ細かいところまで精査を行い、行内への説明と調整にも力を注ぎました」と松野木さんは振り返る。その後、プロジェクトは無事に完工し、24年5月には日本への最初の銅精鉱の受け入れが行われた。
チリは治安や社会環境が安定しており、日本の戦略的パートナー国である。そしてチリにとっても銅生産は極めて重要な産業である。銅価格は世界情勢の変化により乱高下しやすく、わずかな価格の変化がプロジェクトの収支に大きく影響しがちだが、これまで日本企業はチリの銅鉱山の開発・運営で大きな役割を果たしてきた。日本の公的金融機関として、長期安定的な鉱物資源の供給確保に向けた支援が今後も必要とされる。

EV車に必要な銅はエンジン車の4倍に上る
新型コロナのような未曽有の事態においても、プロジェクトに出資する日本企業が滞りなく事業を継続できるようにJBICが支援を行うことは、日本が貴重な権益を確保維持することにつながり、意義が深い。「コロナ禍という厳しい状況にあっても臆せずに、顧客のために攻めの姿勢で支援を考えられるのはJBICならではと思います」(松野木さん)


組成と管理の両方を担当できる「修羅場」にこそ挑戦したい
今回の案件の担当に決まった際に、メガバンクからキャリア採用で入社した先輩に告げられた一言にハッとさせられた。「松野木くんが担当する案件は、他の会社だと生涯で一度経験するかどうかわからないくらいの大きなものだよ」。当たり前にできる仕事ではない、貴重な経験だとあらためて気を引き締めた。
「JBICでは、1年目から所属部署の戦力として活躍することが期待されます。また、他の金融機関ではファイナンスの組成と管理を分けて取り組むことが多いそうですが、JBICでは新規と既存のプロジェクト両方を担当できます。継続してプロジェクトに関与できることは醍醐味です」
松野木さんは、配属当初から「修羅場が多い、チャレンジングで難易度が高い仕事がしたい」と志願してきた。今回の経験を生かし、融資だけでなく出資や保証など、多様な金融メニューに関わりつつ、マーケットや政治経済の動向調査など幅広く取り組みたいと目を輝かす。大きな志を胸に、松野木さんはさらに高い山へ挑んでいく。

JBIC資源ファイナンス部門 鉱物資源部 第1ユニットの松野木隼人さん
2023年3月、チリ共和国のケブラダ・ブランカ銅鉱山の開発を対象として、住友金属鉱山株式会社との間で融資金額6億2500万米ドル(JBIC分3億7500万米ドル)、住友商事株式会社との間で融資金額1億2500万米ドル(JBIC分7500万米ドル)を限度として新型コロナ感染拡大に伴う建設期間中の衛生環境整備等に必要な資金を民間金融機関と協調融資する契約を締結