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定例記者会見(2023年2月28日)

株式会社国際協力銀行 総裁記者会見

1.気候変動対策 資料:P.2~7

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(1)当行はアジアのエネルギートランジションを、日本政府の全体的な努力の中で支援していきます。岸田内閣は「アジア・ゼロエミッション共同体」構想を掲げており、これはカーボンニュートラル達成に向けて積極的に取り組むアジアの有志国とともに、経済成長とエネルギー安全保障を確保しつつ、日本の技術やノウハウも活用しながら、各国の実情に沿った脱炭素化を進めるというものです。水素やアンモニアといった次世代エネルギーのサプライチェーンをアジアに構築することや、国際的な技術標準をアジア発で作っていくことも主な課題となっています。昨年11月のG20バリ会合において、日本とインドネシアの両首脳がこの構想の実現に向けてイニシアチブをとっていくことを発表し、その後実行に向けた作業が進められています。

もうひとつ、公正なエネルギー移行を支援するためにG7有志国とEUがイニシアチブをとっている「JETP」があります。“Just”とは、石炭火力を早期に退役させ、再生可能エネルギーに切り替えていくにあたり、石炭産業を中心に影響を受ける市民・コミュニティに配慮することで、円滑な移行を実現するとの意味合いによるものです。JETPの取り組みは、南アフリカにはじまり、昨年11月にはインドネシア、12月にはベトナムでそれぞれ立ち上げられました。そうした中で当行はホスト国政府と対話し、再生可能エネルギー等の個別案件を組成していきます。具体的に再生可能エネルギー案件を普及していく上で重要な先として、昨年11月にはインドネシアの国営石油会社プルタミナや国営電力会社PLNのほか、インドネシアでのJETPの取組推進の司令塔にあたるインフラ金融公社(SMI)との間で、それぞれMOUを締結しました。プルタミナに対しては、MOU締結後すぐのタイミングである昨年12月に、再生可能エネルギー事業に必要な資金を融資しました。

インドネシアにとどまらず、アジア各国との間で様々な取り組みを進めています。例えば昨年11月には年1回のアジア輸銀フォーラムがマレーシアで開催され、再生可能エネルギーの開発促進をアジア各国共同で表明しました。また、インドについては、昨年11月に政府系ファンドであるNIIFLとの間で、インドの環境保全及び経済成長を促進し、あわせてインド企業と日本企業の橋渡しを目的としたMOUを締結しました。インドは2070年カーボンニュートラルを掲げており、再生可能エネルギー、特に太陽光への投資を相当な勢いで進めています。インドは今後国内製造業の振興を柱に経済成長していくにあたり、石炭のみならず石油やガスもますます必要になってきますが、エネルギーの調達を輸入にばかり頼っていると、貿易赤字体質がさらに悪化してしまいます。そのため、インドは経済成長そしてエネルギー安全保障のためにも、自前のエネルギーの確保を図っており、そのために非常に大きな投資をしており、当行としてはこれを支えていきたいと思っています。

インドネシアについては、2060年のカーボンニュートラル達成を目指しており、太陽光や水力、バイオマス発電、そして廃棄物発電といった再生可能エネルギーのプロジェクトが多数進められています。しかし、日本と同様に島国であり、再生可能エネルギーの供給地から需要地までが離れており、グリッドの強化が課題となっています。遠隔地への送電は日本企業の得意分野であり、当行としても支援していきたいと思います。

ベトナムは2045年には先進国の仲間入りを果たしつつ、2050年にはカーボンニュートラルを達成するとの野心的な目標を両立させようとしています。実現のためには風力とガス火力を活用しつつ、経済成長を続けていくことが求められます。ベトナムには洋上風力の適地が豊富に存在し、また、国内ガス田も有するため、産出されるガスを発電用途に利用することができます。ただし、南北に細長い国土にあって、太陽光や風力の適地が多い南部から、工業の拠点が集結する北部に電力を融通することが課題であり、こうした送電網の強化についても当行として協力していきたいと思います。
 
