株式会社国際協力銀行 総裁記者会見
- 日時)2024年2月28日(水曜日)15時00分~16時00分
- 場所)国際協力銀行 本店
- 説明者)総裁 林 信光
- 配布資料)最近の国際協力銀行(JBIC)の取り組み
1.ウクライナ及び周辺国支援の取り組み 資料:P.1~2
(1)本年2月19日に東京で日ウクライナ経済復興推進会議が開催されました。ウクライナ支援疲れの状況とも言われていますが、最近もEU首脳会議で500億ユーロのウクライナ支援が合意される等、引き続きロシアの正当性なき侵攻に対しウクライナへの支援は重要となっています。グローバルな復興支援会議は昨年ロンドンで開催され、本年はベルリンで開催予定ですが、それとは別に日本が個別にこうした会議を実施したことについて、来日したウクライナのシュミハリ首相も歓迎の意を表していました。今回は経団連や多数の企業が参加し、日本ならではの復興に向けた支援がテーマとなりました。
(2)昨年JBICは在ポーランドのウクライナ避難民向けの人道支援を目的とし、ポーランド開発銀行が発行するサムライ債930億円に対して保証を行いました。今回は次の取り組みを表明しました。まず、黒海貿易開発銀行との覚書を締結しました。同銀行はウクライナ等黒海周辺11カ国が加盟しており、ロシアもこれに含まれますが、現在ロシアの発言権は剥奪されています。覚書締結により、ウクライナの復興に資するビジネスを促進するほか、農業、食糧、交通・物流、デジタルインフラ及び医療セクターを含むプロジェクトを支援していくことになります。これにあわせ、JBICから同銀行に対する最大150百万米ドルのツーステップローン供与につき今後協議をしていく予定です。こうした取り組みは、ウクライナの経済復興に貢献するのみならず、対ロシア依存を低減していくという安全保障上の意義があります。また、IFC(国際金融公社)が有するウクライナ・周辺国に関する豊富な知見を活用するべく、同公社とも覚書を締結したほか、ウクライナ復興及び周辺国支援を担当する特命駐在員を設置しました。これまでロンドン、パリ、ドバイの各事務所でそれぞれウクライナ周辺国支援を進めてきましたが、こうした取り組みを集約・強化することが目的です。日本政府全体としてはJICAや世銀グループ等を通じて復旧支援や財政援助等を実施していますが、JBICが得意とする周辺国でのインフラ支援や日本企業の投資支援が効果的に行えるように、各種仕組みを整備しているものです。
2. グローバルサウス向け取り組み 資料:p.3~6
(1)グローバルサウスという言葉が最近いろいろなところで使われるようになりましたが、もともとJBICはグローバルサウスと呼ばれる国々にて多数のプロジェクトを展開してきました。グローバルサウスとは、G20議長国を務めているインドネシア、インド及びブラジルをはじめとして、欧米対中露という構図からは距離をとり、どちらの陣営にも与せず自国利益をしっかり主張していく国々の集合です。もっとも一言にグローバルサウスといっても各国の事情はそれぞれに異なり、日本政府やJBICは国ごとに必要とする支援を行っています。ポイントは次の3点です。1点目は、日本企業の技術を活用したプロジェクトの形成によりホスト国の社会課題を解決することです。脱炭素や省エネ、よりグリーンなサプライチェーンの強靱化、DXといった分野が想定されます。2点目は、ホスト国の主要プレーヤーである国営企業や地場の金融機関・有力企業と日本企業の橋渡しを行い、共同でプロジェクトを実施していくことです。JBICとしては日本企業や、日本企業が参画する事業にファイナンスする方がリスクの取り方として望ましいのですが、現地のリスクを直接取りに行くことにより、JBICとして一歩踏み込んだ対応をとっていきます。3点目は、国際機関や米豪のような同志国の開発金融機関、地場公的金融機関と連携することで、リスクコントロールを強化することです。
