
国際社会では、技術革新の進展や地球規模での社会課題解決に向けて、さまざまな人々が不断の努力を積み重ねています。その結果、デジタル化や脱炭素化といった分野での社会変革が加速しています。一方、国際情勢は、地政学リスクを伴う環境変化にも直面しています。
この現状をふまえ、社会変革を持続可能な未来につなげていくためには、それを支えるインフラ基盤を国際社会が協働して整備することが不可欠です。例えば、デジタル化の進展においては、海底ケーブルから通信基盤、データセンター、衛星通信に至るまで情報のサプライチェーンを俯瞰し、安心・安全で強靱な通信網の整備を地球規模で推進することが重要です*1。また、AIの急速な発展を健全な社会生活と結びつけるためには、データセンター等のデジタルインフラに加え、増大する電力需要を支える電力インフラ等を一体的に整備・強化することが必要です。さらに、脱炭素化においては、経済成長と中長期的なエネルギートランジションの両立という難しいかじ取りが求められます。その針路を立てる上で、中東情勢の長期化等を背景に一層重要性が高まっているエネルギー安全保障についても勘案すべき要素となります。こうした事情は各国により異なるため、脱炭素化の実現という世界共通の課題であっても、その現実的な進路はさまざまです。
インフラ・環境ファイナンス部門では、従来取り組んでいる「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想*2に代表されるように、国際社会と協働しつ社会課題に対してソリューションを「共創」し続けていきます。しかし、国際情勢の不確実性が高まる中、日本企業を取り巻くビジネス環境も不透明感が増していることは紛れもない事実です。そうした中でも、日本企業の強みである技術や知見を取り込み、ビジネス機会へつなげていくことが「共創」の取り組みの鍵であると私たちは確信しています。
これらの実現のために、JBIC独自の強みを生かし、3つのアプローチで臨んでいます。➀各国との対話を重ね、幅広い視点からその国の社会課題を特定する、➁JBICのグローバルネットワークを駆使し、多国間の枠組みの中でコーディネーション能力を発揮することで、単独では解決困難な課題にも立ち向かう、③課題解決に資する技術革新動向にも目配りし、金融の枠を超えたナレッジを日々蓄積することで、カスタムメイドなソリューションを提案する。こうしたアプローチを通じて、国際情勢により、刻々と変化する世界各国の課題に寄り添い、日本企業によるグローバルなインフラ展開の先導役を果たしたいと考えています。
インフラ・環境ファイナンス部門長
川上 直
注釈
- *1
2026年5月2日にベトナム国家大学において実施された外交政策スピーチの場で高市総理は、インド太平洋地域において海底ケーブル、オープンRAN、衛星通信およびオール光ネットワーク等のインフラ整備支援を推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)デジタル回廊構想」を発表
- *2
「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想:日本企業が強みを持つ技術・知見を生かし、エネルギートランジションに向けたアジア各国の取り組みを支援し、協力する枠組み。現在では、経済・エネルギー強靱化の視点を加え、「AZEC 2.0」として進化
部門の概要
- 日本の産業の国際競争力維持・向上のため、インフラ・環境分野における海外事業展開を支援
- 地球環境の保全を目的とする海外における事業の支援
- インフラ・環境ファイナンス部門の出融資・保証実績:約2.5兆円(過去5年、76件)
インフラ・環境ファイナンス部門は、日本企業の高い技術を用いた「質の高いインフラ」の海外事業展開の推進および地球環境の保全を目的とする海外事業の支援を、主な業務としています。
電力・新エネルギー第1部、電力・新エネルギー第2部および社会インフラ部で構成されている当部門は、安全で安心 なデジタル化社会の実現に向けた信頼性の高いインフラ事業展開の支援に取り組んでいます。さらに、持続可能な未来を実現させるため、脱炭素化と経済成長の両立やエネルギー安全保障を重視する各国のニーズに応じた、現実的な脱炭素プロセスの道筋を日本企業と「共創」しています。
強み
- グローバルネットワークを背景とした、多国間連携の中でのコーディネーション能力
- 革新的技術等、金融の枠を超えたナレッジの蓄積
- 公的ステータスを生かしたプロジェクト実施国との信頼関係に基づく課題解決
外部環境認識
Summary:
分断と多極化が進む中、競争激化とカントリーリスクが高まり、経済安全保障の重要性が一層増大。GX・DX進展に伴うニーズ多様化と不確実性の中、官民連携による事業の「共創」が不可欠。
現在、自由貿易から保護主義への流れやグローバルサウスの台頭により、世界は分断と多極化が進展しています。インフラ市場では新興国企業との競争が激化する一方、カントリーリスク等も増大し、経済安全保障や国家安全保障の視点の重要性が高まっています。加えて、GXやDXの進展により、ホスト国のインフラニーズは多様化しています。このような構造変化のもと、ビジネス機会は拡大するものの、国際社会の不透明性が極めて高いことも相まって、日本企業だけでビジネスとして取り込んでいくには一層の困難が予想されます。
