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使用済み触媒のリサイクル技術を携えて初の海外進出。100億円超を投じるマレーシア工場でレアメタルを回収へ

わが社のグローバル展開 太陽鉱工株式会社

世界の情勢不安が続く中、輸入に依存するレアメタルの安定供給をどう実現するかが課題となっていた。太陽鉱工が選んだのは、海外での調達により自給率を高める道だった。100年企業の新たな挑戦が始まろうとしている。

鈴木一史さん①の画像 鈴木一史さん①の画像

太陽鉱工株式会社/代表取締役社長 鈴木一史さん 大学卒業後、総合商社に勤務。マレーシアや台湾に駐在し、主に非鉄金属の調達業務に従事。2013年に太陽鉱工に入社し、開発部部長等を経て18年より現職。株式会社ニチリン取締役、日本精化株式会社監査役を兼任

独自技術が生んだ強みをサプライチェーン強靱化に生かす

金属原料のサプライヤーである太陽鉱工株式会社は今、創業100年を超える歴史の中で初の海外進出に挑んでいる。舞台はマレーシア。使用済みの重油脱硫触媒からレアメタルを回収する技術を持つ同社の強みを生かしたリサイクル事業を現地で立ち上げる。初期投資は100億円規模に上り、投資額の回収には少なくとも十数年はかかる。社内からは「リスキーだ」と反対の声も上がったが、鈴木一史社長は「二番手になればリスクはもっと高くなる」と決断した。

2027年の稼働開始を目指し、東部パハン州クアンタン市の工業団地で回収工場の建設が進んでいる。現地最大級の石油精製所から排出される使用済み触媒を利用し、モリブデンとバナジウムを分離回収する計画だ。レアメタルのモリブデンとバナジウムは自動車や航空機、ビルを支える鉄骨、電子部品など幅広い分野で使用され、現代社会に欠かせない資源。回収したモリブデンとバナジウムは全量を日本に輸入し、国内の自社工場で加工して製品化する。

太陽鉱工の歴史は古く、1919年にさかのぼる。総合商社・鈴木商店の子会社として創業、1949年に現在の社名に。多様なマテリアル製造を手掛け、成長を遂げてきた。

同社にとって大きなターニングポイントとなったのは1970年代、使用済み触媒からレアメタルを回収するリサイクル技術を確立したことだ。太陽鉱工の生産量はモリブデンが年間約4000トン、バナジウムが約2200トンで、リサイクルによる調達はそれぞれ17%と35%に達する。さらに、独自技術によって回収するレアメタルが99.9%の高純度を誇る点も高い優位性となっている。

マレーシア工場ではモリブデン酸(左)と五酸化バナジウム(右)を製造し、全量を日本へ輸出。日本で用途に合わせて加工する計画だの画像

マレーシア工場ではモリブデン酸(左)と五酸化バナジウム(右)を製造し、全量を日本へ輸出。日本で用途に合わせて加工する計画だ

厳しい環境基準に対応し循環型社会の構築に貢献する

同社ではモリブデンを米国やチリ、バナジウムを中国やブラジルから仕入れているが、近年の国際情勢の変化で安定調達への懸念が高まっていた。

「レアメタルの産出は一部の国に偏っていて、日本ではほぼ全量を輸入に頼ってきました。どうやって独自に原料を確保するか、が長年の課題でした」と、鈴木社長は語る。「再資源化による原料確保の比率を高めていくことが一層重要になってきます」

マレーシアに建設中の工場の完成予想図の画像

マレーシアに建設中の工場の完成予想図

マレーシア工場の使用済み触媒置き場は2000トンを収納できるの画像

マレーシア工場の使用済み触媒置き場は2000トンを収納できる

今回のマレーシア進出も触媒リサイクルによる調達を増やすのが目的だが、その道は平坦ではなかった。10年ほど前に、中東産の重質油を使用する国営の石油精製所がマレーシアに建設されるとの情報を得て以来、幾度か進出の機会をうかがってきた。マレーシアでは指定産業廃棄物の輸出は禁じられているため現地での分離回収が必須だ。当初は地元企業が任されたもののうまくいかず、太陽鉱工が積み上げてきたリサイクル技術がマレーシア政府に評価され、投資実行を決断することができた。

事業の決断をする上で日本とマレーシア両政府のサポートがあったのは非常に大きかったと、鈴木社長は振り返る。JBICからの融資は工場建設を財務面で支えているのはもちろん、マレーシア政府からの信頼を下支えしている。

「触媒リサイクルは土を掘り返して鉱山を開発するよりも自然への負荷は少ないといえます。また当社では排水や排ガスを適切に処理する技術を有しており、マレーシアの厳しい環境基準を順守し、循環型社会構築に貢献するという点も評価されています」

マレーシアでの新しい挑戦を技術継承につなげたい

マレーシア工場は約8万平方メートルの敷地があり、モリブデンは年間約150トン、バナジウムは約400トンを回収する計画だ。日本から社員数人が駐在するほか、現地で50人ほどの従業員を採用する。現地で採用済みの社員を日本に招き、技術研修もスタートさせている。

鈴木一史さん②の画像

「マレーシアでの経験を通じて若い世代を育成し、技術を継承していきたい」と鈴木社長は語る

海外進出のもう1つの狙いは若手の育成だ。独自の技術を開発してきたベテラン社員が退職していく時期を迎えている。その技術のおかげで今の若い社員は、同様の経験を積まずとも、作業を進めることができる。鈴木社長は言う。「マレーシアの新しい事業ではこれからさまざまな困難や苦労に直面するでしょう。そこでもまれることで若手が経験や知識を蓄積し、成長してくれたらと考えています。そしてその知識を次世代へつないでいってほしい」

2018年に社長に就任した鈴木氏は、元商社マン。マレーシアにも3年間、駐在した経験を持つ。若かりし頃に自身が海外で成長したように、次の世代にも同じ機会を与えたいという思いがある。

「とにかく世の中に必要なものを作り続ける、それが重要です。今、社会に何が求められているのかを正確に捉え、いち早くそこにトライする。そして、ずっと必要とされる材料メーカーであり続けたい」

レアメタルの安定供給を目指すマレーシアでの新事業は、まさにその哲学の体現だ。100年企業が次の100年を生き抜くための布石でもある。

太陽鉱工株式会社

1919年 総合商社鈴木商店の子会社として太陽曹達株式会社創業(39年に社名を太陽産業株式会社に変更)
1949年 企業再建整備法により太陽産業を解散、太陽鉱工株式会社設立
1952年 フェロモリブデン他の製造開始
1954年 フェロバナジウム他の製造開始
1978年 使用済み触媒からモリブデン、バナジウムを回収する技術を事業化
2027年 マレーシアで使用済み触媒のリサイクル工場が稼働予定
融資概要

2025年6月、太陽鉱工のマレーシア法人Taiyo Koko Malaysia Sdn. Bhd.との間で、融資金額30億円(JBIC分)を限度とする貸付契約を締結。民間金融機関との協調融資で融資総額は92億円。太陽鉱工の海外事業展開への支援を通じて、マレーシアの循環型社会の構築および地球環境保全に貢献する

本案件に関するプレスリリース
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