特集アジア発、脱炭素の新潮流


2024年3月、JBICはサンミゲル・コーポレーションと覚書を締結。脱炭素分野で協業する(左は同社ラモン・アン社長、右はJBIC根岸靖明アジア大洋州地域統括(当時))
天然ガス火力と再エネを両にらみ、揚水発電への期待高まる
「官民連携による支援を一層強化していきたい」とJBICマニラ首席駐在員の佐川弘は語る。JBICはフィリピン政府エネルギー省の要請を受けて再生可能エネルギーセミナーを開催したほか、現地企業と日本企業を仲介した案件の組成やファイナンス協力を進めている。
フィリピンでは現在、発電の6割を石炭に依存し、その7割を輸入に頼る。主な供給国はインドネシア。国内天然ガス田は埋蔵量の枯渇が懸念され、輸入LNGを用いたガス火力発電の活用を進めると共に、再生可能エネルギーへの転換を重視。
政府は、2030年に再生可能エネルギー比率35%、40年に50%とする目標を掲げ、エネルギー省主導でグリーンエネルギー・オークション制度(GEAP)の導入や、洋上風力専用港の整備を推進。地場発電企業でも石炭火力の早期退役に踏み切る動きが出始めた。

目標達成に向けて、系統不安定化に対応する調整電源として、揚水発電に対する期待も高い。さらには、再生可能エネルギーの電源と都市部を結ぶ送配電網の整備も急務だ。ただし、電力分野は財閥が主導する高度に民営化された分野であり、外資規制も存在する。
「電力分野には高い潜在性があるものの、日本企業の関与する案件組成を進めるには、財閥との関係強化が不可欠。早い段階でJBICが仲立ちして日本企業の案件組成に注力しています」と佐川は語る。
エネルギーの安定供給と脱炭素の両立に向けて、日本との連携を活かしながら、フィリピンは持続可能な未来に向けた歩みを進めている。


JBICマニラ駐在員事務所
首席駐在員
佐川弘(さがわ・ひろし)