株式会社国際協力銀行 総裁記者会見
- 日時)2024年6月27日(木曜日)15時00分~16時00分
- 場所)国際協力銀行 本店
- 説明者)総裁 林 信光
- 配布資料)第5期中期経営計画(2024~2026年度)記者会見資料
1.第5期中期経営計画(2024~2026年度)概要 資料:P.2~4
(1)第4期中期経営計画の期間では、業務分野で4つ、組織分野で2つの重点取組課題をそれぞれ設定し、結果として、累計約6兆円の出融資保証承諾を行いました。業務分野の実績は後述しますが、組織分野についてはJBIC法の改正を国会で認めていただき、これに基づく取り組みを進めてきたほか、サステナビリティの関連で組織体制の整備や開示の充実化を行いました。また、効率的な組織運営の実現に向け、働き方改革やペーパーレス化をはじめとする業務プロセスの改善を進めました。
(2)(第4期中期経営計画を策定した)3年前と比べて大きく変わったのは、外部環境であると考えています。3年前はコロナ禍からいかに世界経済を元の状態に戻すかということが課題でした。しかし、その後ロシアによるウクライナ侵攻を発端として、国際環境が大きく変容し、西側先進諸国と専制主義国家の対立構造が深刻化したことに加え、そのどちらの陣営にも与しないグローバルサウスの存在感が増大し、サプライチェーンやエネルギー・食料の安全保障が難しくなっていきました。他方、革新的な技術の開発・実装も進んでいきました。そして、わが国では人口減少を踏まえた構造的変化を経験しました。そうした中で、今回の第5期中期経営計画においては、第1に地球規模の課題、第2に日本経済・日本企業の課題、第3にそれらも包含したJBICの施策上の課題、そして第4にJBICの組織上の課題を挙げました。
(3)JBICは我が国企業の対外投資・対外貿易を支える日本の政策金融機関のため、我が国産業の強靱化と創造的変革の支援、エネルギー安全保障や戦略的なバリューチェーンの強靱化、先端産業や革新的技術への支援、さらには中堅・中小企業の海外展開支援がターゲットになります。他方、そういった我が国企業の活動が持続可能な未来の実現や地球規模課題の解決に貢献しなければ、我が国経済・産業も発展できません。そうした観点から、カーボンニュートラルと経済発展の統合的実現やさまざまな社会課題の解決に貢献するような、サステナビリティに関連したプロジェクトを進めるとともに、我々自身がサステナビリティについて責任をもった経営を行っていきます。また、こうしたテーマに取り組んでいくためには、日本で唯一の国際的な役割を負う政策金融機関として、独自の情報分析等を通じてソリューションを提供し、戦略的な観点から国際金融機能を発揮します。それによって我が国の対外経済政策に、プロジェクトを通じて貢献していきます。最後に、以上のような施策を実施するためには組織基盤を強化しなければなりません。人手不足の中でも技術を活用し業務を効率化しつつ、職員のエンゲージメントの高い組織を作っていく必要があります。
2.5期中計:重点取組課題Ⅰ 持続可能な未来の実現 資料:p.5~6
(1)p.5には、重点取組課題Ⅰ「持続可能な未来の実現」に関する4期中計期間の取組事例を示しています。例えば、カーボンニュートラル実現に資する案件としては、環境先進地域であるフランスなどヨーロッパにおいて、さまざまな洋上風力や電力ネットワーク強化のプロジェクトを実施してきました。アフリカでは大型風力発電とともに、オフグリッドのエネルギーの供給も支援しました。台湾では、ヨーロッパでの経験も活かし、アジアでJBIC初となる洋上風力発電へのプロジェクトファイナンスを実現しました。インドネシアやメキシコについては、海洋問題や貧困地域の社会課題の解決のためのサムライ債の一部取得を行ったほか、ウズベキスタンでは通信インフラの整備を支援しました。また、カナダではEスクラップ(電気・電子廃棄物)の再利用のための企業の株式取得に係る融資を実施しました。鉱業は水や電気を大量に消費する産業であるため、少しでも都市鉱山を活用してリサイクルを促進することが、地球環境の改善につながります。こういった取り組みを、5期中計期間では一層推進していきます。
