JBICストーリー
成長著しい中東欧のスタートアップ投資を促進すべく2023年に設立されたVCファンドff Red & White。JBICでのキャリアを経てファンド立ち上げから携わる太田雅之に、現地スタートアップの潜在力と手応えを聞いた。
ff Red & Whiteパートナー(JBICより出向) 太田雅之 2003年JBIC入行。資源金融部、経営企画部人事室、電力・水事業部、JBIC IG Partners(JBIC IG)などを経て23年より現職。慶應義塾大学経済学部卒、ケンブリッジ大学大学院修了
テックハブの有望なスタートアップと日本企業の橋渡しが役目
中東欧地域のスタートアップを投資対象とし、ポーランド・ワルシャワのベンチャーキャピタル(VC)ファームが運営するVCファンドのff Red & White。5人のパートナーのうちの1人がJBICの太田雅之だ。
太田は新卒でJBICに入行し、資源およびインフラ関連のプロジェクトファイナンスを中心にキャリアを歩む。「入行当初はマクロ分析に関心がありましたが、プロジェクトファイナンスに携わるうちに、現場のダイナミズムに惹かれていきました」
転機となったのは、2017年にJBICとコンサルティング会社の経営共創基盤(IGPI)が設立した投資アドバイザリー会社JBIC IG Partners(JBIC IG)に加わったことだ。設立準備から関わり、ファンド投資の現場へ軸足を移すことになる。
ヘルスケアからリサイクル技術まで多様な知識を日々インプットするとともに、スピード感をもって投資を判断する力を養っていると太田は言う
JBIC IGは19年にバルト地域のファンドマネージャーであるBaltCapと共同で北欧・バルト地域を対象とするファンドであるNordic Ninja VCを設立。さらに23年には米国とポーランドに拠点を置くff Venture Capitalと協働し、ff Red & Whiteも設立。
北欧に続き、中東欧エリアを対象とするファンドを創設した狙いはどこにあるのだろうか。「対象はポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、ルーマニアを中心に、ドイツ、オーストリア、スイスも含まれます。この地域は国立の工科大学などで学んだエンジニア人材が豊富で、欧米の大手テック企業のR&D拠点が多くあります。一方で日本企業にとっては依然として『製造拠点』という認識が強く、協業の対象としては注目されていません。その橋渡しをするのがわれわれの役割になります」
ビジネスモデル
多国籍チームの合意形成は膝を突き合わせてのミーティングで
現地のスタートアップの特徴の1つとして、太田は「レジリエンステック」を挙げる。「ウクライナやNATO加盟国の防衛・安全保障投資の拡大を背景に、インフラ、エネルギー効率、選挙妨害対策などを含む広義のセキュリティー領域が活況です。エンジニアは潤沢にいても、PRやマーケティングは不得意なスタートアップも多く、大企業との連携に高い関心を持つ傾向があります。見た目は地味でも中身で勝負する会社が多いですね」
投資先の選定は太田を含む日本人2名、ポーランド人2名、米国人1名の混成チームで行っている。「先行する北欧ファンドと同様に、日本企業への戦略支援とローカルを交えた混成チームというスキームは共通です。米英市場への進出を支えつつ、日本企業との接続を意識しています」
混成チームならではの意思決定の難しさがないわけではない。「価値観や市場観は異なりますが、四半期ごとのオフサイトミーティングも活用して目線合わせとPDCAサイクルの徹底に努めています。回を重ねるごとに合意の質が上がっている手応えを感じます」と太田は語る。
ff Red & Whiteは多国籍チーム。市場観は異なるが、合議を重ね意思決定を行っている(右端が太田)
現地にいるからこそ見える課題もある。マーケティング力に課題を抱えることの多い現地スタートアップを日本企業へ紹介する際には、その企業価値を明確に提示する必要がある。「この『伴走編集力』を磨いてきたつもりです」
設立からの2年間はあっという間だったと太田は振り返る。「多国籍チームでの意思統一は、プロジェクトファイナンスで経験した国際案件とは一味違う難しさですが刺激的です。また、ヘルスケアから量子コンピューター、リサイクル技術まで新しい分野を日々学びながら、投資判断に必要な共通項を素早く抽出する力が鍛えられました」
投資テーマは「エンタープライズソフトウエア」「インダストリアルテック」「サステナブル・トランスフォーメーション」の3本柱。「生成AIの急拡大を受けエンタープライズソフトウエアでは選別を厳格化していますが、インダストリアルテックの領域は有望です。例えば物流拠点での仕分け自動化を進めるポーランドのNomagicは、欧州の公的機関からの大型資金調達も得て積極的に事業展開を進めており、日本企業との協業にも関心を見せています」
スタートアップのハブとして注目されるポーランド。物流向けAI搭載ロボティクスのNomagicも投資先の1つだ
日本市場への適合性や相性も大事な投資基準に
投資判断基準は「チームの強さ、顧客に刺さるプロダクト、市場規模」だが、日本市場への適合性や日本企業との相性も重視している。日本企業との協業に関しても複数の協議が進行中だ。「例えば新たな通信技術を開発するスタートアップが、日本でのパートナーシップ強化に向けて動いています。今後1~2年のうちに公表可能な案件がいくつか出てくる見込みです」
JBICとの連携にも意欲的だ。「JBICのエクイティファイナンス部門でもスタートアップ投資を強化しています。当ファンドは起業直後のアーリーステージへの投資、JBICはやや後期・大型への投資という点で補完関係にあります。今後さらに協働機会が増えるでしょう」
「JBIC本体へ戻った際には、VCファンドでの経験を生かし、従来の銀行と顧客の関係を超えた新しい協業モデルづくりに取り組んでみたい」と意欲を語る。
ff Red & Whiteパートナー(JBICより出向)の太田雅之
JBICと経営共創基盤(IGPI)が設立した投資アドバイザリー会社 JBIC IG
Partners(JBIC IG)と、米国およびポーランドにてファンド組成実績のあるff Venture Capitalが協働し、2023年に中東欧を投資対象とするベンチャーキャピタルファンドff Red & Whiteを設立





