特集アジア発、脱炭素の新潮流


2024年10月、アンワル首相(左)と会談したJBICの前田匡史会長(右)は、データセンターや送配電網、CCUSなどの分野で日本からの投資拡大に向けた協力を表明した
豊富な天然資源、電力需要増加。それでも再エネ拡大を推進
豊富な天然資源を有するマレーシアは、電力の8割を石炭や天然ガスによる火力発電が占め、液化天然ガス(LNG)事業の充実ぶりで知られる。LNGの最大の輸出先は日本で「両国の関係は天然資源、特にLNGによって築かれてきたとも言える」と、マレーシアも管轄するJBICシンガポール首席駐在員(当時)の阿部亮一は言う。転機が訪れたのは2020年を過ぎたあたりからだ。
21年9月、政府は2050年までにネットゼロを達成すると宣言。23年にはそのための具体的なロードマップを示し、脱炭素政策に「魂が込められた」と阿部は形容する。22年11月に就任したアンワル首相が強いリーダーシップを発揮し、「省庁や政府系企業が動き出している状況」だという。

近年はデータセンター建設が活発で、電力需要の大幅な増加が見込まれるが、ここは再生可能エネルギーを増やして対応するのが基本線だ。「水上型の太陽光発電への投資が進んでいます。豊富に存在する水力発電用のダム湖の水面に太陽光パネルを並べる形です」
もう1つ期待が寄せられている技術にCCUS(CO₂回収・利用・貯留)がある。天然ガスなどを採掘した後の地下空間にCO₂を埋めるものだ。事業化が進めば、日本やシンガポールから輸送したCO₂も貯留でき、ビジネス上の利点も大きい。
JBICはマレーシアでもAZEC関連活動を活発化させている。データセンター・デジタル産業支援、送配電網整備、CCUS協力が3本柱だ。自国の天然資源環境も活かしながら、マレーシアの挑戦は続いていく。


JBICシンガポール駐在員事務所
(アジア大洋州地域統括)
首席駐在員(当時)
阿部亮一(あべ・りょういち)