特集アジア発、脱炭素の新潮流


グエン・ホアン・ロン商工副大臣(前列左から4番目)と、日越官民の「AZEC/GX推進ワーキングチーム」のメンバーによるパイロット案件選定協議にて(2025年3月)
AZECパートナー国との間で初。官民協議体を立ち上げ案件組成
2025年3月、日本大使館、JBICおよび日本企業からなる現地チームは、ベトナム商工省との間で、AZECの下での日越協力プロジェクト第一弾(計15件、総事業規模約200億米ドル)に合意した。日本企業によるエネルギー事業実現を個別に後押しするための新たな取り組み、「プロジェクト・アクセラレーティング・プラットフォーム(PAP)」の一環だ。翌4月、日越首脳会談の成果としても取り上げられた。
AZECパートナー国として初めて、日越官民協議枠組みが23年7月にベトナムで発足した。JBICは、日本大使館、ベトナム商工省と共にチームリーダーを務め、日本企業45社と連携し、再生可能エネルギー、送配電等の事業環境の整備や、個別案件の支援に取り組む。
「チーム組成は白地に絵を描くようなものでしたが、コンセプト立案からベトナム側との調整まで、19年の駐在当初から続けてきた政策対話の経験が活きました」と、立ち上げを担ったJBICハノイ事務所首席駐在員の安居院徹は語る。

高所得国入り×脱炭素の難題へ。日本の技術・ファイナンスで活路
ベトナムはASEANでも高い経済成長率を誇り、「2045年までの高所得国入り」を目指している。一方、「2050年までのカーボンニュートラル」も目標とするなか、成長との両立のハードルは高い。25年8%、26~30年10%以上という政府の経済成長目標を上回るペースで電源開発を進め、かつ、クリーンエネルギー比率を高めることが求められる。
政府の第8次国家電力開発計画(PDP8)では、21~30年で総発電容量を約2.4倍(183GW)へ拡大。太陽光や風力発電を大幅に増やすほか、天然ガス発電等も移行電源として開発する計画であり、26~30年で必要な総投資額は1363億米ドルに上る。
現地「AZEC/GX推進ワーキングチーム」は、ベトナム側のニーズも踏まえつつ、日本の脱炭素技術を用いた事業を提案。JBICでは、日系工業団地の屋根置き太陽光発電、発電所向けのガス田開発、バイオマス発電用の燃料製造、送配電網整備など、複数事業に融資を実現してきた。他方で、電力法改正、再生可能エネルギー電力直接取引の政令など、今後の案件開発の成否に影響する現地の制度枠組みについて、日越間で意見交換を行い、内容の改善を図る。
ベトナムは、日本企業にとってASEANで最有望の事業展開先の1つ。約2400社が拠点を構え、進出日本企業にとっても、将来にわたる電力安定供給は重要だ。AZECの現地活動は、日越官民対話の枠組みを活用し、日本企業の電力ビジネス機会を広げると同時に、ベトナムの成長や脱炭素化、進出日本企業への電力供給にも貢献する。
「我々は多様な日越Win-Winを目指しており、今後はPAPの下で個別案件に焦点を当て、実現に向けた課題と解決策を日越間で協議していきます。新たな取り組みを早期に軌道に乗せ、JBICならではの支援策もさらに検討したいと考えています」と安居院は言葉に力を込めた。


JBICハノイ駐在員事務所
首席駐在員
安居院徹(あぐいん・とおる)