
エネルギー/資源セクターで最も頼られる存在を目指して
資源ファイナンス部門は、日本にとって重要な資源の安定的な確保というミッションに従い、エネルギー安全保障やサプライチェーンの強靱化に資する事業への融資を行ってきています。加えて近年ではカーボンニュートラルに貢献する観点から、グリーントランフォーメーション(GX)や、革新的技術の実装をといった課題や、また地域的にはアフリカや中南米、中東、中央アジア・コーカサス等の旧ソ連諸国を担当していることから、いわゆるグローバルサウスの社会課題の解決にも取り組んでいます。
日本政府は2050年のカーボンニュートラル実現という目標を掲げていますが、カーボンニュートラルは、それに伴う社会的負担は受容可能(affordable)なものであり、また持続可能(sustainable)でなければ実現は不可能です。しかしながら、長期化するロシアのウクライナ侵攻や、イスラエル・ガザ紛争はエネルギー需給に大きな不確実性をもたらしています。また脱炭素は、長期的には銅、ニッケル、リチウムなどの重要鉱物の需要増をもたらすと考えられていますが、短期的には中国経済回復の停滞もあって、供給拡大を楽観視できる環境にはありません。また中国によるガリウム、ゲルマニウムそしてグラファイトの輸出規制に示されるように、サプライチェーンの強靱化はかつてないほどに重要化しています。
このような先行きの見えない状況下で、私たちの中期経営計画では「先導」と「共創」をテーマに掲げました。私たちは、「先導」も「共創」もお客様・パートナーとの「信頼」によって初めて可能になると考えています。特に当部門の強みは、エネルギー/資源分野での長い取引関係の中で築かれてきた、日本企業/政府、資源メジャー、ホスト国、国際機関や民間金融機関との深い信頼関係にあります。そうした強みを十分に活かし、これまでも大きな役割を果たしてきたエネルギー安全保障やサプライチェーン強靱化への取り組みと、これから一層重要さを増すGX/社会的課題解決および革新的技術の社会実装といった取り組みを両立させてまいります。
今年から紙幣の顔となった渋沢栄一は「信用とは資本である」と言っていますが、私たちにとってお客様・パートナーとの信頼関係はJBICならではの価値創造をもたらす根源的な「資本」です。困難な課題に真摯に向き合い、お客様・パートナーと共に案件形成・ファイナンスを実現することでさらに信頼関係を強め、資源/エネルギーセクターで最も頼られる存在になる、これが私たちの目指す姿です。
資源ファイナンス部門長 天野 辰之(常務執行役員)
部門の概要
日本企業による海外での資源権益の取得や資源開発、資源の輸入などへの支援を通じて、日本経済の健全な発展のために不可欠な資源の安定的な確保に貢献しています。
- 我が国にとって重要な資源の安定的な確保
- エネルギー安全保障/サプライチェーン強靱化とGX/社会課題解決/革新的技術実装の両立
- 資源案件向け融資承諾累計額:約2兆3,358億円(過去5年、41件)
事業環境認識(リスク・機会の認識)
日本政府は2050年のカーボンニュートラル実現という目標に向け、エネルギー基本計画で風力・太陽光・バイオマス等の再生可能エネルギー由来電源の主力電源化を目指すとともに、水素・アンモニアを用いた発電や、CCUS*やカーボンリサイクル等のCO2排出削減対策を講じた火力発電のイノベーションを通じて脱炭素化を図るとしています。他方、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエル・ガザ紛争等、資源供給国・地域における地政学上のリスクが顕在化しており、エネルギー安全保障の重要性も高まっています。こうした中、2023年5月のG7広島サミットや同年11月にUAEで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)において、日本政府は、ネット・ゼロという共通のゴールに向けた「多様な道筋」によるエネルギー移行の重要性について発信しています。さらに、低炭素鉄源やクリティカルミネラルズに係るサプライチェーン強靱化は我が国にとって喫緊の課題といえます。世界のエネルギー情勢が大きく変容する中、資源の多くを海外に依存する我が国は、エネルギー安全保障やサプライチェーンの強靱化を念頭として、現実的なエネルギートランジションに向けた取り組みが求められています。
注釈
- *
CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)は、分離・貯留した二酸化炭素を利活用するものです。
部門の戦略
Ⅰ.持続可能な未来の実現
再生可能エネルギー/脱炭素・エネルギートランジション関連案件関連案件の着実な実現、水素案件へのファイナンス実現と価格差支援制度活用に向けた主体的案件形成、直接還元鉄、ベースメタルやバッテリーメタル等、低炭素社会の実現に不可欠な金属資源案件の形成・実現やSAF*1、CCUS、メタネーション*2、カーボンリサイクル事業、水素関連事業等の主体的な案件形成と、出融資保証全てのプロダクトによる具体的な案件を通じたグローバルスタンダード形成への案件組成に関する取り組みを行います。
Ⅱ.我が国産業の強靱化と創造的変革の支援
エネルギー安全保障に資するエネルギートランジション(含むLNG)、サプライチェーン強靱化に資する鉱物案件への支援やクリティカルミネラルに関するサプライチェーンの分析・顧客対話を通じた戦略的案件形成に関する取り組みを行います。
Ⅲ.戦略的な国際金融機能の発揮による独自のソリューション提供
ウクライナ支援、第10回太平洋・島サミット(PALM10)、金融・世界経済に関する首脳会合(G20)、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)等を見据えたグローバルサウスとの関係強化を行います。
注釈
- *1
SAF(Sustainable Aviation Fuel)は、植物等バイオマス由来の原料や、飲食店等から排出される廃食油等から製造される持続可能な航空機用燃料です。
- *2
メタネーションは、二酸化炭素と水素を反応させて、天然ガスの主な成分であるメタンを合成し、合成メタン(e-メタン)を生成する技術です。
Project Highlight
ベトナム・イーレックス・バイオマス燃料製造・販売事業
―脱炭素社会の実現を見据えたバイオマス燃料の長期安定確保に貢献―