(2)伝統的に注力しているのはインドネシアやベトナム等であり、こうした国については引き続き取り組みを強化していきます。他方、従来石油を軸とした付き合いを続けてきたUAEやサウジアラビアといった国は、グリーン分野のチャンピオンになるべく、廃棄物処理や海底送電線といった脱炭素関連のプロジェクトに相当な速度で投資しており、それに対し日本企業と共同で関与していこうとしています。また、アジア太平洋ではパラオの海底ケーブル案件を米豪と共同で支援したほか、ベトナムではJBICが主導し米豪を巻き込む形で脱炭素に向けた案件組成を進めています。南米では、ブラジルについてはこれまで鉄鉱石の輸入につながる金融支援を多く行ってきましたが、最近ではペレットフィードに代表される、より脱炭素色の強いサプライチェーンの構築に対する支援を推進しています。また、チリについては、銅鉱山開発に長らくファイナンスしてきましたが、よりグリーンな銅の開発に向けた支援を強化しています。
(3)インド向けの取り組みとしては、良好な日印関係の追い風も受け、日印ファンドを立ち上げました。インドは今後も成長を続ける市場で日本企業の関心も高まっていますが、すでにCO2排出量は世界第3位であり、経済発展に伴い廃棄物や水質汚濁等のさまざまな社会問題が発生しています。こうしたインドの環境問題に着目し、環境保全分野や日印両国企業間の協業分野につき支援していくことを目的としており、すでに第1号の投資も行われました。インドの国営ファンドであるNational Investment and Infrastructure Fund(NIIF)は、これまで中東のソブリンウェルスファンドや先進国の年金基金と共同でファンドを設立し、インド国内に投資してきたのですが、今回の日印ファンドはNIIFにとって初の二者間でのファンド設立となりました。
(4)トルコについては、国営の政策開発金融機関であるトルコ開発投資銀行及びトルコ産業開発銀行向けにクレジットラインを設けました。トルコ開発投資銀行向けについては、同国が中東に位置し欧州にも近接していることから、今後一層の経済発展が見込まれつつも、同時に欧州向け製造拠点として脱炭素の取り組みが求められる中で、省エネ技術を活用してもらうべく設定したものです。また、トルコ産業開発銀行向けについては、特に昨年同国で発生した大地震からの復興に資するような、がれきのリサイクル等の環境保全に寄与する事業を支援するものです。トルコはJBICとして大きなエクスポージャーを抱えており、過去にはサムライ債の発行支援等も行いました。日本にとってトルコは、中央アジアやアフリカへの進出の足掛かりとして、トルコ企業との協働が重要であることから重視すべき国の1つですが、エルドアン政権下で独特な経済政策がとられたことで、激しいインフレとトルコリラの下落に見舞われ、なかなか投資が難しい状況が続いてきました。他方、トルコリラ安は同国の輸出競争力を向上させるため、主に欧州向けの輸出産業は好調であり、そうした中で欧州の環境規制に適合できるよう、同国産業の脱炭素化を支援したというものです。なお、内閣改造後の現在のエルドアン政権では、オーソドックスな政策を通じ、今後トルコのマクロ経済環境が安定化することを強く期待しています。
3.サステナビリティの取り組み 資料:p.7~10
(1)サステナビリティの取り組みとして最近の事例をご紹介します。1件目は台湾の着床式洋上風力発電プロジェクトへの支援です。地理的にも半導体サプライチェーン上も非常に重要な位置を占めており、民主主義も根付いている台湾において、JBICとしてアジア初となる風力発電案件が実現したことは画期的なことと考えています。台湾も2050年までのカーボンニュートラルを掲げているものの、電力供給の8割程度を火力発電に依存しており、再生可能エネルギーの拡大を推進しています。こうした中で三井物産が参画する形で本プロジェクトが組成されました。電力は台湾電力のほか、地場の半導体関連企業に売電されることになります。また、ファイナンスは日本のみならず、豪州、カナダ、英国、ベルギー、ノルウェーといった同志国の開発金融機関が一体となって供与しましたが、これほどの規模の連携はなかなかありません。
