株式会社国際協力銀行 総裁記者会見
- 日時)2022年3月3日 15:00~16:00
- 場所)国際協力銀行 本店
- 説明者)総裁 前田 匡史
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- 配布資料)
- 最近の国際協力銀行(JBIC)の取り組み
1.ESG分野の取り組み 資料:P.3~7
(1)ESG分野での取り組みについて、当行は昨年の10月にJBIC ESGポリシーを公表し、2050年までに投融資ポートフォリオのGHG排出量ネットゼロの達成を追求していくことを表明しました。また、ホスト国政府と継続的なエンゲージメントを通じて直接向き合い、単にダイベストメントするのではなく、新興国・途上国のエネルギー・トランジションを加速させて、世界全体でのカーボンニュートラル実現に貢献したいと考えております。
脱炭素社会の実現に向けたエネルギー変革への対応では、グリーンファイナンス及びその間のトランジションファイナンス、環境社会配慮ガイドラインに沿った自然環境等への配慮の確認、そしてグリーンボンドの発行に取り組んでいきます。社会的な課題の解決に資する事業に対する支援、いわゆるソーシャルインパクトファイナンスについては、環境社会配慮ガイドラインに沿った地域社会等への配慮確認や、ジェンダー問題といった社会的な課題へのファイナンスを通じた貢献、そして人材育成、働き方改革の推進を掲げています。ガバナンスの分野では、サステナビリティ推進体制及びコンプライアンス態勢の実効性の強化、外部イニシアチブへの参加を進めてまいります。
気候変動問題への対応方針については、パリ協定の国際的な実施に向けた貢献として2030年までに自らのGHG排出量ネットゼロ、2050年までには投融資ポートフォリオのGHG排出量ネットゼロの達成を追求していきます。具体的には、気候変動関連のファイナンスを強化、TCFD提言に基づく情報開示を推進、環境社会に配慮した出融資等の取り組みを行います。
(2)ESG分野の取り組みの具体例として、本年1月に、政府保証外債として初のグリーンボンドを発行しました。これには大幅な超過需要があり、市場でのシェア・知名度の高いサステイナリティクス社によって認証された厳格なフレームワークが評価され、国内外のグリーン投資家にご購入いただきました。通貨は米ドル、年限5年、クーポン1.625%とし、調達資金は再生可能エネルギーや欧州高速鉄道等のクリーンな交通システム等の案件に充当されます。地域別の販売状況は、アジアが47.0%、欧州・中東が44.7%、米州が8.3%、業態別の販売状況は、各国の中央銀行・公的機関が41.3%、商業銀行が46.4%、その他アセットマネジメント、保険会社・年金基金等となっています。
(3)当行は、米Eurasia Groupとサントリーホールディングス株式会社が共同で設立したSustainability Leaders Councilの活動に賛同し、同CouncilにSponsoring Partnerとして参加しています。サステナビリティを巡るグローバルな議論に関して、アジアの視点から発信していくことを目的にしており、各国の政財界のリーダーを集めたグローバルイベントを毎年開催しています。今年は海洋プラスチックごみに対する取り組みを中心とし、気候変動問題も含めて議論が行われ、私からはアジアにおける気候変動等の問題に対するJBICの取り組みについて紹介するとともに、エンゲージメント、イノベーションの重要性を強調しております。
(4)クリーンエネルギーの普及に向けた取り組みでは、国際機関・各国機関との協力関係強化に向けて、2020年6月に国際金融公社(IFC)、2021年1月に米国の国際開発金融公社(USDFC)、3月に米カリフォルニア州政府、10月に欧州投資銀行(EIB)、11月にアブダビ国営石油会社(ADNOC)、及び本年2月にサウジアラビアのソブリンファンドであるPublic Investment Fund(PIF)とそれぞれ覚書・業務協力協定を結んでおります。また、2021年11月には、ベトナムのファン・ミン・チン首相の訪日の機会を捉え、国家資本管理委員会(CMSC)との業務協力協定を結んでおります。
具体的な内容として、例えば米カリフォルニア州では、2020年6月に水素ステーション事業に出資をしており、クリーンモビリティ分野、水素・再生可能エネルギーの分野での実装を既に進めております。EIBとの間ではカーボンニュートラルやインフラ、イノベーション及び持続可能な開発目標(SDGs)といった分野での協力、ADNOCとは脱炭素、エネルギー・トランジション分野、サウジアラビアPIFとは水素を含む脱炭素やデジタルトランスフォーメーション、スマートシティ開発における協力関係の強化を進めていきます。CMSCはベトナムの国家資本を管理する委員会であるところ、同国のベースロード電源を石炭火力からガス火力及び再生可能エネルギーに移行するエネルギー・トランジションを推進するため鍵になると考え、覚書を締結しております。
2.多国間連携の取り組み 資料:P.8~10
(1)多国間連携の取り組み文脈でも、ベトナム政府との対話についてご紹介します。ベトナムの共産党中央経済委員会(CEC)とは、日米豪との対話を2度に亘って実施しました。主な協議内容は、エネルギー・トランジションに対する日米豪の連携支援、インフラプロジェクト開発における海外からの民間投資資金を確保するための投資環境整備、そしてバンカブルなPublic Private Partnership(PPP)制度の構築に向けた取り組みです。昨年11月には、ファン・ミン・チン首相と対談し、ベトナムの脱炭素化に向けたエネルギー・トランジション支援について、エンゲージメントの一環として当行とベトナム政府が協力を推進していくことを確認しております。前述のCMSCとの覚書もその一環です。
