
資源ファイナンス部門は、日本にとって重要な資源の安定的な確保という使命のもと、エネルギー安全保障やサプライチェーンの強靱化に資する事業への融資を行っています。加えて近年ではカーボンニュートラルの実現に向けて、グリーントランフォーメーション(GX)や、革新的技術の実装といった課題にも取り組んでいます。また地域に焦点を当てると、アフリカや中南米、中東、中央アジア・コーカサス等の旧ソ連諸国が抱えているグローバルサウスの社会課題解決にも積極的に取り組んでいます。目下、注視すべき点は、中東情勢や米国関税政策、そして中国による輸出規制等、エネルギー・資源を取り巻く環境の不確実性の高まりです。特に中東情勢は、日本のエネルギー調達先を多様化させることの重要性を改めて浮き彫りにするとともに、石油や天然ガスが、化学製品や肥料等の原料として果たす役割の大きさを再認識する契機となりました。中東情勢が沈静化しても、エネルギー・資源を巡る環境が元通りに戻ることはもはやないでしょう。一方で、新しいビジネスチャンスもあるはずです。
こうした状況下において、高市総理は「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ(POWERR Asia)*1」を発表しました。この政策のもと、JBICは「POWERR Asia FAST ウィンドウ」を創設し、代替原油・石油製品の調達や日本とのサプライチェーン構成企業の生産維持、エネルギー供給体制の強化、エネルギー源多様化等の支援を実施します。今後は、日本政府・企業、外国政府・企業等のステークホルダーと連携し、具体的な案件の実現に向けての協議を加速させていきます。
また、水素やアンモニアといった代替燃料を確保していくことはエネルギー安全保障の観点からも重要な課題となっています。JBICは前年度、「日本政府の価格差に着目した支援制度」のサポートを受けた米国の低炭素アンモニア製造事業に融資しました。そのほか、中国の輸出規制を契機とした重要鉱物確保の重要性の高まりを受け、アルゼンチンのリチウム開発事業にも融資しました。今年度もさらに新しい案件に取り組んでいきます。
JBICのエネルギー・資源分野のファイナンスは、日本企業のビジネス、ひいては国民生活に「安心」をもたらすことが究極の目標です。私たちはこの目標の実現に向け、これからも全力を尽くしていきます。
資源ファイナンス部門長
天野 辰之
注釈
- *1
2026年4月に発表された、アジアにおける燃料供給不足やサプライチェーンの停滞に対する枠組み。原油・石油製品等の調達やサプライチェーンの維持に加え、アジア地域内の原油備蓄日数拡大に向けた備蓄関連制度や施設関連、省エネ等に関する産業の高度化について、構造的に取り組むために金融面での協力を実施
部門の概要
- 日本にとって重要な資源の安定的な確保
- エネルギー安全保障・サプライチェーン強靱化とGXや社会課題解決、革新的技術実装の両立
- 資源案件向け融資承諾累計額:約4.7兆円、(過去10年、79件)
資源ファイナンス部門は、日本企業による海外での資源権益の取得や資源開発、輸入等への支援を通じて、日本経済の健全な発展のために不可欠な資源の安定的な確保に貢献しています。
主に、天然ガス等の上流開発・輸入事業、水素・アンモニアその他の次世代エネルギー開発、ベースメタル・バッテリーメタル等の金属資源確保にかかる案件発掘・形成に取り組むことで、現実的なエネルギートランジションの推進に寄与していきます。
強み
- 日本企業・政府、資源メジャー、国営エネルギー企業、ホスト国、国際機関や民間金融機関との深い信頼関係
- 日本企業・政府や国際社会と連携しながら進める、現実的なエネルギー移行に向けたGX、社会課題解決、革新的技術実装のための柔軟かつ機動的なファイナンス組成力
- エネルギー安全保障やサプライチェーン強靱化に資する長期かつ巨額の資源開発・資源輸入ファイナンス
外部環境認識
Summary:
政府はエネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合の同時達成を推進。電力需要拡大や供給リスクの高まりをふまえた、官民連携による調達多様化とサプライチェーン強靱化が急務。
日本政府はこれまで、エネルギー政策の基本方針として「S+3E*2」を掲げ、安全性の確保を前提に、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合の同時達成を図ってきました。特に、第7次エネルギー基本計画(2025年2月閣議決定)においては、エネルギーの脱炭素化を目指す方向性が示されました。その中で、LNGの安定供給を官民一体で確保することの重要性がうたわれています。
海外の動向に着目すると、AI技術の進展による消費電力の増大や、米国での脱炭素政策の変化に伴い、短中期的なLNG需要のさらなる拡大が見込まれています。一方、中東情勢によるホルムズ海峡の封鎖を念頭に、特定の国家・地域にエネルギー供給を依存することの危険性が、一層強く認識されつつあります。また、地政学リスクの高まり等を背景に、レアアースの供給不安等が懸念されており、低炭素鉄源やクリティカルミネラルのサプライチェーン強靱化も喫緊の課題です。
