事業環境と重点課題
当部門では、第4期中期経営計画(2021~2023年度)に基づき、以下の分野を重点課題と考え、脱炭素社会の実現など地球規模の課題の解決に貢献する案件やサプライチェーン強靱化・再構築といった、産業・社会構造の急激な変化の下で、日本企業による案件に対する支援に注力していきます。
(1)地球規模の課題への対処

脱炭素化の大きな流れは具体例を紐解くまでもなく、日本でも菅首相(当時)の所信表明演説(2020年10月)でカーボンニュートラルの政策目標が発表されています。世界でも、2021年6月のG7コーンウォール・サミットで、G7各国が2050年までのネットゼロをコミットし、2021年10月のCOP26ではパリ協定の目標を上回る「1.5℃目標」が明確に示される等、大きな動きが続いております。
一方、これらを実現する方策、考え方は多種多様となっています。日本政府は、それぞれの置かれた環境・状況を踏まえ、現実的な方策を取っていくことがむしろ脱炭素化社会の実現に繋がるとの考え方から、特にアジアを中心とした開発途上国のエネルギー政策等に深くエンゲージし、ともにエネルギー・トランジションを実現していく政策を掲げています。JBICは、日本の政策金融機関として、これまで培ってきた世界各国との強固な関係性等を活かし、日本政府の進めるエンゲージメントといった考え方による脱炭素化、エネルギー・トランジション、さらに廃棄物処理・発電や分散型電源等、社会的課題の解決に貢献する案件の実現を支援していきます。
(2)産業・社会構造変革下での我が国企業の国際競争力強化支援

コロナ禍がもたらした世界的な経済活動の制限、移動制限は、ビジネスにおいても大きな影響を及ぼしています。その一つがサプライチェーンの分断でした。「インフラシステム海外展開戦略2025(令和4年6月追補版)」でも指摘されている通り、今般の世界的な新型コロナウイルス感染症の感染拡大への対応を機に、世界全体でデジタル化、脱炭素化といった社会の変革が加速することが予想され、感染防止の継続と経済成長・環境保全を両立する形で、従来とは異なる新たなインフラニーズに柔軟に応えていく必要性が高まっていくものと考えています。その中で、環境、デジタルに関する先端技術をはじめ、独自の技術力に強みを持つ日本企業の海外展開や日本企業のサプライチェーン強靱化等を支援していくことは、ポストコロナの新しい世界における日本企業の国際競争力の維持・向上に重要な意味を持つと考えています。
JBICは、2020年度に実施したインドでの日系企業サプライチェーン強靱化支援向け融資(インドステイト銀行向け融資)を嚆矢に、これら日本企業のサプライチェーン強靱化に貢献する案件を支援すべく、2022年7月に開始した「グローバル投資強化ファシリティ」の中に、「グローバルバリューチェーン強靱化ウインドウ」を設けました。同ウインドウを活用しつつ、日本企業の海外サプライチェーン強化を積極的に支援していきます。
(3)質の高いインフラ海外展開に向けた戦略的取組の推進

日本政府が2016年に提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序を実現することにより、地域全体、ひいては世界の平和、繁栄を確保していくという考えに根差したものであり、例えば、地域間の連結性向上に貢献できる「質の高いインフラ」の展開は、FOIPの中でも重要となります。
これら質の高いインフラは、多くのステークホルダーに関係するものであり、またプロジェクト規模が大きく、リスクも高くなる傾向があるため、日本やJBIC単独での実現が難しいことも多いと考えられます。
このような問題意識に根差し、JBICでは従来、多国間連携・国際金融機関との連携を重視しています。具体的には日米豪の政策金融機関との連携強化や、欧州投資銀行(EIB)、欧州復興開発銀行(EBRD)といった公的金融機関との連携強化を図ってきました。
コロナにより改めて重要性が認識された保健・医療分野のインフラや代替可能なサプライチェーン確保も含め、日本企業の取り組みを確実に理解し、政策金融機関の役割として、プロアクティブな取り組みを通じ、質の高いインフラの海外展開を支援していきます。
JBICの取り組み
新型コロナウイルス感染症の拡大からの経済回復に際して、脱炭素・低炭素産業への投資促進(グリーンリカバリー)等、カーボンニュートラルに向けたビジネスチャンスが拡大しており、日本の優れた技術を活用して世界の脱炭素化および持続的な経済成長に貢献していくことが重要になっています。JBICでは、世界の脱炭素社会の実現に向け各国における低炭素化・地球環境保全に資する案件への支援を実施するとともに、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた開発途上経済フロンティア地域への支援や日本のサプライチェーンの再構築・強靱化に貢献する案件に対する支援にも取り組んでいます。2021年度の当部門における主要な取り組み実績は以下のとおりです。
低炭素化・地球環境保全に対する取り組み
双日株式会社が実施する太陽光発電事業に対する融資
脱炭素社会実現に向けた再生可能エネルギー事業への支援

