特集アフリカ 多様性と可能性の大陸
アフリカを一括りにせず、旧宗主国との関係性や地域性、言語圏を見据えた多様性の視座を持つことが理解の第一歩
資源エネルギーに加え、消費市場の拡大、農業や物流、スタートアップなど、さまざまな分野にわたる潜在性
変動する国際情勢と現地のダイナミズムを見極めながら、JBICは日本企業のアフリカ展開を長期的視野で後押し


電力網や固定電話が未整備な中で広がる、路上のスマホ充電サービス。スマホの普及がリープフロッグ(蛙飛び)的に進み、金融決済でも主流となってきている。こうした日常の風景に、アフリカ経済の現在地が映し出されている(写真はルワンダのキブ湖付近)
アフリカのニーズを捉え、欧州から俯瞰し現地に赴く
「アフリカを一つの大陸としてではなく、54カ国の総体として捉えることが大事だと考えています」。そう語るのは、JBIC常務執行役員の天野辰之だ。
アフリカは日本から航空機で平均的に20時間以上を要するなど距離的にも遠く、「どうしても『アフリカ』という一括りで見てしまいがちになる」と天野は指摘する。しかし、実際には国ごとに状況は大きく異なり、それぞれに応じた対応が欠かせない。「各国の政府と対話を重ねる中で、『彼らの本当のニーズはどこにあるのか』を丁寧に聞き取ることが、私たちの大きな軸になっています」と語る。
一方で、JBICの最終的なミッションは、日本企業の海外展開を支援することにある。アフリカ側のニーズと日本企業の方向性とが交わる地点を見極めていくことが、JBICの重要な役割だ。
その役割を果たすべく、JBICでは2つの駐在員事務所を中心に、日本の本店と連携しながらアフリカ54カ国をカバーしている。歴史的に見ても、アフリカには旧宗主国との関係性が依然として強い国が多く存在する。主にフランス語圏をパリ駐在員事務所、英語圏をロンドン駐在員事務所が担当する形で業務にあたっている。
日本よりは圧倒的に近いとはいえ、欧州からでもアフリカ各国への移動には相応の時間がかかる。現地に駐在員事務所を設ける考えはないのだろうか。
「もちろん今後の可能性としてはあります」と天野は語る。「例えば、アフリカを東西南北の4地域に分け、それぞれに拠点を置くという考え方もある。東アフリカはケニアやタンザニアといった経済拠点が多く、西アフリカにはガーナやコートジボワールなど成長著しい国々が並ぶ。南部は南アフリカを中心に資源国が集まっており、北アフリカはモロッコやエジプトなど中東文化圏に近い」。ただし、「今はその選択肢はなさそうです」と続けた。

天野はアフリカを地域ごとに一様に捉えることの難しさを次のように語る。「例えば西アフリカ地域だけ見ても、コートジボワールやベナン、セネガルなどは、西側からのファイナンスを受けつつ成長軌道に乗っていこうという姿勢を示しています。一方で、マリやニジェールのように、フランスと折り合いが悪く、ロシアや中国と親密に連携する方向に舵を切っている国もあります。一枚岩ではないのですね」
こうした多様性に加え、欧州との歴史的な結びつきも無視できないという。旧宗主国でもあるフランスやイギリスには、アフリカ関連の事業に携わる企業が数多く存在する。現地の新たなトレンドも、欧州のほうがキャッチしやすい。また、移動の実情にも言及する。
「アクセスの面でも、欧州のほうが便利なケースが多いです。アフリカ内で別の国に移動しようとしても直行便がなく、結局は欧州経由になることも珍しくありません。各国間の横のコネクティビティがまだまだ弱いのです」
その上で天野は、欧州から俯瞰した視点をベースにしながら、必要に応じて現地に赴くという現在のスタイルが、現時点では理にかなった体制であると考えている。


再生可能エネルギーから交通・通信インフラ、製造・販売支援に至るまで、地域のニーズに応じた多様な取り組みを展開。各国政府や現地金融機関との信頼協力関係を土台に案件形成を進めている
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モロッコ
陸上風力発電所事業支援(2019年)
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セネガル
FSRU傭船事業支援(2022年)
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コートジボワール
地球環境保全プロジェクト支援(2025年)
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ベナン
太陽光発電事業支援(2023年) 小学校向けランタン電化事業支援(2023年)
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アンゴラ
光海底ケーブル通信インフラ整備支援(2016年) 港湾拡張事業等向け支援(2019年)
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南アフリカ
自動車販売金融事業向け支援(2021年)
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エジプト
衛生用品製造・販売への支援(2021年) 陸上風力発電事業支援(2022~24年)
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ウガンダ
道路建設や建設機械等の輸出支援(2015年)
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ケニア
地熱発電設備の輸出支援(2024年)
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タンザニア
建設機械の輸出支援(2017年)
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モザンビーク
鉄道・港湾事業向け支援(2017年) LNG事業支援(2020年、2021年)
豊富な天然資源に開発余地。ユニコーン企業も次々誕生
天野は資源ファイナンス部門長として、石油・天然ガスなどエネルギー源の開発を担うエネルギー・ソリューション部、銅・リチウムなど主要鉱物の供給確保に取り組む鉱物資源部、そして水素・アンモニアなどを扱う次世代エネルギー戦略室を統括している。
いずれもアフリカのビジネスと非常に深い関わりがある分野だ。例えばエネルギーの分野では、日本の商社がモザンビークの液化天然ガス(LNG)事業に大きな権益を持っており、JBICとしても天然ガス田の開発にファイナンスで関与してきた。
鉱物資源の領域では、コンゴ民主共和国のように、リチウムイオン電池に不可欠なコバルトや、半導体製造に必要なタンタルなど、豊富な資源を持つ国が多い。また水素分野では、南アフリカやナミビアなどで、意欲的な取り組みが進んでおり、JBICとしても案件化に挑んでいる。
そして今、天野が特に注目しているのが、アフリカにおけるスタートアップの台頭だ。スタートアップの成長率は6大陸の中で最も高く、ユニコーン企業(企業価値10億米ドル以上の未上場企業)も次々と誕生している。特に、固定電話を経ずにスマホが一気に普及したことで、スマホ向けのテクノロジー系サービスが急速に拡大。とりわけ、決済を中心としたフィンテック分野は著しい成長を遂げている。
ナイジェリアやセネガルではEコマースが活発化し、ケニアではオンライン金融の普及が進む。そうした市場環境で、スタートアップに資金供給を行う日本のファンドも登場し始めており、新たなビジネスエコシステムが形成されつつある。
ファイナンス面では、フランス系金融機関がアフリカから撤退姿勢を強めている一方で、その間隙を縫って地場金融機関の台頭が目立ち始めた。パン・アフリカ的な、アフリカ全域を対象にする金融機関も出てきている。
「彼らは単純な金融仲介機能だけでなく、プロジェクトを自ら生み出す機能があります。そういった機関とどう向き合っていくかは、スタートアップ向けファンドの動向と合わせ、注意深く見ていく必要があると考えています」

