グローバルサウスとの連携は、課題解決に貢献しながら、日本の国益を守ることのカギになる――。なぜ日本はグローバルサウスを重視するのか。その中でJBICはどんな役割を果たすのか。「インド」「東南アジア」「南米」「中東・アフリカ」という特に注目の4地域において、JBICはこれまでどのような支援を行ってきたのか。関根宏樹常務執行役員が語った。


JBIC常務執行役員
インフラ・環境ファイナンス部門長 関根宏樹さん 1995年、東京大学経済学部卒業、日本輸出入銀行(現JBIC)入行。2005年、ロンドン・ビジネススクール金融修士課程修了。インフラ・ファイナンス部門などを経て、20~21年、英国王立国際問題研究所客員研究員。帰国後、企画部門業務企画担当特命審議役として、法改正に向けた実務を担当。23年より現職
世界のあり様の変化に伴い、高まるグローバルサウスの存在感
新興国や開発途上国を総称して「グローバルサウス」と呼んでいますが、実はこの「サウス」という言葉が使われていることは大変意味深いです。地図を見るとわかるように、グローバルサウスの国々は、地理的にすべて南に位置しているわけではありません。
それなのに、なぜ「サウス」と呼ぶのか。それは私たちがこれまで「南北問題」や「南南協力」といった世界の歴史について学んできたなかで、「サウス」が世界の開発から引き離されており、しっかりと目を向けなくてはいけない存在だという見方をしているからだと考えます。
つまり、これまでの歴史的な積み重ねの中で、経済的な、そして国際社会における権利の格差を是正する概念として「サウス」が使われてきたことが、新興国や開発途上国が置かれる立場と合致したからと言えるのではないでしょうか。
そのグローバルサウスがなぜ今、注目されているのか。まずは、その存在感が非常に大きくなってきたことが挙げられます。国連の枠組みによると、現在、世界でグローバルサウスと称される国は、国連の正式加盟国193カ国のうち133カ国(中国を含めない)にも及びます。
2050年には、グローバルサウスの国々の人口は世界の3分の2に相当するとも言われています。経済規模を見ても、50年にグローバルサウスは世界のGDPの3割を超えるとみられ、これは現在の中国や米国のそれぞれの世界のGDPに占める割合に匹敵します。
次に、世界情勢のあり様が変わってきていることです。第二次世界大戦後、G7など経済発展が進んだ国がグローバルガバナンスを決め、引っ張っていく構図が続きました。しかし今、先進国も国内での分断など厳しい事情を抱え、世界に目を向けることが難しくなっています。世界の未来像を考えたとき、先進国だけがリーダーシップを取り、グローバルガバナンスをつくる仕組みは実態を反映しづらくなっています。