世界のエネルギー情勢が大きく変容する中、資源の多くを海外に依存する日本は、現実的なエネルギートランジションを意識しつつ、最優先課題であるエネルギー安全保障の確保に向けた積極的な取り組みが求められています。
注釈
- *2
S+3E:安全性(Safety)の確保を大前提に、エネルギー安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)を実現するための基本方針
成長戦略
Summary:
地政学リスクと事業環境の変化に対応し、日本企業を力強く支援。資源確保と調達多様化、次世代エネルギー開発、グローバルサウス連携等を通じ持続可能な成長を実現。
中東情勢や米国の関税政策、 地政学リスクの高まり等に起因する不確実性を背景に、日本企業のビジネス戦略は転換点にあります。この状況をふまえ、JBICはエネルギー安全保障に資する案件の組成を推進し、日本の産業界を継続的に支援します。特に、JBICの強みである資源メジャー、各国政府機関や国営エネルギー企業等との幅広いネットワークを生かし、原油・LNGの安定的な確保と調達先多様化に資する案件や、同志国との協力を通じた鉱物サプライチェーンの形成・強靱化につながる案件に注力していきます。
また、低炭素社会の実現に向けて、水素・アンモニアをはじめとする次世代エネルギー案件の形成や、SAF*3、CCUS*4、メタネーション*5等の低・脱炭素分野における具体的な案件形成に引き続き取り組みます。さらに、日本政府の助成制度設計に対するサポートや日本企業への情報提供を通じ、ソフト面からも支援を継続していきます。
また、2025年に開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)や国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)等をふまえ、アフリカ諸国をはじめとするグローバルサウスとの関係強化および社会課題解決に向けた具体的な案件の発掘・組成も継続していきます。
注釈
- *3
SAF(Sustainable Aviation Fuel)は、植物等バイオマス由来の原料や、飲食店等から排出される廃食油等から製造される持続可能な航空機用燃料です
- *4
CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)は 、工場 ・ 発電所の排ガス等から回収・分離した二酸化炭素を地下に貯留し温室効果ガスの排出量を削減するほか、燃料製造や化学品生成に有効活用する技術です
- *5
メタネーションは、二酸化炭素と水素を反応させて、天然ガスの主な成分であるメタンを合成し、合成メタン(e-メタン)を生成する技術です
PROJECT HIGHLIGHT
UAE・アブダビ国営石油会社(ADNOC)に対する融資および覚書の締結
―ADNOCグループとの戦略的関係強化を通じ、原油の長期安定的確保に貢献―
2025年11月、UAE・アブダビで開催された国際エネルギー産業展示会で、包括的・戦略的パートナーシップのさらなる強化を目的とした覚書を締結JBICは、日本企業による原油の長期・安定確保を目的として、UAE・アブダビ首長国の国営石油会社ADNOCに対し、融資を行いました。JBICは、2007年以降、累次にわたりADNOCに対しこのような融資を継続し、今回が7回目となります。この長い取引実績による強固な協力関係が基盤となり実現したものです。
さらに、本件の機会を捉えて、ADNOCとの間で、JBICとADNOCグループとの協力関係をより拡大・深化すべく、覚書も締結しています。本覚書は、近年、ADNOCグループがグローバルかつエネルギーバリューチェーン広範へと事業領域を拡大させていることをふまえ、従来の原油・天然ガス分野や脱炭素・新エネルギー分野にとどまらず、グローバルかつ水素・アンモニア・化学品等の下流産業を含むエネルギーバリューチェーン広範にわたる分野での連携強化を図るものです。
Voice
左から、西宇 智彦 ユニット長、西本 都加 係員、山崎 淳 調査役。所属:エネルギー・ソリューション部 第2ユニット本件融資および覚書の検討・実施にあたっては、UAEと日本をまたぐ交渉であったため、異なる文化や政策背景等を有する多くのステークホルダーとの調整に多大な労力を要しました。他方で、本件を通じて、長年続いてきたUAEと日本の原油取引の維持を主軸としながら、ADNOCグループとの協業により、より多角的な協力関係を構築することができました。日本の資源エネルギー政策上重要なパートナーであるUAE・アブダビとの関係維持・強化につなげられたことに、大きなやりがいを感じています。
本融資後も、中東情勢が混乱する中においても、ADNOCとのコミュニケーションは継続し、日本企業による原油引取支援につながる機会を創出できました。こうした交渉を通じ、ADNOCもエネルギー・サプライチェーンの強靱化に向けた日本およびJBICとの連携を重視していることを実感し、本件の意義を再認識しました。UAEと日本の懸け橋の一つとして、引き続きADNOCとの協力関係を深めていきたいと考えています。
- その他の取り組みについてはプレスリリース(セクター:資源)をご参照ください