JBICは、イーレックスがベトナム現地事業会社を通じて実施するバイオマス燃料(木質ペレット)の製造・販売事業に必要な資金を融資。バイオマス燃料は再生可能エネルギー源の一つであり、脱炭素社会の実現に向けてバイオマス発電の重要性は高まっています。本融資は、日本の再生可能エネルギー事業者であるイーレックスの海外事業の支援を通じて、脱炭素社会の実現を見据えた、日本にとって重要なエネルギー資源であるバイオマス燃料の長期安定確保に貢献するものです。
チリセンチネラ銅鉱山拡張事業に対するプロジェクトファイナンス
―日本による長期、安定的な銅精鉱の確保を支援―

JBICは、英国法人Antofagasta plcおよび丸紅(株)が出資するCentinelaが、チリのアントファガスタ州に位置するセンチネラ銅鉱山の拡張事業として、新規鉱区を開発の上、選鉱プラントおよび関連設備を新たに建設・操業するために必要な資金の一部を融資。本拡張事業によって増産される銅精鉱のうち一部を日本企業が引き取る予定です。近年の脱炭素化の潮流の中、銅は電気自動車や再生可能エネルギー設備・機器等に欠かせない金属として、世界的に需要が増加することが見込まれていますが、日本は銅地金の原料である銅精鉱の全量を海外からの輸入に依存しているため、長期安定的な銅資源の確保は喫緊の課題です。本件は、日本企業が出資参画する銅鉱山の開発および長期安定的な銅精鉱の確保を通じて、銅製品のサプライチェーン全体の強靱化を支援するものです。
ブラジル法人Vale S.A.に対してペレットおよびペレットフィード輸入資金を融資
―日本の鉄鋼産業における鉱物資源の長期的安定確保および脱炭素化を支援―

JBICは、ブラジル法人Vale S.A.(Vale)との間で、貸付契約を締結。本件は、日本企業がValeからペレットおよびペレットフィード*を安定的に輸入するために必要な資金を融資するものです。国際的な脱炭素の潮流加速に伴い、製鉄プロセスの低・脱炭素化は喫緊の課題であり、日本の鉄鋼メーカーの脱炭素を支援するためには、多様な鉄鋼原料の安定確保が必要不可欠です。本件は、日本企業によるペレットおよびペレットフィードの長期安定的な確保を金融面から支援することを通じて、日本の鉄鋼産業にとって重要な鉱物資源の安定供給に貢献するとともに、将来的には日本企業の海外事業への販売も通じて、資源のサプライチェーン強靱化や持続可能な社会の実現に資するものです。
注釈
- *
ペレットフィードは鉄鉱石を破砕・加工処理したもので、それをペレットプラントで塊成化するとペレットとなり、高炉や直接還元炉に投入されます。
- その他の取り組み
プレスリリース(セクター:資源)