(2)当行は、本年の3月16日、シドニー駐在員事務所を開設することとなりました。昨今、豪州とは、日米豪連携における地形学的な対応のパートナーとして様々なプロジェクトでの協力を推進しており、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日米豪連携を今後もさらに強化したいと考えております。具体的な日米豪連携の取り組みとしては、第1号案件として、2021年1月にパラオ海底ケーブルプロジェクトを承諾しました。また、パプアニューギニアやインドネシア等に対して、日米豪で合同ミッションを派遣し、ベトナム共産党中央経済委員会との日米豪対話を実施しております。大洋州においては、中国電力と共同でフィジーの国営電力公社(EFL)の株式の一部(44%)をフィジー政府から取得しました。フィジーは島嶼国であり、気候変動に伴う海面上昇に対して強い危機感を持っているところ、今後2036年までに発電の全量を再エネ化するという目標を持っており、これを日米豪で支援していく方針です。
豪州は水素の製造・輸送に適しており、日本企業も水素バリューチェーン構築に向けた様々な実証事業に参画しています。リチウムやニッケル等を含むクリティカル・ミネラルズも豊富に賦存しており、豪州連邦政府は、これらの上流開発や鉱石の製錬・電池製造等の川中・川下産業の育成に今注力しています。さらに、人口が堅調に増加していることから、再エネ投資や西シドニー開発といった社会インフラ投資にもニーズが増加している状況にあります。このように、同国は日本企業にとっての事業ポテンシャルが高い国であり、投稿はこうした事業支援に一層注力していく方針です。
3.最近の特徴的な取り組み 資料:P.11~15
最後に、最近の特徴的な取り組みについてご紹介します。昨年7月には、米国を本拠地とする世界最大の資産運用会社の一つであるBlackRockがその子会社を通じて組成・運用するClimate Finance Partnership Fund SCSpに対して、他の政府機関、仏開発庁(AFD)や独復興金融公庫(KfW)と同様にCatalytic Partner(CP)として最大30百万米ドルの出資をしました。同ファンド総額は、目標を上回る6億7300万米ドルでクローズしており、開発途上国の再生可能エネルギー事業への民間資金動員を促進していきます。
本年2月には、先ほどもご紹介した通り、サウジアラビアのソブリンウェルスファンドであるPublic Investment Fund(PIF)との間で、パートナーシップ強化のための覚書を締結しました。協力分野として、脱炭素関連事業(ブルー水素・グリーン水素の生産、輸送及び活用、アンモニア、再生可能エネルギー等)、スマートシティ開発、デジタルトランスフォーメーション(DX)事業等を含め、サウジアラビアが目指す、石油依存型経済からの脱却や経済多角化を促進に向け連携を取るものです。
また、昨年の12月、カリフォルニア水素ステーションの建設・運営事業に対する融資を行いました。岩谷産業株式会社の米国法人Iwatani Corporation of Americaが実施する水素ステーションの建設・運営事業を支援するものであり、水素ステーション事業関連としては、2020年6月の水素ステーション事業を行うFEFに対する出資に続く案件です。
昨年10月には、人工構造のタンパク質素材を開発するバイオベンチャーであるSpiber社に、JBIC初のスタートアップ企業向け融資として、総額50億円の融資(協調融資総額100億円)を行いました。同社が開発する素材は、植物由来の糖類を主原料として微生物による発酵プロセスを経て製造されるもので、カシミヤやレザー、ファーといった天然素材と同品質の繊維素材等に加工することが可能です。石油に依存しない原料で、海洋生分解性も確認され、マイクロプラスチックを生み出すこともないという画期的な素材であり、GHG排出量を動物由来の素材に比べて大幅に削減できる可能性があります。
昨年12月には、ルネサスエレクトロニクス株式会社が英国法人Dialog Semiconductor Plc(Dialog社)の株式をM&Aで取得するにあたり必要な資金について、1,440億円(協調融資総額2,400億円)の融資を行いました。ルネサスは、Wi-FiやBluetooth等のコネクティビティ技術を得意とするアナログ半導体企業であるDialog社の買収を通じて、製品ラインナップを拡充し、IoT、産業、自動車分野の高成長市場向けに、協力で網羅的なソリューションを提供することを目指しています。本買収の支援はルネサスの国際競争力を維持向上に資するものであり、半導体のグローバルサプライチェーンを支える役割が期待されるレガシー半導体を多く生産する同社の製造基盤強化は、日米連携強化にも貢献することが期待されます。
4.ロシア向け取り組みについて
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシア向け新規の取り組みについて説明します。現在のウクライナで起きていることは「通常モード」を超えたことであり、当行としても、「これまでと同様にロシア向けの経済協力を進めていくことは難しい」と考えています。
ロシアの石油・天然ガス生産プロジェクトでは、サハリンIプロジェクト、サハリンIIプロジェクトを支援してきましたが、いずれも融資返済はすべて完了しています。また、アークティックLNG2プロジェクトについては、プロジェクト会社は民間企業であり、制裁対象外と承知していますが、ロシア政府は対抗措置として、ロシア居住者が非居住者に対する送金を禁止する旨の大統領令を発布しており、その詳細を引き続き確認中であるため、一旦貸出を停止しています。
日本企業の輸出を支援するための金融機関向け案件では、ズベルバンク、ロシア開発対外経済銀行(VEB)との間でクレジットラインを設定していましたが、これらの金融機関に対し、今般新たに資産凍結・取引制限等の制裁が課されたことから、新規取引が実施できません。ズベルバンク向けクレジットラインの残高はなく、VEB向けについては期限前弁済を求めていきます。いずれにしても、ロシア向け取り組みについては、G7を始めとする国際社会と連携している日本政府の方針を踏まえて慎重に対応していく方針です。