
技術革新による新しいニーズが高まる国際社会で、質の高いインフラの海外推進と多国間連携力を活用し、課題解決の先導役を果たしていきます
国際社会では、技術革新の進展や持続可能な社会に向けて、さまざまな人々が不断の努力を積み重ねているところです。こうした努力により、デジタル化や脱炭素化といった社会変革の加速が予想され、従来とは異なる新しい技術を活用したインフラ整備の必要性が世界規模で高まっています。また、各国が抱える社会課題解決の緊要度も増している中、気候変動に対する社会の適応や戦争・紛争・災害といった被害からの復興支援等、現に起こってしまっていることへの早急な対処が必要です。そして、未来志向で平和で安定的な国際社会の環境を確保し、より良い経済環境を実現していくために、国際社会と協働していくことは欠かせません。
また、インフラ市場を取り巻く構造変化の中で、課題解決に向けた顧客ニーズをいかに機敏にくみ取り、国際社会と協働しながら日本企業のビジネス機会としてどのように取り込んでいくのかが重要となります。しかし、現下の国際情勢における不確実性は高まってきており、日本企業を取り巻くグローバルなビジネス環境も不透明感が増している状況です。
こうした中、インフラ・環境ファイナンス部門では、2024年6月に公表した第5期中期経営計画(2024~2026年度)に沿って取り組んでいます。気候変動対策においては、脱炭素化と経済成長の両立やエネルギー安全保障を重視する各国の個別の事情に応じた現実的な脱炭素プロセスの道筋を「共創」しています。特に、日本企業が強みを持つ技術・知見を活かす具体的なソリューションを提示することにより、課題解決への貢献を目指しています。
これらの実現を図るため、JBIC独自の強みを活かし、3つのアプローチで臨んできました。➀各国との対話を尽くし幅広くその国の社会課題を特定する、➁JBICのグローバルネットワークを駆使し、多国間の中でコーディネーション能力を発揮することで単独では困難な課題にも立ち向かう、➂各種課題解決に資する技術革新動向にも目配りし、金融の枠を超えたナレッジを日々蓄積することでカスタムメイドなソリューションを提案する。こうしたアプローチを通じて、国際情勢の中で刻々と変化する世界各国の課題に寄り添い、日本企業によるグローバルなインフラ展開の先導役を果たしたいと考えています。
上記中期経営計画初年度の2024年度では、日本政府が提唱・推進している「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想*のもと、アジア各国政府と共にハイレベル協議の枠組みを構築し、緊密な政策対話を重ねてきましたが、今後はこの取り組みをさらに発展させていく考えです。
*「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想:日本企業が強みを持つ技術・知見を活かし、エネルギートランジションに向けたアジア各国の取り組みを支援し、協力する枠組み。
インフラ・環境ファイナンス部門長
常務執行役員 関根 宏樹
部門の概要
- 日本産業の国際競争力維持・向上のため、インフラ・環境分野における海外事業展開を支援
- 地球環境の保全を目的とする海外における事業の支援
- インフラ・環境ファイナンス部門の出融資・保証実績:約2.6兆円(過去5年、80件)
インフラ・環境ファイナンス部門は、日本企業の高い技術を用いた「質の高いインフラ」の海外事業展開の推進および地球環境の保全を目的とする海外事業の支援を、主な業務としています。
電力・新エネルギー第1部、電力・新エネルギー第2部および社会インフラ部で構成されている当部門は、安全で安心なデジタル化社会の実現に向けた信頼性の高いインフラ事業展開の支援に取り組んでいます。さらに、持続可能な未来を実現させるため、脱炭素化と経済成長の両立やエネルギー安全保障を重視する各国のニーズに応じた、現実的な脱炭素プロセスの道筋を日本企業と「共創」しています。
強み
- グローバルネットワークを背景とする多国間連携の中でのコーディネーション能力
- 革新的技術等、金融の枠を超えたナレッジの蓄積
- 公的ステータスを活かしたプロジェクト実施国との信頼関係に基づく課題解決力
外部環境認識
現在、自由貿易から保護主義への連鎖が進み、グローバルな価値観の分断が深まるとともに、グローバルサウスの台頭により世界的な多極化が進むという地政学的な環境変化が生じています。