4人に1人がアフリカ人の時代に。農業課題の解決で日本の強みも
さらに、アフリカの消費市場としての潜在性にも注目が高まっている。理由の1つは、その人口増加のスピード。国連の推計によれば、2050年には世界人口の4人に1人が、2100年には3人に1人がアフリカ人に達するペースだ。
「すでに2億人を超えているナイジェリアが代表的ですが、消費市場としての可能性に商機を見出している多くの企業が進出機会をうかがっています」
ナイジェリア以外にもエチオピアやエジプトなど、億越えの人口を抱える国が続々と誕生している。一方、付加価値の高いビジネスが少なく、人口増加以上の経済成長を実現できていないという課題もある。そうしたフロンティアをいかに市場開拓していくか、JBICの腕の見せどころともなるだろう。
アフリカ全体の傾向として、そうした増加する人口を支える農業セクターの生産性が非常に低いという課題もある。「日本企業が強みを活かして入っていく余地があると思います。特に物流面ですね。例えば、肥料や農業資材の輸送、倉庫業、穀物輸送用の船舶など、さまざまな企業に可能性が出てくるのではないでしょうか」


2010年以降、日本企業のアフリカ拠点数は、一時的に減少している年もあるものの、概ね右肩上がりで増加を続けている。アフリカ市場への関心と進出意欲の高まりがうかがえる
出所:外務省『海外在留邦人数調査統計(海外進出日系企業拠点数調査)』
ビジネス慣行に違いも。持続的に息長く向き合っていく
もちろん、日本企業が進出する上での懸念点も確実に存在する。例えば、ビジネス慣行の違いだ。コミュニケーションのツールやルールが異なり、担当者がつかまらないことも多い。「メールでのやりとりでは反応せず、WhatsAppを使わないとアポも取れないといったことが起きます。日本的な感覚で行くと、いつまでもキーパーソンにつながりません」
JBICの支援実績でも、政府の許認可プロセスに何度も対応を迫られることや、融資スキームの締結までに通常よりもはるかに長い時間を要するようなケースが珍しくない。こうした背景には、アフリカ諸国における行政手続きの煩雑さに加え、日本のように組織的に整備された仕組みが整っていない現地事情がある。担当者とのコミュニケーションも、対面での信頼構築が重視されるため、物理的な距離がある日本側には不利に働くこともある。
他国のスタンスや国際情勢の変化も、見逃せないポイントだ。特に、第2次トランプ政権発足後の米国の動向は影響が大きい。象徴的なのは、USAID(米国際開発庁)事業の停止だ。サブサハラ(サハラ以南)アフリカは、2023年にUSAID支援の40%を受け取る地域だった。
特に衛生分野では、USAIDの支援が感染症対策に重要な役割を果たしていることもあり、アフリカ全域で致命的な疫病の蔓延が懸念される。また、アフリカにおける米国の影響力低下は、中国有利な状況へのリバランスを促すことにもつながり得る。
中国は毛沢東時代から長い年月でアフリカにコミットメントしてきた国だが、時代に応じてスタンスを変えてきている。次第に商業的になり、資源開発に強く関与するようになった時期を経て、現在では持続可能性の重要性を公言するようになってきた。「現地の中国への反応や温度感も含め、その動向を注視していくことが重要です」
インフラの未整備や製造業の不足といった構造的な課題は、いまなおアフリカ各地に根強く残る。一方で、「アフリカのダイナミックな成長ぶりには目を見張るものがあります」と天野は強調する。「この潜在性は、まだ日本企業の間では十分に評価されていないように思います。TICADの開催を一過性のイベントに終わらせず、アフリカと持続的に、息長く向き合っていきたいと考えています」


JBIC 常務執行役員
資源ファイナンス部門長
天野辰之(あまの・たつし)
1995年入行。2023年7月より資源ファイナンス部門長としてアフリカ地域を管轄している。19年から23年までは調査部長として日本企業の海外展開や地政学分析を担当。東京大学法学部卒業。ペンシルヴァニア大学ロースクール修了。ニューヨーク州弁護士