(2)気候変動対策に資する具体的なプロジェクトを2件紹介します。一つは、昨年11月に調印したエジプトの陸上風力発電事業のプロジェクトファイナンスです。これは住友商事等が陸上風力発電所を建設・所有・運営し、電力をエジプト送電公社向けに売電するというものです。本件は世界銀行グループの国際金融機関であるIFCと協調融資したという点で、当行にとってエポックメイキングな案件でした。国際金融機関は、送金リスクや為替リスクのある場合には優先的に弁済を受けるなどといった、いわゆるPreferred Creditor Statusという慣行が成立しています。当行はそうしたステータスに劣後するため、国際金融機関との協調融資は理念としては望ましくも、なかなか実現に至ることが少なかったのですが、今般IFCとの長い交渉を経て、お互い譲れるところを協議の上合意できたため、IFCとの協力強化のMOU締結後初めての協調融資が実現したものです。同様に、欧州復興開発銀行(EBRD)とも、現在他の陸上風力発電事業について協働しているところです。エジプトは昨年のCOP27の議長国であり、中東の大国でもあるため、そうした国でこの規模の再生可能エネルギープロジェクトの実現に向けて協力できるのは非常に嬉しいことです。

もうひとつは、先ほども申し上げたプルタミナに対する、再生可能エネルギー等を対象とした融資です。プルタミナは従来石油・ガス事業を本業としてきましたが、今後CCS等を通じた石油・ガス事業の低炭素化や、再生可能エネルギー、水素・アンモニア分野を手掛けていくということで、インドネシアにおける非常に重要なパートナーであるため、MOUを締結の上、融資契約を調印したものです。

(3)昨年の総裁就任の記者会見でも申し上げました通り、昨年当行は水素・アンモニア担当部室として次世代エネルギー戦略室を立ち上げました。従来の組織分掌だと水素・アンモニアの担当が複数の部署にまたがっていましたが、そうした状況で水素・アンモニアのサプライチェーンを構築することは困難であるため、川上から川下まで一気通貫で案件を担当する部室として新設し、世界中の案件を追いかけているところです。

水素・アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないという意味でカーボンフリーな電源ですが、これをどのように安価にかつ炭素排出の少ない形で生成するかということが世界的な課題であり、世界的な競争にもなっています。水素が特に注目されていますが、アンモニアも水素キャリア及びエネルギー源として非常に重要視されています。

この分野はオーストラリア、中東が積極的に促進しているほか、米国もインフレ抑制法の下で水素プロジェクト等への税額控除措置を導入し、この動きに刺激を受けた欧州でも取り組みが加速しており、世界中で案件が動いていますが、今はまだ補助金ベースのプロジェクトばかりで、商業ベースに乗るのは数年後とみられています。当行としては、初期段階からしっかり参画し、プロジェクトが具体化したタイミングで直ちに出融資できるようにすることで、水素・アンモニアの製造・貯蔵・輸送・利活用といった川上から川下に至る一貫したサプライチェーンの構築をサポートしていきたいと考えています。

その一環として、世界最大手の肥料メーカーであり、肥料用アンモニアの取扱量が世界最大のYARAが、燃料用アンモニアのトップランナーを目指し、いくつかの日本企業と提携関係を結んでいることを踏まえ、YARAとの間でMOUを締結しました。また、シンガポールのソブリンウェルスファンドであるTemasekが半分弱の株式を保有する発電事業者SembcorpともMOUを締結しました。Sembcorp自身が水素・アンモニアの重要なプレーヤーとなろうとしていることに加え、シンガポールが水素戦略を策定し、国をあげて水素・アンモニア分野のハブとなるべく取り組んでいることが締結の背景です。シンガポールや韓国は水素・アンモニア分野において今後競争相手になる可能性がありますが、私は競争というよりも、協調的な、いい意味での競争をしながら、アジアに大きな水素・アンモニアのマーケットを作っていくことが大事と考えています。それから、オーストラリアも豊富な石油・ガス資源を用いたブルー水素や、太陽光を用いたグリーン水素のプロジェクトが多数存在していますが、本年1月に西豪州政府との間で、水素・アンモニアに加え、サプライチェーンにおいて重要なクリティカルミネラルも含めた関係強化に係るMOUを締結しました。

