わが社のグローバル展開 越井木材工業株式会社
木製電柱や鉄道用枕木の加工から始まり、明治時代からの歴史を刻む越井木材工業。木材の耐久性を高める技術が基盤だ。徹底した研究開発と人材育成を武器に、米国、マレーシア、中国へと海外拠点を拡大し成長を続けている。


越井木材工業株式会社/代表取締役社長 越井潤さん 早稲田大学大学院修了、大阪木材青年経営者協議会会長、日本木材青壮年団体連合会会長を歴任。現在は日本木材防腐工業組合理事長、一般社団法人大阪府木材連合会副会長、公益社団法人日本木材保存協会副会長、越井木材工業株式会社および株式会社コシイプレザービングの代表取締役社長を務める
135年続く伝統の技。優れた技術は自ら確かめる
「5年後ぜひまた取材に来てください。これから、どんどん面白くなっていきますよ」。越井潤社長は、自社の未来をそう展望し、目を輝かせる。
越井木材工業は、防腐処理を施した木材を看板商品に発展してきた。創業は1890年。銀行や鉄道も経営した実業家・越井醇三氏が、北欧から銅を用いた防腐技術を持ち帰り、電柱や鉄道の枕木用の加工木材で事業を起こしたのが始まりだ。
1950年代に入ると、電柱や枕木のコンクリート化に伴い一時経営危機に直面。しかし、住宅用木材へ事業をシフトし、大手ハウスメーカーを顧客に成長を遂げた。その後、木質素材と金属を組み合わせた「プライメタル」事業を展開し、電車・新幹線の内装パネルやトラックの床材など、幅広い商材を生み出している。
防腐に加え、防蟻、防火など木材の耐久性を高める技術を磨いてきた同社にとって、海外の優れた技術をいち早く取り入れるのは初代からの伝統だ。ただし、日本にそのまま導入するのでなく、自社や大学の研究者と徹底的に検証し、確かなものだけをビジネスに採用する。
「自分できちんと確かめていないものは信用しない。これは、先代からずっと受け継がれてきた考え方です。技術の検証には数年かかることもありますが、責任あるものづくりを最優先にしています」。そう語る越井社長は、5代目。2005年、40歳の若さでトップに就任し、変化の激しい時代の中で、歴史ある会社のかじ取りを担っている。

大阪市の本社第2工場。工場では女性も活躍する。声を掛け合いながら、テンポよく作業を進める
厚い日本企業への信頼、米国でも。マレーシアでは植林事業も展開
そんな越井社長がいま期待を寄せるのが、米国での事業だ。世界とのパイプを強みにしてきた同社は、取引先である日本の大手重工業メーカーが現地で鉄道車両製造を受注したことで事業が本格化し、1989年にはニューヨーク州に現地法人を設立した。
現在、鉄道車両用のパネルや床板を製造する米国工場には、米国人社員と駐在員を合わせた約40人が勤務。製品は、ニューヨークのほか、シカゴやボストンなどの列車に採用されている。低価格を強みとする中国メーカーの参入により一時苦境に立たされたものの、近年はニューヨークの地下鉄の大規模プロジェクトにも携わることができた。JBICの融資も活用しながら、さらなる事業拡大を図る。
同社が異国の地で長年にわたりチャンスをつかんできた背景について、越井社長はこう語る。「品質の良さはもちろんですが、納期や約束をしっかり守るという日本企業への信頼は米国でも厚い。弊社に限らず、日本の製造業が培ってきたこの伝統は大きな武器です。さらに、米国は実力主義の国。どこの国の会社かではなく、品質や誠実さを見て選んでもらえる土壌があると感じます」
一方、同社は東南アジアのマレーシアでも事業を展開。88年、住宅用合板の需要急増に対応するため、ボルネオ島に合弁会社を設立し、現地工場で仕入れから製造までを行い、完成品を輸入する生産・供給体制を築いた。
また2005年より同じくボルネオ島で本格的に植林事業も開始。一般的な樹木より成長が早い新種のアカシアを約700ヘクタールにわたって植林し、近年は成長した木の伐採と再造林を並行して進めている。そのほか、中国・上海にも事務所を構え、ビジネスチャンスを模索している。

米国工場での生産管理は一元システム化が進んでおり、納期管理や生産計画の最適化にも役立っている
海外拠点は人材育成の場にも。働く社員の成長が未来を開く
「海外拠点は、日本の若手社員がチャレンジできる人材育成の場としても位置付けています。挑戦したいという若手には、どんどんチャンスを与えるようにしています」
自身も20代後半に米国で働くなど、多くの経験を持つ越井社長は、「人を大切に」、「チームで」、という言葉をたびたび口にする。社員や事業パートナー、さらには地域社会を含め、「人」を大切にした経営は、先代から続く精神であり、5代目が最も大切にしている部分だ。人事制度の改革に加え、SDGsの推進にも全力を注ぐ。

毎年行っている社内のSDGs発表会では、自社で制作した木製ベンチの子ども食堂への寄付など、チームによるアイデアと課題解決の取り組みが次々に生まれていると、代表取締役社長の越井潤さんは誇らしげに語る
「技術も大事ですが、チームの一人ひとりが思いを持って仕事をすることが何より重要だと考えています。どうすれば社員の心に火が灯るのか、どうすれば社員が自分たちの仕事を家族や友人に自信を持って語れるのか、いつも頭をひねっています」
海外事業の追い風や新技術の導入に向けた研究の進展だけでなく、次世代を担う社員の成長にも手応えを感じている越井社長。「仕事は、さまざまな人が関わるからこそ面白い」。今後も「人」を大切にしながら、世界を舞台に挑戦を続けていく。

マレーシアでのアカシアの植林事業は苗木の育成から始まる。木材利用までを包括する持続可能な森林経営に取り組む
越井木材工業株式会社
1890年 | 創業 |
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1948年 | 越井電柱木材株式会社を設立 |
1965年 | 越井木材工業株式会社へ社名変更 |
1973年 | 防腐薬剤部門を分離し、 株式会社コシイプレザービングを設立 |
1989年 | 米国現地法人KOSHII AMERICA INC.を設立 |
1996年 | 米国現地法人KOSHII MAXELUM AMERICA, INC.を設立 |
2005年 | マレーシアでの事業植林を本格化 |
2021年12月と23年3月、越井木材工業の米国法人KOSHII MAXELUM AMERICA, INC.との間で、融資金額合計385万米ドル(JBIC分)を限度とする貸付契約を締結。それぞれりそな銀行と関西みらい銀行との協調融資。地下鉄車両用内装パネルの製造・販売に必要な資金の融資を通じて、日本の産業の国際競争力の維持および向上に貢献する