わが社のグローバル展開 株式会社トスコ
人々の命や暮らしに関わる医薬・化学品業界で喫緊の課題となっているのがサプライチェーンの多元化だ。トスコは「脱・中国依存」でインドに着目し、日本品質の原薬製造で世界の医薬品不足に応える。
株式会社トスコ/代表取締役社長 津森 敦さん 中央大学理工学部応用化学科在籍時に、研究生として理化学研究所有機金属化学研究室で1年間メタロセン触媒の研究に従事。1992年に米国化学薬品メーカーのシグマアルドリッチ社に入社。テクニカルサービス部と欧州子会社のセールス&マーケティングマネジャーを兼任。父が創業した株式会社トスコに95年に入社。2000年6月より現職。
リスク分散で中国からインドへ。高い技術力と熱意に感じた可能性
「ともかく仕事に対する熱量が高かった。初めて会ったときに意気投合して、一緒に仕事したいと直感しました」
インドで医薬品の原薬・中間体*の自社製造を手がける株式会社トスコの津森 敦代表取締役社長は、インド進出のきっかけはある若い経営者との出会いだったと振り返る。
1980年に津森社長の父親が創業したトスコの歴史は、医薬・化学品とは無縁の事業から始まった。商社として主に中国から木材や壁紙などの商材を輸入していたが、2000年に後を継いだ津森社長は、インターネットを介した直取引が容易になる中、従来型商社の役割は減っていくと判断。大学卒業後に就職した米国の化学薬品メーカーで培ったキャリアを生かし、景気に左右されにくい医薬・化学品への事業転換を図っていく。
当初は「世界の工場」と呼ばれた中国とのビジネスがほとんどで、医薬・化学品の原料調達や日本の化学メーカーの委託製造を中国に仲介する事業で成長したという。しかし10年代に入ると日中関係の悪化や、中国政府の厳格な環境規制(青空防衛計画)による化学工場の大規模閉鎖などが事業に影響を及ぼし始めたことから、リスク分散のためインドに目を向けるようになった。
少しずつ取引を始める中で、本格的にインド進出の契機となったのが、化学品の検索サイトでの若いインド人経営者との出会いだった。「こういう原薬を探しているとサイトに掲載したら、すぐに連絡がきたんです。レスポンスが早く明快だったので、すぐに会いに行きました」
この経営者は当時まだ30代前半ながら化学品商社と医薬品原薬・中間体製造工場を経営。従業員は20代中心で活気に満ちており、日本の大手製薬会社との取引実績もあった。これは厳しい品質管理基準を満たしていることを意味する。
*原薬は薬の中に含まれる有効成分、中間体は原料から原薬になる途中の化合物のこと
2024年に医薬品原薬や中間体を製造するインドのGMFC Labsを完全子会社化し、事業拡大に弾みをつけた
GMFC Labs買収の決め手となったのは、日本の医薬品大手への納入実績があり、厳しい品質管理基準を満たしていることだった
熱意と技術力に大きな可能性を感じてビジネスを一緒にやろうと買収を決断した。19年にまず商社を、さらに24年には製造工場をトスコのグループ傘下とし、現地での製造体制を強化した。
「インドはすでに『世界の製薬工場』と呼ばれ始めていて、中国に次いで重要な位置にありました。他国に比べて若い労働人口が圧倒的に多く、教育レベルも高い。英語でやり取りできるのも大きな利点です。日・インド包括的経済連携協定があるため医薬品の多くは日本への輸出には関税がかからないメリットもあります」
ニーズ急増で規模を拡大、「面のビジネス」で安定供給へ
コロナ禍を経て、トスコのインド戦略は追い風を受けた。度重なるロックダウンで中国の工場が閉鎖し供給がストップ、世界中で薬が不足したことで、一国集中のリスクが顕在化。中国からインドへ医薬品原料・原薬の調達先変更を望む企業からの問い合わせが、日本のみならず欧州など各国から急増しているという。「医薬品不足は人の命に関わる問題であることから、脱・中国のサプライチェーンシフトが加速度的に進んでいます。この流れは今後も続くでしょう」
特に引き合いの多いフランスには20年に現地法人を設置。25年にはインドの別の工場を買収し、製造規模を拡大した。当初数十人だった現地従業員は今や400人を超えている。
日本流のやり方を押し付けるのではなく、その国の価値観を尊重して任せることが信頼を築くと津森社長は語る
インドでの事業拡大に活用したのがJBICの融資だった。「日本の政府系金融機関からの融資は、現地での信頼獲得にもつながっています」と津森社長は話す。
特筆すべきは、インドに日本から社員を派遣しておらず、現地スタッフが事業を担っている点だ。中国やフランスの現地法人でも同様だ。
「日本の企業が陥りがちなのは、社員を派遣し日本流のマネジメントを押し付けること。そうすると、その国の文化や商習慣に合わなくなりコミュニケーションエラーが生じることになります。その国の文化や価値観を尊重しつつ、任せることが信頼を築くと考えています」
もちろん信頼関係を維持するための、綿密なコミュニケーションは欠かさない。インドとの時差は3時間30分と比較的小さいため、ビデオ通話やチャットなどを使ってリアルタイムでのやり取りを大切にしている。取材の間も「今もいろいろと連絡が入っていると思います」と笑顔を見せた。「日本企業の中にはインド進出に二の足を踏んでいるところも多いですが、大きな機会損失だと思います」
インドで日本品質の医薬品原薬・中間体を製造し、世界へ届ける。トスコのビジネスモデルはまさに地政学リスク分散のモデルケースと言えるだろう。「日本とインドという線ではなく、日本とインド、そして世界という面でビジネスを構築することでリスクを減らし、多くの国の医薬・化学品業界に安定的に提供していきたいと考えています」
今後は、インド拠点のさらなる規模拡大や顧客ニーズが大きい欧州拠点の拡充を視野に入れつつ、米国市場への参入の機会を伺う。トスコの挑戦はまだまだ続く。
株式会社トスコ
| 1980年 | 株式会社トスコ設立 |
|---|---|
| 2001年 | 中国現地法人を設立 |
| 2019年 | インド現地法人を設立、 インド法人GM Fine Chemicalsを買収 |
| 2020年 | フランス現地法人を設立 |
| 2021年 | インド法人Snehaa Pharmaを買収、 精密化学品の製造開始 |
| 2024年 | インド法人GMFC Labsを買収、 医薬品原薬の製造開始 |
| 2025年 | インド法人Vasistaを買収、 医薬品原薬の製造規模拡大 |
2024年12月、トスコとの間で融資金額1億8000万円(JBIC分)の貸付契約を締結。りそな銀行との協調融資。トスコが医薬品および化学品の原薬・中間体の製造・販売事業を行うインド法人GMFC Labs Private Limitedの株式を追加取得する資金を融資するもの。本融資を通じ、日本企業による海外M&Aを含む海外事業展開を支援し、日本の国際競争力の維持および向上に貢献する