JBICは、豪州クイーンズランド州で太陽光発電事業を実施する双日(株)に対し貸付契約を締結しました。豪州は、世界有数の資源大国として長年石炭火力発電に依存していましたが、近年、環境負荷への配慮から、再生可能エネルギーへの転換を推進しています。
本プロジェクトは、双日とENEOSグループが共同出資する豪州法人Edenvale Solar Park Pty Ltdが、豪州クイーンズランド州において、総発電容量204MWの太陽光発電所を建設・所有・運営し、現地電力小売業者や電力市場等に対し売電する事業です。JBICは、こうした双日の海外事業展開を支援することで、日本の産業の国際競争力の維持・向上に貢献します。
環境保全業務(GREEN)の下、サウジアラビア、トルコに融資
GREENにおけるファイナンスツール活用で金融面から地球環境保全に貢献

Global action for Reconciling Economic growth and ENvironmental preservation(通称:GREEN)は、地球環境保全業務を通じて、「世界規模での環境と経済の両立」への寄与が期待されるプロジェクトに対する融資・保証および出資です。JBICは、GREENの一環として、サウジアラビアにおける再生可能エネルギー事業に必要な資金をサウジアラビア王国電力会社(SEC)へ融資しました。SECが抱える電力セクターの課題に対して、日本企業の投資および製品・技術導入による解決策を提示していくことで、サウジアラビアにおけるエネルギー転換および持続的な環境・社会の促進に向けて協力していきます。
また、トルコにおいては、再生可能エネルギー事業およびエネルギー効率化事業を支援すべく、トルコ産業開発銀行に対し、クレジットラインを設定しました。JBICは、日本の政策金融機関として、各国のエネルギー政策や環境政策に寄り添いつつ、GREENにおけるファイナンスツールを活用し、金融面から地球環境保全に貢献しています。
経済フロンティアに対する取り組み
住友商事(株)ベトナム法人が実施する工業団地建設・運営および屋根置き型太陽光発電事業に対する投資金融支援
脱炭素社会の実現に向けて日本企業の海外事業展開を支援

JBICは住友商事(株)のベトナム法人Thang Long Industrial ParkⅡ Corporation(TLIP2)に対し、投資金融による支援を行いました。本融資は、TLIP2がベトナム北部フンイエン省にて行う第二タンロン工業団地の拡張事業および総発電容量20MWの屋根置き型太陽光発電事業への支援であり、同工業団地の入居企業に対し売電する事業に必要な資金を融資します。
近年、気候変動問題をはじめとするESGの観点から、特に大量の電力を消費する製造業を中心に、地球規模でグリーン電力の需要が高まっており、本件事業を通じて、日本企業やベトナムのカーボンニュートラルに向けた取り組みに貢献していきます。
日本企業のサプライチェーン構築・再編に向けた取り組み
川崎汽船(株)がタイ王国において実施する常温倉庫運営事業に対する融資
日本企業の海外事業展開を支援

JBICは、川崎汽船(株)のタイ法人K Line Container Service(Thailand) Ltd.(KCST)がサムットプラカーン県において行う冷蔵・冷凍倉庫運営事業および常温倉庫運営事業に対し、投資金融による支援を行いました。川崎汽船は2021年度経営計画において、アジアを中心としたグローバルな事業展開の進展を掲げ、東南アジア地域において、タイを物流の重要拠点の一つとして位置付け、1988年にKCSTを設立しました。以来、現地タイに進出する日系企業との強固な関係性を基盤に倉庫事業および配送事業を行っています。同国において急成長を遂げるEコマース需要の取り込みや取扱貨物の多角化を図ると共に、生鮮・冷凍食品等の品質を長く維持し、品質劣化を防止する冷蔵・冷凍倉庫事業を支援することは、タイの抱える食品ロス削減に貢献するものです。
他国・他機関との連携


JBICでは、他国政府との関係構築や他機関との連携により、案件発掘やインフラプロジェクト実現・加速のためのリスク軽減等に取り組んでいます。また、世界で脱炭素化、カーボンニュートラルに向けたさまざまな議論が活発化しており、これまで構築してきた各国との関係を活かし、それぞれの国の置かれた現状や政策に寄り添い、対話を実施しながらあるべき道筋をともに進んでいく、エンゲージメントの取り組みを大切にしています。
他国との連携に関しては、定期的に実施しているインドネシア電力公社(PLN)との協議会に加え、ベトナムに対しては、米国国際開発金融公社、豪州外務貿易省および豪州輸出金融公社と共に、同国におけるエネルギー転換を中心に、電力需要の増加に対応するための金融協力について、ベトナム共産党中央経済委員会との間で意見交換を実施しました。また、ベトナム電力公社およびベトナム国営石油ガスグループ等の国営企業を所有・管理するベトナム国家資本管理委員会(CMSC)との間で、今後の協力関係強化を目的とした覚書を締結しました。同覚書では、CMSCおよびその他関係省庁との定期的な協議を通じた関係強化により、ベトナムのベースロード電源のエネルギー・トランジションの推進を図ることを目指しています。
他機関との連携に関しては、日本政府が推進する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け関係強化を進めている日米豪三カ国の連携に引き続き取り組んでいます。2021年10月には、欧州投資銀行との間で業務協力協定を締結しました。同協定では、カーボンニュートラル、インフラ、イノベーションおよび持続可能な開発目標といった分野において、日本企業および欧州企業の参画が期待されています。従来構築してきた協力関係を一層強化し、日欧企業の参加するプロジェクトの協力推進を図ることとしています。