国際的なイベントに顔を出して、当行が水素・アンモニア分野を手厚く支援していく旨をアナウンスすることも私の重要な役目です。例えば、昨年3月に当行が出資参画した、現時点では世界最大の水素ファンドであるClean H2 Infra Fundのクロージングイベントがフランスのナショナルライブラリーで開催され、パネルに登壇しました。また、オマーンでもグリーン水素のイベントに登壇しました。サウジアラビアほどに石油・ガスに恵まれていないオマーンは、グリーン水素の開発に熱心であり、グリーン水素のハブとなることを目指しています。

2.ポストコロナ社会における新たな課題への対応 資料:p.8~11

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(1)ポストコロナ社会における新たな課題への対応として、日本政府はスタートアップやイノベーションへの支援を行っています。当行としても日本企業の海外事業展開を対象として、こうした分野を支援しています。そのひとつがJSRによるInpria 社の株式取得に対する融資です。半導体のサプライチェーンが重視されているのは周知の通りです。現在3nmまでの技術はありますが、Beyond 2nmと呼ばれる次世代半導体の製造過程においても日本が最先端を走らなければなりません。特に最先端型の半導体の製造過程において日本企業は遅れていますが、パワー半導体やセンサー等では日本企業が強みを有しているほか、従来型の半導体の製造過程では日本企業が大きなシェアを握っている部分が多くあります。JSRは半導体の製造過程における感光材分野で強みをもっている企業ですが、最先端半導体に必要な新しい技術があるということで、今般融資したものです。

同様に新たな産業向けの支援としては、ソニーグループ子会社向けの融資があります。米国では映像配信サービスを通じて映画やアニメを視聴することが多いことを踏まえ、ソニーグループ子会社が米国のアニメ配信事業運営会社を買収し、当行としてこの買収資金を融資しました。

また、フィンテック分野のスタートアップOPN Holdingsによる米国の決済処理サービス事業会社MerchantEの買収については、当行が共同で出資しました。OPN Holdingsはもともとアジアを中心に決済サービスを提供してきましたが、今後の決済処理サービスで非常に重要な位置を占める米国に進出するべく、MerchantEを買収したものです。

以上に挙げた3つの案件はいずれも買収資金の融資、共同出資を通じて日本企業を支援したものです。得意としてきたドルの長期融資から踏み込んだ支援も取り組んでいます。

(2)当行は毎年海外直接投資アンケートを実施しています。記者発表もしていますが、ウクライナ侵攻やコロナ禍を受けて、日本企業がサプライチェーン上のリスクを強く認識していることが明らかになりました。地政学的リスクとしてロシアのウクライナ侵攻や米中デカップリングがあります。また、新型コロナウイルス感染症、あるいは異常気象による自然災害といったリスクが存在するので、コストはかかるが、重層的なサプライチェーンを作ることが強く認識されています。

具体的な支援事例として、例えばベトナムの工業団地拡張事業に対して融資したほか、中堅・中小企業の海外進出支援にも力を入れており、昨年度は100件を超える融資を行いました。

