特集エネルギー安全保障の新たな選択肢 バイオ燃料の現在地
竹が多く自生するインド・アッサム州。モディ政権は重要な地域の1つとして開発に注力する
急激な経済成長と人口増加が続く中、化石燃料を輸入に頼る状況から脱却し、エネルギー自給率の向上を目指すインド。2070年のネットゼロ達成に向け、国家規模でバイオ燃料の導入を急速に進め、いまや米国、ブラジルに次ぐエタノール大国へと躍進している。サトウキビなどの食料を燃料として使用することによる食料競合リスクを見据え、現在は竹や農業残渣、有機廃棄物などを活用した第2世代バイオ燃料の産業育成にも着手。独自の持続可能なグリーンエコノミーが構築されつつある。
インド北東部のアッサム州で世界初となる竹由来のバイオエタノールを製造する商業プラントが動き出している。事業を担うのはAssam Bio Ethanol Private Limited(ABEPL)だ。JBICはインド政府系金融機関Power Finance Corporation Limited(PFC)との間で融資金額600億円を限度とする貸付契約を締結し、PFCを通じてこの先進的なプロジェクトを支援している。
JBIC インフラ・環境ファイナンス部門 電力・新エネルギー第2部 第2ユニットの渡邉拓也(左)と中村明日香(右)
第2世代バイオエタノール、竹が示す新たな可能性
事業主体のABEPLについて、融資契約締結に深く関わった渡邉拓也はこう話す。「本プロジェクトを推進するために設立された国際色豊かな事業会社です。メインスポンサーは、アッサム州政府およびインド中央政府の資本が入ったNumaligarh Refinery Limited(NRL)です。加えて、フィンランドの竹のエタノール化技術を持つ企業や電力会社が共同出資。プラントはNRLの広大な石油精製工場に隣接して建設され、ABEPLが製造したエタノールは、NRLが主要な買い取り手として引き取る仕組みになっています」
JBIC インフラ・環境ファイナンス部門 電力・新エネルギー第2部 第2ユニットの渡邉拓也
竹を原料とするメリットについて、渡邉とともに案件を担当した中村明日香はこう語る。「従来のサトウキビなどを原料とするバイオ燃料は食料との競合が課題でしたが、第2世代バイオ燃料である竹にはその課題がありません。また、インドでは森林保護のため木の伐採に厳しい規制がありますが、成長の早い竹は産業利用が認められています。アッサム州は竹が豊富に自生する地域ですが、これまで手工業製品などでの活用が主で、膨大な余剰資源となっていました。そこに着目し、バイオエタノールの原料としての活用に挑んだのがABEPLです」
肌で感じたアッサム州への貢献
融資契約の締結にあたり、現地の視察も行われた。「ABEPLは、原料を安定調達するために地方の小規模な農家やコミュニティと密接につながり、約30カ所に及ぶ地域のプランテーションを組織化して竹の育て方や物流まで一括管理していました。地方経済の未来を背負う現地の農家の方々の絶大な期待感と熱気を肌で感じることができました」と渡邉。中村も、「開所式に出席しましたが、豊かな大自然の田舎道を抜けた先に、美しくライトアップされたABEPLのプラントが姿を現した瞬間は深く印象に残っています。搬入された竹が各工程を流れていく巨大なラインを目の当たりにし、これほど大規模なプロジェクトを自分たちがPFCとの金融連携を通じて支えるのだと実感しました」と振り返る。
JBIC インフラ・環境ファイナンス部門 電力・新エネルギー第2部 第2ユニットの中村明日香
このプロジェクトは、インド政府が掲げる「アクト・イースト・ポリシー」に合致する取り組みとしても期待される。「アクト・イースト・ポリシー」とは、アッサム州を含む地政学的に重要なインド北東7州の開発と周辺国との連携強化を目的としたインド政府の重点施策だ。「今回のプロジェクトは、アッサム州におけるフラッグシップ案件であり、日本の政策金融機関であるJBICが支援した点で日印協力上、重要な意味を有します。これは今後の日印の関係において非常に大事です」と渡邉。JBICや民間金融機関には直接のプロジェクトリスクテイクは難しいが、PFCを通じたツーステップローンの形を取ることで今回の融資が実現した。「リスクを適切にコントロールしつつ、日本の資金を現地の重要プロジェクトに届けたことに大きな意味があります」
食料と競合しない竹を燃料に転換するこの取り組みは、インドの持続可能な成長を支えるとともに、地域資源を活用した新たなエネルギーモデルとして日印協力の可能性を広げている。
JBIC インフラ・環境ファイナンス部門
電力・新エネルギー第2部 第2ユニット ユニット長
渡邉拓也
2009年入行。社会インフラ部、パリ駐在、人事室などを経て現職。アジア地域の脱炭素分野におけるファイナンスや国際連携推進に従事。東北大学法学部卒
JBIC インフラ・環境ファイナンス部門
電力・新エネルギー第2部 第2ユニット
中村明日香
2025年入行。電力・新エネルギー第2部にて、インドの発電事業向け融資業務のほか、アジア地域のECA連携プラットフォームを担当。東京大学経済学部卒