各国の多様性を尊重してきた日本。グローバルサウスは「パートナー」に
将来のグローバルガバナンスを考えていく上で、今後、地球上の活動の大きな部分を占めるとされるグローバルサウスの存在感は明らかに大きくなっていますし、それを前提とした世界のあり様を検討することが必須となっているのです。
日本も世界のあり様の変化を踏まえ、グローバルサウスとの連携強化を図っています。大前提として日本の立ち位置を見ると、日本は豊富な資源を有するグローバルサウスの国々から、エネルギー資源や食料を輸入しており、世界の安定の中でこそ、繁栄し持続できる国ですから、世界のあり様に深く関わっていくことが必要です。
将来を見通して日本自身の持続可能性を考える上でも、グローバルサウスと向き合い、協働していくことが、極めて重要なのです。日本ファーストでは生きていけないという現実があります。
24年6月に日本政府が発表したグローバルサウス諸国との連携強化に向けた方針には、日本がグローバルサウスと向き合うなか、重要なポイントが述べられています。その中でもカギとなるのが、「対等な立場で共創するパートナー」という認識です。
日本は平和国家として、これまでも開発協力において自分たちの価値を押し付けるのではなく、各国の多様性を尊重してきた結果、信頼を得てきました。
今後さらに、グローバルサウスとは「与える側」でも「依存する側」でもなく、未来の経済社会を共に創る「共創するパートナー」として、課題を共有し、共に解決策を模索する。そして、その結果を日本国内へ還元することは、実は日本に国益をもたらすことにもつながるということを声高に言いたいです。
ビジネス環境が変化したインド。注目はエネルギートランジション
国際協力銀行(JBIC)は、日本政府が示したグローバルサウスとの連携強化に向けた方針に則り、各国・各地域の事情に合わせ、事業を展開しています。
まず、インドは最も連携を強化している国の1つです。かつては、中央政府や州政府間で法律・制度が異なるなど事業展開に際して調整や問題解決が難しく、インドで事業を始めることはできても、利益を生み出すことは困難と言われていました。私自身も何度も辛苦を味わいました。
しかし、現在は変化が感じられます。モディ政権下で改革が進むなか、ビジネス環境は大きく変化し、日本企業にとっても、パートナーとしてビジネスに取り組みやすい国、そしてマーケットになりました。
なかでも、インドで注目しているのは、エネルギートランジション(化石燃料中心から持続可能な新しいエネルギーシステムへの移行)分野です。
インドは2070年までのカーボンニュートラル達成を宣言しています。かなり先の話だと思う方もいるかもしれませんが、私の肌感覚、あるいはビジネス界の肌感覚で言うと、エネルギートランジションに関して世界で最も取り組みが進んでいるのではないかと思うほど活気があります。再生可能エネルギーの事業開発と並行し、いち早く送電網の整備に向けた民間の投資制度整備なども進めています。

JBICは10年来、この分野での投資環境の整備に向け、努力してきたなか、ようやく実績が目に見える形になってきたところです。例えば、インド政府と合弁で、インド全土の産業開発支援を行っているNICDC(インド産業回廊開発公社)を立ち上げ、4つの工業団地の整備を進めました。うち1つは、半導体産業の誘致に向け、最先端のグリーンエネルギーの供給が可能です。
また、23年にはインド政府との協力の下、インドにおける再エネ事業、電気自動車関連事業、廃棄物処理事業及び水処理事業等の環境保全分野、そして日本企業と協業可能性があるインド企業またはプロジェクトも投資対象とした日印ファンドを設立しました。出資資金供給によりイノベーションや日印協業を一層強化する狙いです。
このようにエネルギートランジションを牽引して、個別事業のみならず、送電網や工業団地の整備への支援やイノベーション・日印企業協業後押しまで、インドとの共創関係が複層的に構築できる段階に入ってきたと認識しています。


東南アジアではAZEC構想に基づき、国ごとに再エネ事業を支援
東南アジアでも同じくエネルギートランジションが大きな課題であり、かつ、新しい産業を発展させる機会であると捉えています。
日本政府が提唱した「アジア各国が脱炭素化を進めるという理念を共有し、エネルギートランジションを進めるために協力する」ことを目的としたアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想に基づき、JBICは、国ごとに個別の再エネ事業等のエネルギートランジション事業の組成・推進を協議する官民の協議枠組み(プラットフォーム)を形成し、運営に携わっています。
この共同体というのは、1つの大きなマーケットを創ることにつながり、新しい産業を呼び込む意味でも有効な役割を果たします。同時に、国によって課題は異なりますから、それぞれに向き合い、パートナーとしての共創プランを考えていくという双方向のアプローチです。
インドネシア、フィリピン、ベトナム、最近ではマレーシアといった国々のエネルギートランジションを先導する官民含めた関係者と議論し、日本の技術やソリューションを提供する際にファイナンスの提供も進めています。