(2)重点取組課題Ⅰ「持続可能な未来の実現」に関連した具体的な案件例として、三井物産がアラブ首長国連邦において、同国のアブダビ国営石油会社(ADNOC)及び韓国企業とともに実施するアンモニアの製造・販売事業への融資があります。世界に先駆けて水素基本戦略を策定した日本は、水素・アンモニアについて、2050年カーボンニュートラルに向け不可欠なエネルギー源と位置付けてきましたが、コストが高く、安定的なオフテイカーも見つからないために、世界中に潜在的なプロジェクトが数多くありつつも、なかなか事業化には至ってきませんでした。そうした中で、世界に先駆けて水素・アンモニアのサプライチェーンの構築に挑戦する日本企業の取り組みをサポートしたものです。三井物産及び関連会社はすでにアンモニアについて化学肥料原料としての取扱実績があり、それに基づいてこうした事業に取り組むことができました。将来的にはよりクリーンなアンモニアを活用することによって脱炭素に貢献していく想定です。2022年7月に次世代エネルギー戦略室を立ち上げて以来、苦節2年でようやく初の案件が実現しました。
3.5期中計:重点取組課題Ⅱ 我が国産業の強靱化と創造的変革の支援 資料:p.7~8
(1)重点取組課題Ⅱは、いわゆるエネルギー安全保障である、LNGや鉱物資源等の確保を中心とした経済安全保障から、革新的なスタートアップや世界に飛躍する中堅・中小企業の海外展開支援までを含み、こうした取り組みにより我が国産業の足腰を強化し、将来に向けての変革に貢献するというものです。経済安全保障については、昨年のJBIC法改正により、日本企業のみならず、サプライチェーン上にある外国法人も含めて支援が可能となりました。特に半導体、EV、蓄電池の分野では、米中対立に巻き込まれている等センシティブな状況にもあり、こうした分野への支援を多面化することで、我が国の経済安全保障に貢献します。スタートアップについては、北欧・バルト地域及び中東欧地域においてスタートアップに投資するファンドを運営してきました。これは現地のサステナビリティやファクトリーオートメーションといったGX及びDXに優れた企業に日本企業と共同投資することで、日本企業のGXやDXを後押しする狙いによるものです。こうした投資の経験を通じ、ノウハウの蓄積や人材育成に成功したため、5期中計期間では、国内のスタートアップの海外展開を直接的に支援していきます。
(2)重点取組課題Ⅱ「我が国産業の強靱化と創造的変革の支援」に関連した具体的な案件例として、ブラジルの資源大手Vale社向けの融資により、日本の鉄鋼メーカーが海外で行う製鉄事業向けの製鉄原料を同社が供給することを支援しました。昨年のJBIC法改正により、海外での資源の引き取りも「輸入金融」の対象に加わりましたが、本件はこの新たな規定の下実現した第1号案件となりました。また、この案件では、日本企業が調達する鉄鋼原料は将来的に大型電炉や水素直接還元鉄など環境負荷の小さい製鉄プロセスで不可欠となるものであり、資源確保を通じた経済安全保障のみならず、脱炭素にもつながるものでした。
4.5期中計:重点取組課題Ⅲ 戦略的な国際金融機能の発揮による独自のソリューション提供 資料:p.9~10
(1)戦略的な国際金融機能を発揮することで、対外経済政策の実現を後押ししていきます。これまでの事例としては、例えば、ポーランド開発銀行(BGK)がウクライナからの避難民の支援を目的として発行するサムライ債に保証を供与することで、日本政府が取り組むウクライナ支援の一翼を担いました。また、インドでの取り組みにも注力しています。日印関係は政治的・文化的には強化されつつありますが、経済的関係は今後大いに発展の余地があります。インドへの日本企業の関心の高まりも受けて、インドとの共同投資の形をとる日印ファンドを立ち上げました。これにより、インドの環境問題の解決とともに日本企業の進出をサポートします。このほか、インドの国営企業が環境負荷の小さい設備等を導入するための資金をGREENの下で融資したほか、同国に進出する日系自動車・建機・農機メーカーのサプライチェーンを、インドの地場金融機関経由で支援しました。また、世界中でデータセンターの需要も高まる中、NTTがインドで実施するデータセンター事業も支援しました。このように、日印間の投資を活発化させるという政府の対外経済政策を実現するようなことを推進しています。