グローバルなインフラ市場では、飛躍的に成長を遂げている新興国企業との競争が一層厳しくなってきています。一方、カントリーリスクをはじめとする投資・事業環境に関するリスクは増大し、経済安全保障の確保や国家安全保障の視点も重要となってきています。さらに、GXやデジタルトランスフォーメーション(DX)の分野での社会変革は引き続きその勢いを増し、ホスト国におけるインフラニーズも多様化しています。インフラ市場におけるビジネスチャンスはグローバルに拡大するものの、このような構造変化の中で、日本企業のみでビジネスとして取り込んでいくには、不透明性の高まりに伴い一層の困難が予想されます。
このように世界情勢のあり様が変化する中で、日本に対する期待も高くなっています。ホスト国との緊密な政策対話を通じて多様化するニーズを機敏に捉え、経済安全保障の確保や国家安全保障の視点もふまえ、日本企業も参画し得る予見可能性の高いビジネスを国際社会と協働しながら「共創」していくことが、政策金融機関であるJBICの役割だと考えます。
成長戦略
包括的なアプローチで、持続可能な未来を実現させるために、AZEC構想のもと、エンゲージメントアプローチを積極的に実施したことで、インドネシアでの案件が結実しました。今後は、同様の取り組みをさらに発展させていきます。例えば、大量の電力を必要とするデータセンター事業投資の持続を可能とする電力広域連携網整備支援等です。地球環境保全に配慮し安全・安心なデジタル化社会を実現するには、発電・燃料製造、送電・燃料輸送、消費等のバリューチェーン全体を意識して統合的な低炭素化開発に取り組まなくてはなりません。また気候変動への適応に配慮し、水の確保・ごみ問題への対処等の幅広い社会課題に注力することが重要です。
デジタル化時代において、社会経済活動を支える情報通信インフラ分野への尽力も欠かせません。サプライチェーン全体を俯瞰し、データセンターやモバイルネットワーク、海底ケーブル、衛星通信等の通信インフラ全般について日本企業の革新的技術・事業の海外展開を後押しをし、信頼性の高いインフラ展開を推進します。
また2024年度には、ウクライナ復興および周辺国支援として黒海貿易開発銀行(BSTDB)へのクレジットラインを設定。国際的なさまざまな共通課題に対処し、安定と発展に欠かせないインフラ開発を後押しする上で、あらゆる金融ツールを総動員することが重要であり、日米豪印戦略対話(QUAD)を含む多国間連携の枠組みや国際機関との協調を通じてリスクシェアを図りながら、案件組成を行います。
PROJECT HIGHLIGHT
インドネシア・ムアララボー地熱発電拡張事業に対するプロジェクトファイナンス
―日本企業による再生可能エネルギー発電事業拡大を支援―
発電能力の拡張とともに、2052年までインドネシア国営電力会社に対して売電するJBICは、住友商事(株)および(株)INPEX等が出資する合弁会社に対して、ムアララボー地熱発電拡張事業に必要な資金を融資しました。AZECの枠組みをふまえた日本企業の海外インフラ展開とともに、AZECの重要なパートナーであるインドネシアのカーボンニュートラル・脱炭素移行を支援するものです。
ドイツ法人United Internet AGに対する融資
―ドイツにおけるOpen RAN技術による5Gネットワーク基盤構築を通じて日本企業の現地ビジネスを支援―
デジタル分野での信頼性の高いインフラ開発に向け日本企業の海外展開を支援するJBICは、ドイツ法人United Internet AGに対して、楽天シンフォニー(株)の完全仮想化ネットワーク用ソフトウェア群を活用し、同国のOpen RAN技術による5Gネットワーク基盤構築に必要な資金を融資しました。
ドイツ法人が実施する地熱発電および地域熱供給事業に対するプロジェクトファイナンス
―日本企業の海外事業展開を支援―
革新技術を用いた日本企業の海外インフラ展開を支援し、欧州域内における安定的な再生可能エネルギー由来の電力・熱供給に貢献JBICは、中部電力(株)が出資するドイツ法人Eavor Erdwärme Geretsried GmbH & Co. KGに対して、クローズドループ地熱利用技術を初めて商用化した地熱発電事業および地域熱供給事業に必要な資金を融資しました。
国際金融秩序の混乱への対処および地球環境保全を目的とした黒海貿易開発銀行に対するクレジットラインの設定
―ウクライナの復興、ウクライナ・周辺国の気候変動緩和を支援―
BSTDBは、発電・交通等の分野におけるウクライナを含む黒海周辺国向けの融資実績を有する国際金融機関JBICは、➀ウクライナおよび周辺国における農業や食糧、交通・物流、デジタルインフラおよび医療セクター等を含むウクライナ復興に資する事業、➁BSTDB加盟国内における再生可能エネルギー等を中心とした気候変動緩和に資する事業を支援するために同行との間でクレジットラインを設定しました。
- その他の取り組みについては
プレスリリース(セクター:インフラ)
プレスリリース(セクター:環境)をご参照ください





