JBIC「グローバルサウス」プロジェクト7選
世界の銅埋蔵量・生産量の2割を占めるチリの銅鉱山開発へ、JBICが追加融資を展開。AI開発などでますます需要の高まりが見込める銅の安定供給に寄与する開発プロジェクト追加融資を担当した松野木隼人さんに聞いた。


ケブラダ・ブランカ鉱山の採掘場及び鉱石処理施設
新型コロナへの対策として、衛生環境整備等に追加融資を実施
グローバルサウスの中でも、南米ではブラジルやアルゼンチンに次いで、チリがその主要国として近年、注目を集めている。とりわけ、世界の銅埋蔵量・生産量の2割を占める「銅大国」として知られ、日本にとっても最大の銅供給国である。
日本は銅地金の原料である銅精鉱の全量を輸入に頼っており、長期的な銅資源の安定供給が不可欠だ。銅は送電配線やEV、再生可能エネルギー機器、半導体など幅広い用途で使用され、今後はAIやデータセンター向けにもさらなる需要の高まりが見込める。その意味では、チリは長期間にわたって、安定的な資源供給を行っている重要なパートナー国であると言えるだろう。それゆえに、日本からもさまざまな支援や融資の取り組みが行われている。
とりわけチリ北部、標高4400メートルに位置するケブラダ・ブランカ銅鉱山の開発プロジェクトには、日本企業が計30%出資参画し、JBICでは2019年の融資金額9億米ドルのプロジェクトファイナンスを含む融資承諾(計20億9000万米ドル)を行ってきた。

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プロジェクトの建設が進むなか、世界的に新型コロナ感染症が蔓延したことで感染対策を含めた衛生環境整備が追加的に発生した。また、建設作業員の感染隔離や建設効率の低下などに由来した建設期間長期化の影響により開発投資額も増加したことから、出資参画する日本企業からJBICへ支援の要請があったという。
これを受けて、23年3月、ケブラダ・ブランカ銅鉱山の開発を対象とし、住友金属鉱山との間で融資金額6億2500万米ドル(JBIC分3億7500万米ドル)、住友商事との間で融資金額1億2500万米ドル(JBIC分7500万米ドル)を限度として、新型コロナ感染拡大に伴う建設期間中の衛生環境整備等に必要な資金を、民間金融機関と協調融資する契約を締結した。
この追加融資を担当したJBIC資源ファイナンス部門鉱物資源部第1ユニットの松野木隼人さんは、「融資金額が大きい分、整理しなければならないポイントが多く、世の中の変化がプロジェクトに影響を与えることも少なくありません。ですが、上司をはじめ営業経験豊富な先輩方にもアドバイスをもらい、やりがいのある仕事ができました」と語る。
日本企業を含むスポンサーは早期のプロジェクト完工及び生産開始を目指していたことから、今回の融資はプロジェクトに出資参画する日本企業2社に対するバックファイナンスとして実施された。バックファイナンスは融資先の会社の信用力に依拠することから、融資契約締結までの期間が短くスピーディな対応ができる利点がある。
これまでも JBICには、同じくチリ北部のセンチネラ銅鉱山の開発支援など、チリでの銅鉱山開発向けの支援実績が多くあるが、特にケブラダ・ブランカ銅鉱山は埋蔵量が豊富だ。23年時点で山命約27年、可採鉱量が約700万トンと、フル操業後は世界有数の生産量を誇る鉱山となる長期かつ巨額な案件となった。
バックファイナンス

攻めの姿勢で支援ができるJBICならではの取り組み
ケブラダ・ブランカ銅鉱山は建設中のプロジェクトであり、確認事項は多岐にわたった。だが、銅の需給が逼迫し緊急性が高いなかで建設に必要な資金でもあったことから、5カ月という短期間で大型案件を、松野木さんは主担当としてまとめ上げたという。その後、プロジェクトは無事に完工し、24年5月には日本への最初の銅精鉱の受け入れが行われた。
チリは治安や社会環境が安定しており、日本の戦略的パートナー国だ。チリにとっても銅生産は極めて重要な産業である。銅価格は世界情勢の変化により乱高下しやすく、わずかな価格の変化がプロジェクトの収支に大きく影響しがちだが、これまで日本企業はチリの銅鉱山の開発・ 運営で大きな役割を果たしてきた。日本の公的金融機関として、長期安定的な鉱物資源の供給確保に向けた支援が今後も必要とされる。
他方で、鉱山開発は長期にわたり投資金額も大きくなることから、カントリーリスクの影響も大きく受ける。しかし、チリはOECDに加盟する「南米の先進国」の位置付けで、先述したように政治経済状況も安定している。経済成長のための外国投資誘致を重視し、長年にわたり、ビジネスフレンドリーな投資環境を維持していることも重要な利点の1つだ。

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また、新型コロナのような未曽有の事態においても、プロジェクトに出資する日本企業が滞りなく事業を継続できるように JBICが支援を行うことは、日本が貴重な権益を確保維持することにつながり、意義が深い。「コロナ禍という厳しい状況にあっても臆せずに、顧客のために攻めの姿勢で支援を考えられるのは JBICならではと思います」と松野木さんは語る。
リチウムをはじめとして銅以外の鉱物資源でもチリは産出国として注目を集めており、JBICでもさまざまな企業支援の取り組みが行われている。グローバルサウスの主要国であるチリとの関係強化に重要な役割を果たしていると言えるだろう。


資源ファイナンス部門
鉱物資源部 第1ユニット
松野木 隼人(まつのき・はやと)さん
2022年入行。鉱物資源部にて米州大陸やアフリカのベースメタル、バッテリーメタル案件に従事。ペルー及び太平洋島嶼国を担当。早稲田大学政治経済学部卒