(2)2件目は洋上風力発電の活発な英国における海底送電線プロジェクトへの支援です。既設の洋上風力発電所の電力を本島に送電するプロジェクトであり、東電パワーグリッドが参画しました。こうした洋上風力発電所からの送電は今後日本でも展開されていくことになりますが、日本の商社、あるいはユーティリティ各社としては、先行する欧州で経験を積むことで、将来的に日本やアジアでノウハウを活用しようとしており、これをJBICとして支援したものです。
(3)サステナビリティに関しては、岸田首相の提唱したアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想にも基づき、日本政府と連携しつつ、アジア各国との間で日本企業の技術を踏まえたソリューションを提供し、脱炭素に向けた課題解決につなげていく取り組みを進めています。ベトナムについては昨年7月にワーキングチームを発足させ、3つの分科会を立ち上げました。インドネシアについてもタスクフォースを昨年設置しました。他方、フィリピンについては、インフラはODAに頼る一方、電力市場は自由化されており、電力部門の主要プレーヤーである現地財閥と日本企業が協業するプロジェクトを支援していきます。
(4)具体的な取り組みは次の通りです。ベトナムについては国営商業銀行Vietcombankに対しクレジットラインを設定し、陸上風力発電をはじめとする再生可能エネルギー事業を支援していこうとしています。また、米豪の政府機関と連携し、ベトナムの再生可能エネルギーや関連する送変電設備等のインフラ整備を支援しています。インドネシアについては、国営石油会社プルタミナの実施する再生可能エネルギー事業を対象に融資しました。融資金額は30百万米ドルと大きくはないものの、インドネシアやマレーシア、中東各国等は国営石油会社が主体となって脱炭素の取り組みを進めているところ、意義のある案件です。
4.サプライチェーン強靱化・M&A支援 資料:p.11~13
(1)サプライチェーン強靱化・M&A支援に関する最近の事例を紹介します。1件目は日本シイエムケイがタイでプリント配線板の製造工場を増設するための資金の融資です。同社は自動車のEV化や先進運転システム等、新しい時代に即した事業を行っているほか、環境負荷を軽減するための投資を進めています。2件目はカワサキモータースがメキシコで実施するレジャー用・農業用のオフロード四輪車の生産設備の増設に対する融資です。サプライチェーン強靱化に加え、塗装工程の省エネ化による脱炭素にも貢献しています。
(2)3件目はNRSが米国で実施する半導体等の製造に必要な化学品等の輸送・保管事業に対する融資です。半導体の製造に使用する化学品には毒性や引火性、腐食性等があるため、特殊な輸送・保管施設が必要です。アリゾナ州ではTSMCが工場を建設しており、半導体のサプライチェーンが形成されていく見込みです。こうしたところで日本企業が重要なサプライチェーン上の役割を果たしていくものです。4件目は、フジックスの電気部品の製造・販売事業に対する融資です。EVを含む自動車や半導体の産業用ロボット向けの製品を製造している企業であり、ベトナムへの新規進出を支援しました。同社の海外拠点はもともと中国国内の3カ所のみでしたが、中国にのみ拠点を構えることによるサプライチェーン上の地政学リスクや、中国の人件費が高騰していることを背景に、今般ベトナムに新規拠点を設置し、サプライチェーンの強靱化を図ったものです。
(3)5、6件目は比較的新しい分野であるウェルビーイングに関わる取り組みです。1つはアステラス製薬の子会社による米国企業の買収の支援です。製薬企業は大規模な投資により次世代の稼ぎ頭を見出していく必要があるとともに、巨額のM&Aを通して事業拡大を模索します。今回はアステラスが眼科領域に特化した治療薬を研究・開発する企業を買収することにより、新たな収益源の確保を図ったものです。もう1つは最近ヘルスサイエンスに注力しているキリンが、プラズマ乳酸菌等の海外展開を拡大させるべく豪州企業を買収し、これを支援しました。