
サプライチェーン強靱化により、我が国の経済安全保障に貢献
日本および世界を取り巻く環境は、米中対立やロシアのウクライナ侵攻、イスラエル・ガザ紛争などの地政学リスクの顕在化に伴う分断された世界、地球規模での気候変動・食料不足や原材料価格の高騰、金利の高止まりによる資金調達コストの増大、さらには世界的なインフレーションの進行など、先行き不透明かつ困難な状況にあります。こうした困難な世界情勢の中、日本企業は、多くの産業に必要不可欠な半導体の確保など安定したサプライチェーンの再構築や、地球温暖化防止と企業収益を両立させる脱炭素社会の実現に向けた取り組みなど、極めて難しい課題に直面しており、こうした課題を克服していくためには、JBICを含む金融界の果たすべき役割もますます重要になってきていると感じています。
こうした認識の下、産業ファイナンス部門は、日本産業界のニーズを的確に汲み取り、積極的なリスクテイクを通じ、日本企業によるグローバルなサプライチェーンの強靱化・再構築のための支援により我が国の経済安全保障に貢献しています。また、次世代技術獲得等に向けた海外M&Aに対する支援、グリーンファイナンスなどを通じた地球温暖化防止に資する案件の支援、先端的・革新的な重要技術の開発支援を強化し、日本の産業の国際競争力の維持・向上に取り組んでいます。
さらに、各業界・産業のサプライチェーン拡充やカーボンニュートラルに向けた取り組みに関わる世界各国のさまざまな情報を、JBICの持つグローバルなネットワークを活用しつつ収集・分析し、日本企業の皆さまにタイムリーかつ的確に提供することを通じ、産業・社会構造の急激な変化の下でのダイナミックな海外展開を支えていきたいと思います。
日本企業の海外展開のプラットフォーマーとして、皆さまのご期待にお応えし、我が国の経済安全保障や産業の創造的変革を後押しする存在になる、これが私たちの目指す姿です。
産業ファイナンス部門長 佐々木 聡(常務執行役員)
部門の概要
産業ファイナンス部門は、産業投資・貿易部、中堅・中小企業ファイナンス室、船舶・航空部、および大阪支店の4つの部署で構成され、日本企業の海外展開の戦略やニーズに応じた多様な金融手法を用いて、日本の産業の国際競争力の維持・向上のため、以下のような取り組みを実施しています。
- 日本企業の国際競争力の維持・向上のために、中堅・中小企業を含む日本企業の海外展開や、船舶・プラント設備の輸出の支援
- 日本企業のグローバルなサプライチェーンの強靱化・再構築のための支援、次世代技術獲得などに向けた海外M&Aに対する支援
- グリーンファイナンスなどを通じた持続可能な未来の実現に資する案件の支援
事業環境認識(リスク・機会の認識)
不確実性の高い事業環境
日本企業は、引き続き不確実性の高い事業環境に置かれています。JBICが2023年12月に発表した「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」において、各企業がどの国・地域に拠点を有するかによらず、約9割の企業が、エネルギー、原材料、部品などの世界的な価格高騰の影響を受けていると回答しており、エネルギー使用の抑制や経費削減等の対応を迫られており、物価高は、日本企業の海外事業展開に影響を及ぼす重要な要素であることを再認識する結果となっています。また、ロシアのウクライナ侵攻や米中対立の長期化、さらには2023年に発生したイスラエル・ガザ紛争に伴う地政学リスクの高まりによって、大企業を中心に原材料調達先の見直しを図る動きも見受けられます。
世界的には、欧米を中心に政府主導のデジタル・トランスフォーメーション(DX)投資が推進されており、産業のDX化の核となる半導体産業の重要性が一層増しています。地政学リスクの高まりを踏まえたサプライチェーンの再構築やDX・GXの潮流が新たな投資機会を創出する中、日本企業は設備投資に加え、M&Aを活用した海外事業展開を継続しています。2023年の日本企業による海外M&A件数は、661件と2022年に比して増加しており、1,000億円以上の大型案件も増加するなど、世界経済の景気後退懸念が和らいだこと等により、海外M&A投資の回復基調が示されています。
また、海運・造船業界および航空業界では、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進めています。具体的には、環境規則を踏まえた最新鋭の船舶の利用や新燃料船の導入等に向けた開発の促進、省燃費性能の高い航空機材の導入等に取り組んでいます。各国の脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速化する中で国際競争力を維持・向上させるため、こうした取り組みの促進が喫緊の課題となっています。