開拓の余地が大きい南米。資源確保と持続可能性のために
南米は開拓の余地が大きいと考えています。日本にとっての資源の安定的確保といった面だけでなく、例えば採掘する建設機械を電動化するなど、資源の開発自体をいかにサステナブルな方法で進めていくかといった点も重要となるなか、日本の技術が大きな付加価値を提供できるチャンスがあるでしょう。
JBICはチリで、日本企業が出資する銅鉱山開発事業への支援を強化し、鉱物資源の安定供給を支え、さらに、同国のエネルギー省と水素やアンモニア分野などでの業務協力協定を締結して、チリとの脱炭素推進に向けた協力を進めています。
資源だけではありません。日本が高い技術力を持つ水資源の確保や食糧生産の効率性といった面でも、日本は貢献することができるのではないでしょうか。資源を糸口に見えてきた相手国の課題にソリューションを提供するといったアプローチがよいと考えています。


難しさがある中東・アフリカ。小規模な事業にJBICの意義
中東・アフリカは進出が難しいというイメージかもしれませんが、実は、世界はさまざまな形でこの地域と関わっています。特に北アフリカは欧州に近いこともあり、再エネ事業を進め、それによって得た電力を欧州に輸出するといった、クリーンエネルギーの供給網の整備が進むとみられています。
エジプトでの風力発電事業については、継続的に日本企業が開発を進めており、JBICはファイナンス面で後押ししています。また、モロッコとは、エネルギー移行と持続可能な開発に向けた協力を強化するため、覚書(MOU)を締結したばかりです。
サハラ砂漠以南のサブ・サハラ地域については、豊富な資源を有するものの、資源によって得ることができる富の配分が行きわたっていないという格差をどう是正するかという難しさは残っています。資源開発や輸送に向けたインフラ開発を進めるにあたっての法整備や投資制度など課題があることも否めません。しかし、見える課題には真摯に向き合っていく姿勢が必要です。
JBICはアフリカの小国ベナンで、太陽光発電事業などを対象として融資しています。投資リスクへの懸念や収益率を第一に考えると着手できませんが、小規模な事業でも積み重ねていくことで、事業展開の裾野が広がります。時間も要し、民間ではなかなかできないこのような事業こそ、JBICで手掛けていく必要があると考えています。
これはグローバルサウス全体での事業展開でも言えることですが、これからカギとなるのは、世界のさまざまな公的金融機関や民間金融機関ともパートナーシップを強化し、多国間連携で取り組むことです。
世界のさまざまな支援ツールを段階に応じて適用し、さらにアレンジして、連携の仕組みそのもののブレークスルーを実現していく。オールジャパンで進めていくという従来的なやり方ではなく、グローバルコンソーシアムの形成をリードしていく実現力が必要になっています。




グローバルサウスとの連携は、日本にとって時代の転換点となる
グローバルガバナンスというのは、将来、地球をどういう形に持っていくかの調整であり、それを考える上で、グローバルサウスの存在はなくてはならないものになっています。
その中でJBICの役割は、常に未来志向で実態の変化を敏感に感じ取り、長期的なビジョンに立って日本のあるべき姿を念頭に置きながら、各国・各地域の状況に応じた課題に対応する。そして、そのために必死に議論し、スピード感を持って解決していくこと自体が、日本へさまざまな形で還元されるアプローチであることを常に意識することです。
日本がこれからも継続的に繁栄し、幸せに生きるためにはどうすればいいのか。世界の安定の中で生きていかなければいけないなか、どうしたらサステナブルな世界にできるのか、そこにプライオリティを置くことの重要性を今、突き付けられていると考えます。
日本は、与えるほうでも、与えられるほうでもない。双方向なのです。共創によってWin-Winを生み出すことを意識していく時代に入ったと考えています。そういう意味でもグローバルサウスとの連携というのは、後世から見ると、日本が世界で生きていくための道筋の中で大きな転換点だったと位置付けられるようになるとも予感します。
連携を強化してきた


JBIC常務執行役員 インフラ・環境ファイナンス部門長 関根宏樹さん