(2)重点取組課題Ⅲ「戦略的な国際金融機能の発揮による独自のソリューション提供」の具体的な案件事例としては、カナダEavor社のクローズドループ地熱利用技術を用いて中部電力が参画する、ドイツでの地熱発電プロジェクトがあります。地熱発電はクリーンで日本企業も技術面で強みを有していますが、掘削後に地下から熱水や蒸気が安定的に得られるかは不確実性が高いことが長らく課題でした。この新技術では、クローズドループ内に水を循環させることで効率的に熱を取り出すことができ、本プロジェクトで初めて商用化されます。民間金融機関では未商用化技術にはなかなか融資できませんが、JBICが先導して「特別業務」の適用によって技術リスクをとりました。また、欧州イノベーション基金からの補助金が入りつつ、欧州投資銀行との協調融資により実施するものです。こうしたリスクの深掘りを通じて、新たな技術の日本及び海外での展開を支援していきます。
5.5期中計:重点取組課題Ⅳ 価値創造に向けた組織基盤の強化・改革 資料:p.11
役職員が能力を最大限発揮できるよう、DXによる業務の効率化や、人を基本に置いた人材戦略の策定、エンゲージメントの高い組織づくりといったことに努めていきます。
6.4期中計の実績例 資料:p.12~16
(1)過去にも英国の洋上風力発電関連プロジェクトや英独間の高圧直流送電線プロジェクトを支援してきましたが、フランスでも初めて住友商事の参画する洋上風力発電プロジェクトを支援しました。日本の商社やユーティリティが環境先進国であるヨーロッパ諸国でノウハウを蓄積し、これを日本やアジア各国で展開することを期待しています。
(2)米国ではCHIPS法等もあり、今後半導体製造業による大型投資が期待されています。そうした中で、NRSが手掛ける半導体等の製造過程で必要な化学品等の輸送・保管事業の需要拡大が見込まれており、同社に対して設備投資に必要な資金を融資しました。従来のJBIC法の枠組みでは基本的に海外の子会社等に融資することになっていましたが、法律改正を経て国内の親会社経由で融資ができるようになりました。本案件がその第1号であり、日本企業も含めた半導体サプライチェーンの強靱化に貢献するものです。
(3)三井物産が台湾で実施する洋上風力プロジェクトも支援しました。台湾は地理的に重要な場所にあり、独自に民主主義を発展させてきた歴史を持ち、産業のサプライチェーン上も非常に重要な位置を占めています。他方、電源の太宗が火力発電であるため、これをどのように再生可能エネルギーに転換していくのかということが課題でした。そうした中、三井物産がスポンサーとして参画して、洋上風力発電が実現しました。本案件で特徴的なことは、融資のみならず、三井物産と共同で出資をしているほか、プロジェクトファイナンスにおいては台湾ドル建ての保証も供与したことです。また、ヨーロッパや豪州等の6カ国計7つの開発金融機関・輸出信用機関が足並みをそろえて協調したことも特徴です。このような形で国際機関を取りまとめる力や、他機関との間で学びあう姿勢は今後も重要と考えています。
(4)電化率の低いベナンにおいて、オフグリッドの太陽光発電の建設、及び小学校における太陽光パネルの設置とそこからランタンを充電するシステムの導入を支援しました。
(5)アフリカや島国といった途上国・地域においては、コスト面から上下水道の整備が進んでいませんが、WOTAのポータブル水再生システムを持ち込むことで、簡単に分散型の水循環システムを構築し、水不足や衛生状態を改善することができます。WOTAがアンティグア・バーブーダにて小規模分散型水循環システムを展開するにあたり、システムが適正に使われるためには、現地政府の関与が必要であったことから、JBICが同国の環境省や住宅公社と協議することで、安定的な事業環境を整えました。