
日本および世界を取り巻く環境は、地政学的な緊張の高まりや保護主義の進展等を背景に、国際経済秩序の揺らぎやサプライチェーン再編の必要性が高まり、劇的な構造変化の中にあります。中東情勢の緊迫化は、エネルギーや化学品・素材の供給網に重大な影響を及ぼし得るものであり、原材料価格の変動にとどまらず、その安定的な供給継続の重要性を改めて強く認識させました。加えて、地球規模での気候変動・食料不足、為替・金利動向に伴う資金調達環境の変化、各国の経済政策等から、先行きの不透明感は一段と高まっています。こうした厳しい世界情勢の中、日本企業は多くの産業に必要不可欠なクリティカルミネラルや半導体の確保、安定したサプライチェーンの再構築に向けた取り組み等、極めて難度の高い課題に直面しています。また、日本の貿易や物流の多くを担う海上輸送の安定確保は、日本の国民生活や経済活動を支える基盤として、重要性を一層高めています。こうした課題を克服していくためには、JBICを含む金融界の果たすべき役割もますます重要になってきていると真摯に受け止めています。
このような認識のもと、日本企業の戦略やニーズを的確に捉え、積極的なリスクテイクを通じて、原材料調達を含むグローバルなサプライチェーンの強靱化・再構築を支援し、日本の経済安全保障に貢献していきます。加えて、2025年には日本企業のM&A件数が過去最多になるなど企業の積極的な海外展開が進んでいます。当部門でも、民間金融機関との連携を一層深めながら、次世代技術の獲得等に向けた海外M&Aの積極的な支援を継続していきます。併せて、中堅・中小企業を含む、先端的・革新的な重要技術を有する企業の海外展開支援を一層強化することで、日本の産業の国際競争力の維持・向上に尽力します。
JBICが有するグローバルなネットワークを活用し、各業界・産業のサプライチェーン強靱化に関わる世界各国のさまざまな情報を収集・分析しています。JBICならではの独自の立ち位置を生かし、海外関連情報を発信するセミナーの開催等、多様なプラットフォームを通じて、日本企業にタイムリーかつ的確に提供していきます。
産業・社会構造が急激に変化する中にあって、日本企業のダイナミックな海外展開を支えていくという思いを持って、日本企業の海外展開を支えるプラットフォーマーとして、皆様のご期待に応え、「日本の経済安全保障や産業の創造的変革を後押しする存在になる」。これが私たちの目指す姿です。
産業ファイナンス部門長
佐藤 崇之
部門の概要
- 中堅・中小企業を含む日本企業の国際競争力の維持・向上のために、海外展開や、船舶・プラント設備の輸出を支援
- 日本企業のグローバルなサプライチェーンの強靱化・再構築のための支援、次世代技術獲得等に向けた海外M&Aに対する支援
- 気候変動関連ファイナンス等を通じた持続可能な未来の実現に貢献する案件の支援
産業ファイナンス部門は、日本企業の国際競争力の維持・向上をサポートすることが主な業務です。
当部門においては、①産業投資・貿易部は、主要製造業等の製品輸出、海外現地生産・販売等の事業、②中堅・中小企業ファイナンス室は東日本の中堅・中小企業を、③大阪支店は中堅・中小企業を含む西日本の企業を、④船舶・航空部は、船舶・航空機等関連事業を、それぞれ担当・支援しています。
日本企業の海外事業展開の戦略やニーズに応じた多様な金融手法で、日本の産業の国際競争力の維持・向上に取り組んでいます。
強み
- 日本産業界のニーズを的確にくみ取る力
- サプライチェーンの強靱化および再構築に関する支援メニューの提供
- グローバルネットワークを背景とする世界各国の情報の収集・分析能力
外部環境認識
Summary:
不確実性の高い国際環境のもと、サプライチェーンの強靱化・再構築を進める動きが加速。M&Aや技術開発への投資を通じた産業の高度化が進展。
政治的・経済的対立等の地政学リスクが、国際情勢にも大きな影響を及ぼす中、日本企業は不確実性の高い事業環境に置かれています。JBICが2025年12月に発表した「わが国企業の海外事業展開に関する調査報告」によると、企業の「脱中国」方針は加速し、製造・販売拠点および原材料調達先等を、インドや米国をはじめとする第三国に移行する動きも見られています。また、企業の国際競争力の維持・向上のために「地産地消」を意識したサプライチェーン再構築も目下の課題です。世界的には、脱・低炭素社会の実現に向けたGXが見直される一方で、欧米を中心にDX投資は引き続き推進されています。
こうした中、センシング技術や半導体、データセンター等の需要増を背景に、技術開発のための投資を行う機運が高まっています。さらに、企業は設備投資に加え、M&Aを活用した海外事業展開を継続しています。海運・造船や航空業界では、持続可能な未来の実現に向けた取り組みが継続し、環境規制をふまえた最新鋭の船舶や新燃料船の導入等に向けた開発の促進、省燃費性能の高い航空機材の導入等を実施しています。
成長戦略
Summary:
