特集アフリカ 多様性と可能性の大陸
手つかずの巨大な潜在力、莫大な投資機会、そして過剰に語られるリスク──アフリカ金融公社(AFC)のサマイラ・ズバイル プレジデント兼CEOは、アフリカを単なる開発の対象ではなく、世界経済の成長を牽引する原動力と位置づける大胆なビジョンを提示する。日本やTICADとの協調のあり方についても、その構想を語った。


南アフリカ・ケープタウンの夜景。この都市の輝きはアフリカの未来への希望を象徴している


1993年の第1回開催以来、TICADはアフリカ開発のニーズや国際潮流に合わせてテーマを選択してきた。約50カ国のアフリカ諸国および関係機関の代表団が一堂に会し、アフリカの成長に向けた取り組みを進めている。日本政府、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会が共催。アフリカ主導の開発を後押しする。


アフリカ金融公社(AFC) プレジデント兼CEO
サマイラ・ズバイルさん
SAMAILA ZUBAIRU
2018年より現職。それ以前は、アフリカ・キャピタル・パートナーズやダンゴテ・グループなどで上級職を歴任。ダンゴテ・グループでは、西アフリカ最大のコングロマリットへ成長する過程で中心的な役割を果たした。現在アイゼンハワー・フェローシップの理事も務める。ナイジェリアのアフマド・ベロ大学で会計学の学士号を取得
AFCが設立された経緯と、現在果たしている役割について教えてください。
アフリカは広大で多様性に富み、「大陸の中の大陸」とも称されます。その規模と多様性に見合ったインフラ整備が不可欠ですが、実行面では長らく課題を抱えてきました。AFCはそうした状況を打開するために設立されました。
官民連携によって設立された機関であり、現実的かつ商業的な視点からプロジェクトの実行にあたっています。複雑な課題を構造的な解決策へと落とし込み、アフリカの潜在力と資本を結びつけて、それを真の成長、繁栄、質の高い雇用へとつなげていくことが当社の使命です。設立以来、36カ国に対して155億米ドル以上の投資を行ってきました。
注力分野を教えてください。
電力、エネルギー資源、輸送、物流、金属・鉱業、重工業、通信、金融サービスと多岐にわたります。プロジェクトの初期段階から運営フェーズまで、リスク資本や融資を通じて支援を行っています。現在、AFCにはアフリカ45カ国が加盟しており、地域をつなぐ、影響力の強いインフラ整備において、信頼される現地パートナーとしての地位を着実に築いてきています。
アフリカ経済について、よくある誤解にはどのようなものがありますか?
最大の誤解は、アフリカは非常にリスクが高いという見方です。もちろんリスクは存在しますが、たいていは過剰に語られています。実際、アフリカのインフラ事業向けプロジェクトファイナンスのデフォルト率は、中南米やアジアの一部地域よりも低い水準です。当社の不良債権による損失率も1%未満に留まっています。さらに当社は、年金基金や保険会社による投資に保証を提供するインフラクレジット社に投資もしています。
アフリカはリスクに対する誤解のせいで、「先入観のプレミアム」ともいえる、実態以上のコストを求められています。利益が出るなら、私たちアフリカの人間こそ、それを得るべきなのです。
世界はアフリカの潜在力を十分に理解しているでしょうか?
十分には理解されていません。現在、世界経済は減速傾向にありますが、アフリカはこの状況に対する供給面からの解決策を提供できる地域です。アフリカは世界の鉱物資源の30%超、地球上で最も恵まれた太陽光資源の60%を有し、豊富な労働力も抱えています。
支援の対象ではなく、共に繁栄を築くための対等なパートナーとしてアフリカに向き合う時が来ています。そのためには、資源を採掘するだけでなく、現地で加工し、付加価値を域内に留める方向への転換が求められます。
「付加価値を域内に留める」とは、具体的にどのようなことですか?
生産の転換を意味します。例えば、西アフリカは世界のカカオ供給の大半を担っていますが、チョコレートやその加工製品の市場から得る利益はごくわずかです。チョコレートを現地で生産することで、その付加価値を域内に大きく留めることができます。
EV(電気自動車)のバリューチェーンでも、バッテリー素材をアフリカで生産するほうが、コストが低く、環境負荷も小さいことを当社は示しました。現地で生産することで雇用が生まれ、所得が向上し、より持続可能な経済成長につながります。

ベナンのコトヌー港は、地域における貿易と物流の拠点として、その役割を増している
アフリカでのインフラ投資における最大の課題は何でしょうか?
第1の課題は、意識の転換です。外部の支援を待つのではなく、自らの発展のための資金を自らの手で調達する必要があります。第2の課題は、プロジェクトの形成・設計です。当社はこの分野で主導的な役割を果たしてきましたが、さらなる資本の投入が求められています。最近発表した報告書において、アフリカ域内に約4兆米ドルの資本が存在することが明らかになりましたが、こうした資本が生産的セクターに十分に流れていないのが現状です。
AFCは2023年にJBICと覚書(MOU)を締結しましたが、目的は何ですか?
日本企業の関与を得ながら、アフリカで環境保全プロジェクトを推進することが目的です。すでに具体的な成果が見え始めています。とりわけ、電池関連のバリューチェーンやエネルギー連系といった分野で、日本企業がグローバルなサプライチェーンの多様化を支える重要な担い手となり得ることが、このMOUによって明確になりました。
アフリカには鉱業の脱炭素化に必要な重要鉱物と、電動トラック市場という成長分野の両方がそろっています。技術移転、プロジェクト遂行能力の強化、保証や協調融資の活用を通じて、日本の技術と資金などがアフリカのプロジェクトに効果的に結び付くことを目指しています。
TICADには、どのような役割を期待しますか?
TICADは日本とアフリカをつなぐ架け橋として、重要な役割を果たしています。当社は現在、日本企業と共に、製造業、エネルギー、モビリティなどの分野で連携を深めています。TICADはこうしたパートナーシップを長期的な経済関係へと発展させていく推進力になると考えています。
今後を見据えたとき、10年後にAFCをどのようにしたいと考えていますか?
現在、当社はアフリカ最大級の銅製錬施設を支援しています。この施設はすべて再生可能な水力エネルギーで稼働し、「グリーンカッパー」と呼ばれる環境負荷の低い銅を生産しており、アフリカ産業の脱炭素化を象徴する、先進的な取り組みの1つです。
今後は当社がアフリカの産業革命の中心的存在として位置づけられることを目指しています。域内資本を動員してこの変革を実現し、雇用を創出し、イノベーションを促進し、アフリカの若者たちの可能性を解き放つことが、当社の目標です。