そのため、JBICには、政策対話を通じてニーズを的確に捉え、国際社会と協働しながら、日本企業が参画可能な予見性の高い事業を「共創」していく役割が求められています。
成長戦略
Summary:
ホスト国とのエンゲージメントを通じて電力・通信インフラの高度化とバリューチェーン全体の低炭素化を推進し、多国間連携と金融機能を生かして持続可能な社会の実現を後押し。
持続可能な未来の実現に向け、AZECのもとで包括的なエンゲージメントを推進し、具体的な案件の実現につなげています。今後は、データセンター投資を支える電力広域連携網整備支援等、同様の取り組みをさらに発展させていきます。併せて、発電・燃料製造、送電・輸送、消費に至るバリューチェーン全体を見据えた統合的な低炭素化開発や、気候変動への適応、水資源確保や廃棄物対策等、幅広い社会課題への対応も重要です。
また、デジタル化が急速に進展する時代においても、変化を先取りし、サプライチェーン全体を俯瞰して取り組んでいきます。具体的には、データセンターやモバイルネットワーク、海底ケーブル、衛星通信等の通信インフラ全般について日本企業の技術・事業の海外展開を後押しし、信頼性の高いインフラ展開を推進します。加えて、国際的な共通課題に対処し、安定と発展に不可欠なインフラ開発を後押しするために、多国間連携や国際機関との協調によりリスクを分担しながら、金融ツールを総動員して案件形成を行います。
PROJECT HIGHLIGHT
ウズベキスタンにおける太陽光発電および蓄電事業2案件に対するプロジェクトファイナンス
―JBIC初のウズベキスタンにおける再生可能エネルギー事業向け融資、日本企業による脱炭素社会の実現に向けた海外インフラ事業展開支援―
シルクロードの要衝として栄えた、ウズベキスタンのサマルカンドの郊外に建設が予定されている(提供:住友商事)JBICは、ACWA Power Company(ACWA)、住友商事(株)、中部電力(株)、四国電力(株)が出資する合弁会社2社に対して、ウズベキスタンでの太陽光発電・蓄電事業2案件に必要な資金を融資しました。
同国では電力需要が高まる中、再生可能エネルギー発電を増やし、GHG排出量削減を掲げています。本件は、同国政府のエネルギー政策の中核となるもので、中央アジア最大規模の総発電容量・総蓄電容量となります。日本企業とウズベキスタンの脱炭素に向けた取り組みを支援するとともに、日本産業の国際競争力の維持・向上にも貢献しています。
Voice
左から、小鑓 菜緒 副主任、東田 陽平 次長、加藤 礼央 調査役。所属:電力・新エネルギー第1部 第2ユニット(※当時)時には日本企業のライバルでもある実績豊富なACWAの呼び掛けにより、日本企業との共同出資が実現し融資に至った案件です。スポンサーだけではなく、レンダーにも多くの国際開発金融機関が名を連ね、国際色豊かなプロジェクトになりました。それぞれの機関が有する知見を共有しながら、一体となってスポンサーや政府と交渉を進める中で、法務・商務・資金決済実務の各側面をふまえた合意形成を図ることができ、国際協調案件におけるJBICの役割を改めて実感しました。
タイにおける省エネ投資推進のためのプラットフォーム立ち上げについて
GHG排出量の可視化および省エネ技術の導入やそのための支援の拡充をはじめ、情報発信の強化等も実施する製造業が集積するタイで、産業分野の省エネ化を通じた脱炭素化を支援すべく、在タイ日本国大使館等と連携し、AZEC-SAVE*3プラットフォームを設立しました。2025年7月に、東京センチュリー(株)のタイ現地法人向けに省エネ機器リース支援クレジットラインを設定し、同クレジットラインのもと、2026年3月に2件の個別貸付契約を締結しました。
本件は、タイの脱炭素化に貢献するとともに、省エネ技術に強みを持つ日本企業の海外展開支援にもつながるものです。
注釈
- *3
AZEC-Smart and Advanced Value-chain for Environment:日本とタイの企業および政府・公的機関との連携を促進し、タイにおける脱炭素化の取り組みを支援することを目的としたもの
Voice
左から、大和 靖幸 次長、増田 怜奈 副調査役、平井 眞理子 副主任。所属:電力・新エネルギー第2部 第1ユニット(※当時)省エネ機器導入のように、必ずしも個々の投資規模が大きくない分野をいかに効果的に支援していくかという問題意識のもと、行内外の関係者と対話を重ねながら試行錯誤を続けました。その結果、プラットフォームやリースの仕組みを組み合わせることで、省エネ取組支援スキームの構築・実現に至りました。中東情勢の不安定化によるホルムズ海峡の封鎖を発端に、図らずも省エネによるエネルギー安全保障の側面に注目が集まっている現在において、本分野に携われていることにあらためて大きなやりがいを感じています。