中堅・中小企業の事業環境認識
中堅・中小企業は大企業に比べて活用できる人材や資金が限定的であり、海外事業展開においては米ドルを主とした金利の高止まりによる資金調達コストの増大等による影響への対応(例えばタイ・バーツなどアジアの現地通貨建て借入)や、地政学リスクの高まりを背景とするサプライチェーンの混乱・寸断への対応(脱中国やベトナム・インドなど第三国への移転など)などに大きく迫られています。
部門の戦略
Ⅰ. 持続可能な未来の実現
再エネ、電動車・FCV、環境対応船舶・航空機、食糧、医療等に関連した地球規模大の課題解決に資する案件を支援します。
Ⅱ. 日本の産業の強靱化と創造的変革の支援
日本の産業のサプライチェーンのボトルネック解消につながるような案件を支援します(半導体、電動車、航空機部品等)。また、中堅・中小企業向け支援に関しては、地域金融機関を中心に、協力・提携関係の拡張、強化、深化を進めることで、サプライチェーンの安定化にとって重要な中堅・中小企業や、これからの活用が期待される技術力を持つ中堅・中小企業の海外展開を支援します。
Ⅲ. 戦略的な国際金融機能の発揮による独自のソリューション提供
ウクライナ周辺国向けの日本企業の投資案件を支援します(周辺国向けエネルギートランジション支援等)。
Project Highlight
三菱瓦斯化学(株)の米国法人が実施する半導体薬液の製造・販売事業に対する融資
―半導体分野における日本企業によるサプライチェーン強靱化を支援―

テキサス工場(提供:三菱ガス化学)
JBICは、三菱瓦斯化学(株)(三菱ガス化学)の米国法人MGC Pure Chemicals America, Inc.(MPCA)との間で、貸付契約を締結しました。本件は、MPCAが実施する半導体薬液※(超純過酸化水素および超純アンモニア水)の生産設備の増設に必要な資金を融資するものです。三菱ガス化学は、米国において、半導体メーカー向けに半導体薬液の製造・販売事業を実施しており、今般、半導体市場の長期的な成長に伴う半導体薬液の需要拡大に備え、MPCAの生産能力の増強を計画しています。本融資は、こうした三菱ガス化学の海外事業展開への支援を通じて、日本の産業の国際競争力の維持・向上に貢献するものです。
注釈
- ※
半導体製造プロセスのうち、シリコンウエハの洗浄、エッチング、フォトレジストの剥離等で使用される、半導体の製造過程で必要不可欠な製品です。
(株)商船三井傘下のシンガポール法人MOL Chemical Tankers Pte. Ltd.による同国法人の買収資金に対する融資
―日本企業の海外M&Aを支援―

(提供:商船三井)
JBICは、(株)商船三井およびシンガポール法人 MOL Treasury Management Pte. Ltd.との間で、商船三井傘下のシンガポール法人MOL Chemical Tankers Pte. Ltd.(MOLCT)が、同国法人Fairfield Chemical Carriers Pte. Ltd.(以下「FCC」)を買収するために必要な資金の一部について、融資契約を締結しました。FCCは、シンガポールに本社を置くケミカルタンカーの専業運航会社で、ケミカルタンカーの航路をグローバルに展開しています。MOLCTは、FCCの完全子会社化を通じて、保有するケミカルタンカー船隊を大きく拡大するとともに、新たな顧客基盤を獲得することで、さらなる事業拡大および収益機会の獲得を目指しています。本融資は、こうしたMOLの傘下企業による海外でのM&Aを金融面から支援することを通じて、日本の海運事業の国際競争力の維持および向上に資するものです。
(株)フジックスのベトナム法人設立に対する融資
―電機・電子部品分野の日本企業によるサプライチェーン強靱化を支援―

(提供:フジックス)
JBICは、(株)フジックスに対して、ベトナム法人 FUJIX ELECTRONIC VIETNAM COMPANY LIMITED(FEV)設立に必要な資金を(株)三菱UFJ銀行との協調により融資しました。
フジックスは、産業用ロボット向けのサーボモーターやインバータ等に使用されるワイヤーハーネスやアルミダイカスト製品等の製造・販売を手掛ける企業です。世界的なFA(ファクトリー・オートメーション、工場自動化)の需要の高まりに伴い、産業用ロボット等に必要な電気部品への需要が拡大する中、2023年11月にFEVを新設しました。本融資は、フジックスの海外事業展開を支援するものであり、日本の産業の国際競争力の維持および向上に貢献するものです。
親和パッケージ(株)のインドネシア法人が実施するコンテナ輸送用容器の製造・販売事業に対する融資
―中堅・中小企業の海外事業展開を現地通貨建てファイナンスを活用して支援―

(提供:親和パッケージ)
JBICは、親和パッケージ(株)のインドネシア法人 PT. SHINWA PACKAGE INDONESIA(SPI)との間で、貸付契約を締結しました。本件は、SPIがインドネシアのカラワン県で行うコンテナ輸送用容器の製造・販売事業を行うために必要な資金を融資するものであり、本融資はSPIの製造設備の増設に充てられます。
親和パッケージは、自動車・建機・産業機器・半導体等の輸送に使われるスチール製コンテナ梱包材の製造・販売を行う中小企業です。日系の大手鋼材メーカー等の海外進出に合わせて、これまでタイおよびインドネシアに進出し、海外事業展開を進めてきました。
本融資は、こうした親和パッケージの海外事業展開への支援を通じて、日本の産業の国際競争力の維持および向上に貢献するものです。