JBIC「グローバルサウス」プロジェクト7選
国内電化率の低い西アフリカのベナン共和国で、クレジットラインを締結。初のアフリカ向け「地球環境保全業務」案件であり、ホスト国の社会課題解決のニーズを満たす、意義あるプロジェクトとなった。担当した深谷聡子さん、平戸瞳さんに、その意義と経緯を聞いた。


学校の屋根に取り付けた太陽光パネルとつながるランタン充電装置
TICAD7を契機に動き出した再エネ2事業への協調融資
アフリカ大陸の西部に位置するベナン共和国は、ナイジェリアなど隣国から化石燃料や電力を輸入している。国内電化率は40%台と低く、電力自給率はわずか10%台だ。国家開発計画の中で、ベナン政府は2026年までに計150MWの太陽光発電の運転開始を目標に掲げている。
そんなベナン政府に対し、JBICは23年6月、太陽光発電事業に2900万ユーロ、ランタン電化事業に100万ユーロという2案件の協調融資を決定した。地球環境保全業務(通称「GREEN」)の下で初のアフリカ政府向け案件であり、JBICとして初のベナン向け案件だった。一体どのような経緯があったのだろうか。
「ベナンへの融資は商社からいくつかお話は頂くものの、これまで実現していませんでした。一方で、政治経済は他のアフリカ諸国に比べて安定しており、ポテンシャルが高い国と認識はしていました。そんな中、19年に横浜で開催されたTICAD7(第7回アフリカ開発会議)でのタロン大統領とのハイレベル会談が契機となり、数年前から温めていたベナン政府との関係構築が実を結ぶこととなったのです」と、JBICエネルギー・ソリューション部第3ユニット長の深谷聡子さんは説明する。
そうは言っても、協調融資決定に至るまでには紆余曲折があった。
21年3月にJBICはベナン政府とクレジットライン(信用与信枠)を締結したが、時差や商習慣の違いから、個別のプロジェクトの協議が進んでいない状況だった。ベナンのワダニ経済財務大臣に、「一度だけでも面談の機会をもらえないか……」と嘆願するレターやメッセージを何度も送るも、なしのつぶて。現地に行かなければ物事は進まないと、エネルギー・ソリューション部に所属していた平戸瞳さんが当時の部長に同行する形でベナンに向かった。
すると、ベナンへ向かう飛行機の中で偶然、経済財務大臣に遭遇。平戸さんたちは機内の片隅で大臣と面談をすることができ、そこからプロジェクトは一気に扉が開かれたのである。機中での面談とその後実現した現地での面談で、当初想定していた小学校向けランタン電化事業以外にも資金需要の高いプロジェクトがある、というベナン政府の要望が明確になった。

大臣と直に話すことで、現地のニーズと懸念に気づいた
今回の太陽光発電事業への融資はベナン最大級の総出力規模50MWの太陽光発電施設が設置されたサイト内に、出力規模25MWの太陽光発電設備と変電設備2機を新設するものだ。「クリーンエネルギーに基づく電力供給拡大を通じて、ベナンの再生可能エネルギー導入促進と、他国の化石燃料に依存していたゆがんだエネルギー構造の改善にも貢献できると期待されています」と、平戸さんは言う。
小学校向けランタン電化事業は、未電化地域にある小学校の屋根に太陽光パネルを設置し、太陽光発電による電気を充電したランタンを児童に貸し出すことで各家庭の電化も実現させる事業だ。日本の一般社団法人GOOD ON ROOFS(グッドオンルーフス)が進める事業で、ベナンでの展開について相談され、それを候補案件としてクレジットラインが締結された経緯があった。
「しかし大臣と話してみると、ランタン事業に加え、太陽光発電にもニーズがあることがわかりました」と深谷さん。さらに大臣からは、ランタン事業の持続性に対する懸念も示された。「子どもたちに供給されるランタンが盗難や故障、もしくは日々の食料を得るために売り渡されてしまうのではないか、と指摘されました」
融資を希望する人たちが何を求めているかを見極めながら案件を補正していくことが大切な一方で、ランタン事業により小学校に通える子どもを増やすという社会貢献的側面も忘れてはならない。「グッドオンルーフスの事業では、子どもが持ち帰るランタンで家の中が明るくなるだけでなく、親の使用する携帯電話の充電もできるため、親が子どもを学校へ送り出すきっかけにもなっています」と、平戸さんは話す。

小学生からランタンを受け取る様子
ファイナンスによる社会貢献の潜在的な可能性に気づいた
今回の案件は、これまでエネルギー・ソリューション部が担ってきたアフリカ諸国への融資に比べると小規模である。それでも、ESG投資への関心の高まりと、環境保全や教育など社会的に意義のある案件を推し進めようという流れもあり、「JBICにとっても潜在的な可能性に気づけた」と深谷さんは言う。
また、日本とグローバルサウスとの経済連携という意味においても、小さくとも重要な一歩だったと言えるだろう。JBICのグローバルサウス向け支援では、カーボンニュートラルやホスト国の社会課題解決に重点を置いており、個別の国の事情に合わせた対応を取る姿勢を重視している。
加えて、現場を担当した平戸さんは「援助や円借款ではなく、融資という形を取った点でも先方政府側の真剣度は高い。対等に意見交換できることは今後の関係づくりにもメリットがあるはず」と胸を張る。
ファイナンスを通じた社会貢献の取り組みは、日本とグローバルサウスをつなぐ1つのカギになるはず。JBICは今後も、きめ細かい支援を加速させていくだろう。


資源ファイナンス部門
エネルギー・ソリューション部
第3ユニット ユニット長
深谷聡子(ふかや・さとこ)さん
2005年入行。外国審査部でソブリンの信用力調査、ジャカルタ事務所で現地政府との政策対話立ち上げ、営業部ではインドネシア向けサムライ債保証、世界銀行との協調融資、ロシア・中央アジア・アフリカの案件等に従事。現在は管理職業務と育児の両立に奮闘中


資源ファイナンス部門
エネルギー・ソリューション部
第3ユニット 係員(当時)
平戸 瞳(ひらと・ひとみ)さん
2022年入行。アフリカ政府向けのGREEN 案件組成や既往案件管理等に従事。現在はパリ駐在員事務所駐在員。早稲田大学政治経済学部卒、パリ政治学院メディアコミュニケーション修士課程修了