経済安保上重要な産業における支援等を通じて、日本企業のサプライチェーン強靱化と競争力強化に貢献。国際連携を軸に、社会課題解決に資する新たな案件形成を推進。
日本産業界のニーズに応えるべく、経済安全保障上重要となる半導体、医薬品、造船、航空、自動車等の分野への支援を行っていきます。加えて、革新的な技術の獲得を目指す日本企業による戦略的M&A案件を支援することを通じて、原材料の調達を含めた日本のサプライチェーンの強靱化やボトルネック解消につながる案件を支援します。また、地域金融機関等との協力・提携関係の強化を進めることで、サプライチェーンの安定化にとって重要な中堅・中小企業や技術力を持つ中堅・中小企業の海外展開を支援します。
国際連携に関する取り組みとしては、食糧や医療等に関連した地球規模の課題解決に資する案件を実施していきます。さらに、日米豪印戦略対話(QUAD)*1や日印半導体サプライチェーンパートナーシップに関する協力の枠組み、日加蓄電池サプライチェーンに関する協力覚書、エネルギートランジションへの貢献、ウクライナ周辺国支援を念頭に置いた案件発掘・形成に継続的に努めます。具体的には、インドにおける半導体やカナダにおける蓄電池関連の案件を具体化することで、日本産業の国際競争力の向上に貢献していきます。
注釈
- *1
日米豪印戦略対話(QUAD: Quadrilateral Security Dialogue)は、日米豪印による枠組みで、基本的価値を共有し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の強化にコミットするものであり、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、質の高いインフラや海洋安全保障等の幅広い分野で実践的な協力を進めている
PROJECT HIGHLIGHT
シンガポール法人ONE向けコンテナ船リース事業に対する融資
―日本の造船所が建造した大型コンテナ船の輸出を支援―
本融資対象の同型コンテナ船(提供:ONE)日本郵船(株)、(株)商船三井、川崎汽船(株)の3社が共同出資するコンテナ船事業会社のシンガポール法人Ocean Network Express Pte. Ltd.(ONE)に向けた融資です。本件では、JOLCOスキーム*2を通じて、日本シップヤード(株)および今治造船(株)が建造する大型コンテナ船4隻の輸出を支援しました。この取り組みは、造船2社およびONEの国際競争力の向上に寄与するものです。また、次世代燃料への転換に対応する船型を採用しており、日本のサプライチェーンに必要不可欠な船舶分野の脱炭素化への貢献が期待されています。
注釈
- *2
JOLCOスキーム:購入選択権付き日本型オペレーティングリース
Voice
左から、齊藤 邦香 次長、渡邊 勘太郎 係員、渡邉 佳奈 副主任。所属:船舶・航空部 第1ユニット(※当時)貿易量の99%以上を海上貿易に頼る日本において、私たちの生活を支えるコンテナ船の融資に関わることは大きな責任とやりがいを伴うものでした。
JBIC初の船舶JOLCO案件ということもあり、過去の事例に当てはまらない論点が生じ、行内での検討や関係者との交渉では何度も壁に直面しました。しかし、チーム一丸となり粘り強く取り組み、丸亀市での命名式でマゼンダ色の大きなコンテナ船を目にした瞬間、積み重ねた努力が報われたことを実感しました。国民生活を支えるコンテナ船の建造・輸出支援に関わることができたことを誇りに思います。
多摩川精機(株)のベトナム法人による自動車用精密機器の製造・販売事業に対する融資
―自動車分野の日本企業によるサプライチェーン強靱化を支援―
(左)TVCの現地工場(右)角度センサ(提供:多摩川精機)多摩川精機のベトナム法人TAMAGAWA VIETNAM CO., LTD(TVC)が行う自動車用精密機器等の製造・販売事業に融資をしました。
同社は、モータの回転角度を検出する角度センサを中心とした自動車用精密機器等の製造を行う中小企業です。2023年に製造の海外拠点としてTVCを設立し、生産能力の増強および欧米等への販路拡大を目指しています。今後も、東南アジア等の成長市場を舞台に、自動車サプライチェーン強靱化を支援し、日本の産業の国際競争力の維持・向上に貢献します。
Voice
左から、鈴木 里菜 副主任、日下部 和子 副主任、古島 英輔 係員、井上 葉月 係員。所属:中堅・中小企業ファイナンス室(※当時)本件は、中堅・中小企業ファイナンス室とお客様との間での数年にわたるコミュニケーションが実を結んだものです。取り組み当初は、多摩川精機が持つ技術力の高さに感服する一方、仕組みの複雑さから製品の特性を理解することは難しく、案件を担当するチームメンバーと役割分担しつつ、資料作成等を行いました。担当者として胸の高鳴りと心地よい緊張を感じながら携わった経験を通し、日本が世界に誇れる技術の一端に触れるとともに、チームで一つのことを成し遂げる喜びも学びました。





