特集アジア発、脱炭素の新潮流


ムアララボー地熱発電所プラントの様子。既設プロジェクトに加え、拡張プロジェクトでは、発電出力約83MWの新プラント建造を計画している
約3億人を抱える大国。島々をつなぐ送配電網整備に課題
3億人に迫る人口を抱えるインドネシアでは、2024年10月に発足したプラボウォ新政権の下、2060年のカーボンニュートラル達成を目標に、さまざまな取り組みがなされている。CO₂排出量はASEAN各国内では最も多いが、世界有数の火山国という地理的条件を生かした地熱発電、水力発電などの再生可能エネルギー電源の開発にも力を注いでいる。再生可能エネルギー電源の開発に、これまでJBICも多くの支援を行ってきた。
JBICジャカルタ首席駐在員の大川喜生は、同国の取り組みについて、「プラボウォ大統領自身が就任演説で豊富なバイオ燃料資源、地熱資源、水力資源に言及するなど、自国の豊富な再生可能エネルギー資源の活用に非常に前向きです」と語る。その一方で、デジタルエコノミーの普及により、電力の消費量は年々増している。経済成長と脱炭素の両方をいかに達成するか。AZEC各国共通の課題と言える。
また、数多くの島々からなるインドネシアでは、電源開発だけでなく、安定した電力の供給に寄与する送配電網の整備も重要な課題の1つである。
「JBICには、英国・ドイツ間を結ぶ送電線システムを建設する英独ノイコネクト国際連系線プロジェクトを民間主導で行い、プロジェクトファイナンスを実施した経験があります。そこで24年6月にインドネシアで、送電線システム設置に関するセミナーを開催しました。地道ながら、こうしたところから新たなプロジェクトファイナンスに向けた機運を高められればと思います」と大川は語る。
インフラのプロジェクトは関係省庁とも連携しながら、段階を踏んで進めていかなければならない。そこに民間企業の活力を動員していく。そのプロセスをサポートするのもJBICの重要な役割だ。

地熱発電のポテンシャルに注目。ムアララボー地熱発電事業の拡張へ
こうした取り組みの中で、AZEC全体でも注目と期待を集めるのが、インドネシア国内の地熱発電である。日本とインドネシアの国内法人の共同出資によって実現したムアララボー地熱発電プロジェクトでは、JBICのファイナンスが活用されている。現在、その拡張事業が進行中だ。同拡張事業はAZECのフラグシッププロジェクトとして位置付けられており、その期待度の高さが伺える。
大川によれば、「インドネシアの地熱発電のポテンシャルは高いですが、地面の下にある蒸気の活用は簡単ではないです。そのような中、同発電所は質の高い蒸気を産出しており、拡張に向けて動くこととなりました。同国内の地熱発電事業としては成功例の1つと言えるでしょう」という。
地中に眠る再生可能エネルギー資源をいかに有効活用できるか。火山大国のポテンシャルを生かす取り組みをサポートするJBICへの期待も大きい。


JBICジャカルタ駐在員事務所
首席駐在員
大川喜生(おおかわ・よしお)