PROJECT最前線 ベナン共和国の太陽光発電事業、小学校向けランタン電化事業への融資
国内電化率の低い西アフリカのベナン共和国で、世界のESGトレンドに合致するクレジットラインを締結。同クレジットラインを活用して2つのプロジェクトを組成した。深谷聡子さん、平戸瞳さんに話を聞いた。


(左) 資源ファイナンス部門
エネルギー・ソリューション部
第3ユニット 係員 平戸 瞳 さん 2022年入行。アフリカ政府向けのGREEN案件組成や既往案件管理等に従事。19年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、渡仏。21年、パリ政治学院メディアコミュニケーション修士課程修了
(右) 資源ファイナンス部門
エネルギー・ソリューション部
第3ユニット ユニット長 深谷聡子 さん 2005年入行。外国審査部でソブリンの信用力調査、ジャカルタ事務所で現地政府との政策対話立ち上げ、営業部ではインドネシア向けサムライ債保証、世界銀行との協調融資、ロシア・中央アジア・アフリカの案件等に従事。現在は管理職業務と育児の両立に奮闘中
地道に続けてきた関係構築が、偶然をチャンスに変えた
「一度だけでも面談の機会をもらえないか……」西アフリカ・ベナン共和国の経済財務大臣に、そう嘆願するレターやメッセージを何度も送るも、なしのつぶて。現地に行かなければ物事は進まないと判断し、部長に同行する形でベナンに向かったのは、入行して3カ月の平戸瞳さんだった。
「なんと、ベナンへ向かう飛行機に、ずっと連絡の取れなかったワダニ経済財務大臣が偶然同乗していたんです。大臣と面識のあった部長に『今から機内面談するぞ』と呼ばれ、機内の片隅で少しだけ面談する時間をもらえました。これをきっかけに現地での面談へとつながりました」
思わぬ遭遇から、JBICエネルギー・ソリューション部の平戸さんが担当するプロジェクトは一気に扉が開かれた。
2021年3月、JBICはベナン政府とクレジットライン(信用与信枠)を締結したが、時差や商習慣の違いから、個別のプロジェクトの協議が進んでいない状況だった。機中での面談とその後実現した現地での面談で、当初想定していた小学校向けランタン電化事業以外にも資金需要の高いプロジェクトがある、というベナン政府の要望が明確に。その後も交渉を進め、23年6月、太陽光発電事業に2900万ユーロ、ランタン電化事業に100万ユーロの2案件の協調融資を決定した。
地球環境保全業務(通称「GREEN」)の下で初のアフリカ政府向け案件であり、JBICとして初のベナン向け案件だ。一体どのような経緯があったのだろうか。
「ベナンへの融資は商社からいくつかお話は頂くものの、これまで実現していませんでした。一方で、政治経済は他のアフリカ諸国に比べて安定しており、ポテンシャルが高い国と認識はしていました。そんな中、19年に横浜で開催されたTICAD7(第7回アフリカ開発会議)でのタロン大統領とのハイレベル会談が契機となり、数年前から温めていたベナン政府との関係構築が実を結ぶこととなったのです」と話すのは、平戸さんの上司である深谷聡子エネルギー・ソリューション部第3ユニット長だ。

2019年に遡って本案件の経緯を説明する資源ファイナンス部門エネルギー・ソリューション部第3ユニット長の深谷聡子さん

要望を聞いて案件を補正。ベナンの再エネ促進にも貢献
ベナンはアフリカ大陸の西部に位置し、ナイジェリアなど隣国から化石燃料や電力を輸入している。国内電化率は40%台と低く、電力自給率はわずか10%台だ。エネルギー安全保障の観点からも、ベナン政府は打開策を探っていた。
国家開発計画の中で、ベナン政府は2026年までに計150MWの太陽光発電の運転開始を目標に掲げている。今回の太陽光発電事業への融資により、同国最大級の総出力規模50MWの太陽光発電施設が設置されたサイト内に、出力規模25MWの太陽光発電設備と変電設備2機を新設する予定だ。
「クリーンエネルギーに基づく電力供給拡大を通じて、ベナンの再生可能エネルギー導入促進と、他国の化石燃料に依存していたゆがんだエネルギー構造の改善にも貢献できると期待されています」(平戸さん)
小学校向けランタン電化事業は、未電化地域にある小学校の屋根に太陽光パネルを設置し、太陽光発電による電気を充電したランタンを生徒に貸し出すことで各家庭の電化も実現させる事業であった。日本の一般社団法人GOOD ON ROOFS(グッドオンルーフス)が進める事業で、ベナンでの展開について相談され、それを候補案件としてクレジットラインが締結された経緯があったのだ。
「しかし大臣と話してみると、ランタン事業に加え、太陽光発電にもニーズがあることがわかりました」と深谷さん。さらに大臣からは、ランタン事業の持続性に対する懸念も示された。「子どもたちに供給されるランタンが盗難や故障、もしくは日々の食料を得るために売り渡されてしまうのではないか、と指摘されました」
融資を希望する人たちが何を求めているかを見極めながら案件を補正していくことが大切な一方で、ランタン事業により小学校に通える子どもを増やすという社会貢献的側面も忘れてはならない。
「グッドオンルーフスの事業では、子どもが持ち帰るランタンで家の中が明るくなるだけでなく、親の使用する携帯電話の充電もできるため、親が子どもを学校へ送り出すきっかけにもなっています」と、平戸さんは話す。

学校の屋根に取り付けた太陽光パネルとつながるランタン充電装置(上)/小学生からランタンを受け取る様子(下)
ファイナンスによる社会貢献の、潜在的な可能性に気づいた
今回の案件は、これまでエネルギー・ソリューション部が担ってきたアフリカ諸国への融資に比べると小規模である。それでも、世界のトレンドとしてのESG投資への関心の高まりと、環境保全や教育など社会的に意義のある案件を推し進めようという流れもあり、「JBICにとっても潜在的な可能性に気づけた」と深谷さんは言う。
加えて、現場を担当した平戸さんは「援助や円借款ではなく、融資という形を取った点でも先方政府側の真剣度は高い。対等に意見交換できることは今後の関係づくりにもメリットがあるはず」と胸を張る。
ファイナンスを通じた社会貢献の輪は、持続可能な成長を後押しするものとして今後も世界各地で増えていくだろう。そうした活動を支え、つなげる役割をJBICとして、一職員としてまっとうしていきたいと平戸さんも目を輝かせている。

入行1年目で4回ベナンに出張することになった資源ファイナンス部門エネルギー・ソリューション部第3ユニットの平戸瞳さん
2021年3月のベナン共和国政府と締結したクレジットラインを活用し、23年6月、太陽光発電事業に2900万ユーロ(うちJBIC分最大1400万ユーロ)、小学校向けランタン電化事業に100万ユーロ(うちJBIC分最大50万ユーロ)の協調融資が決定