近年、中堅・中小企業の間では、ベトナムが人気の進出先となっています。中国に拠点を持ってはいるが、ベトナムにも新たに拠点を設けるとか、ベトナムへの投資を拡大するといった動きが見られます。その背景には、中国の人件費が年々上昇し、かなり高いレベルになっていることがあります。もちろんベトナムでも毎年人件費が上昇しているのですが、それでも中国に比べれば低い水準にとどまっています。そのほか、中国企業との競争が激化していることや、中国でも大都市周辺では環境規制がかなり厳しくなっているといった理由からも、日本企業の新たな生産拠点としてベトナムのニーズが高まっています。ただし、日本企業が中国から脱出してベトナムに拠点を移しているようにも聞こえますが、全体的な金額を見ると、中国への直接投資は減ってはいるものの、依然として1兆円程度はあります。これに対してベトナムへの直接投資は増えたとはいえ4,000億円程度です。日本企業にとって中国は製造拠点としても、市場としても非常に重要であることは変わらず、それは米中摩擦下にある米国企業にとっても同様と思っています。もっとも、中国に進出済みの企業は、中国で得た利益を再投資しているケースが多いため、当行に支援の相談にいらっしゃることは少なく、したがって当行の出融資とはあまり関係がない状況となっています。他方で、ベトナムについては企業が新たに拠点を設けたり、あるいは既存の拠点を拡張したりといったニーズが大きいので、当行の目線からすると、ベトナム案件が増えているということになります。

私が非常に重視している中堅・中小企業向け支援事例を2件ご紹介します。1件目はヒロユキです。ヒロユキという会社はマレーシアのジョホールバルにおいて、ペットボトルを回収し、そこからリサイクルペットボトルを作る樹脂を製造・販売する事業を展開しています。日本では8割から9割のペットボトルがリサイクルされていますが、こういった状況は世界中で見られるわけではなく、例えばシンガポールでは、土地が狭く人件費が高いこともあり、全体の5%しかリサイクルされていません。ヒロユキはシンガポールの有名なマリーナベイ・サンズなどのホテルと協力して、ペットボトルを回収・リサイクルし、それを飲料メーカーに販売しているほか、地域の小学校でペットボトル集めのような啓発イベントを開催するなど、地域にも地球にも良い活動を行っている企業であり、そこに対して融資を行ったものです。

2件目は、インドネシアからの技能実習生を受け入れてきた気仙沼の菅原工業が、日本の質の高いリサイクルアスファルトの技術をインドネシアで導入するという事業に融資したものです。インドネシアではアスファルトをもっぱら輸入に頼っており、アスファルトの品質が劣悪です。菅原工業は環境にやさしい事業を行いつつ、技能実習生が働く場所を整え、現地の雇用創出にも貢献しています。

3.多国間・国際機関連携 資料:p.12~13

(1)ウクライナ支援について、現時点では援助資金が必要な段階ですが、自動車産業を中心にウクライナに進出している日本企業は結構あり、今後こうした企業からの資金ニーズに応えていく態勢は整えています。他方、ウクライナ周辺地域では、多くの日本企業が進出しているポーランドに注目しています。ロシアのガスに頼らなければならない中東欧諸国にとっては、再生可能エネルギーの開発やグリッドの強化が大きな課題となっています。こうした分野を支援するため、ポーランドの現地事情に精通している、ポーランド政府100%出資のポーランド開発銀行とMOUを締結し、協力関係を強化しました。

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加えて、EBRDはロシアのウクライナ侵攻前から中東欧で多数のプロジェクトを手掛けており、豊富な経験と企業ネットワークを有しているため、EBRDとの協力も一層強化するべく、MOUを締結しました。

(2)また、日米豪でインド太平洋、特に太平洋島嶼国や東南アジアにおける情報通信やサプライチェーンといった分野について協調を深めるべく、昨年10月に当行、USDFC、豪DFAT及びEFAにてMOUを更新しました。さらに、日米豪でアジアの脱炭素化を支援するため、本年1月には日米豪の4機関が集まり、ベトナムにてVietnam Climate Finance Frameworkを立ち上げ、これからバンカブルなプロジェクトを組成していこうとしているところです。

記者会見等