株式会社国際協力銀行 総裁記者会見


- 日時)2025年2月28日(金曜日)15時00分~16時00分
- 場所)国際協力銀行 本店
- 説明者)総裁 林 信光
- 配布資料)最近の国際協力銀行(JBIC)の取り組み
1.第5期中期経営計画の概要 資料:P.1~2
本年に入ってからも国際情勢に様々な変化が生じておりますが、JBICとしてやるべきことは変わらないと考えています。昨年6月に発表した第5期中期経営計画において、JBICの重点取組課題として、第一に「持続可能な未来の実現」、第二に「我が国産業の強靭化と創造的変革の支援」を掲げており、それらを実現するために「戦略的な国際金融機能の発揮による独自のソリューション提供」を行うこと、加えてその基盤となるものとして「価値創造に向けた組織基盤の強化・改革」を掲げております。本計画では、“Valuable Future”を皆様と作り上げていくために、JBICとしても先導的な役割を果たすことをこれまで重視してまいりました。
2.重点取組課題Ⅰ 持続可能な未来の実現 資料:p.3
- 脱炭素化・カーボンニュートラルを目指したプロジェクトに対し金融面からの支援を行いました。2024年10月にはケニアにおける地熱発電所建設事業向けに東部南部アフリカ貿易開発銀行を通じて融資しています。地熱発電は再生可能エネルギーの中でも日本が最も競争力がある分野である一方で、リスクが付随し適地も限定されるため、これまであまり開発が進んできたわけではありませんが、今後は例えばインドネシアや東アフリカにおける開発への支援を増やしていきたいと考えております。
- アフリカについては、エジプトやモロッコにおける風力発電事業を支援してまいりましたが、これまでJBICのサブサハラ地域向け支援実績は限られ、ケニアとの付き合いもあまりございませんでした。かかる国においても日本企業の活動への支援が可能となるようファイナンスを手当する必要があると考え、約5年前にJBICは東部南部アフリカ貿易開発銀行とクレジットライン設定に係る業務協力協定を締結し、案件の実現を目指してまいりました。そしてこのたび初めての業務協力事例として、ケニアにおける地熱発電所建設事業向け融資が実現したものとなります。
- そのほかにもJBICとしていくつかの地域開発金融機関と業務協力協定を締結し、JBICが直接のファイナンスが難しい国においても、かかる金融機関を経由する、または国際機関と協調することを通じて、支援地域の幅を広げていこうと考えております。ケニアの地熱発電事業では、豊田通商グループが設計・調達・建設を一括して請け負い、同じく本邦企業である富士電機が機器サプライヤーとして参画しています。豊田通商グループはアフリカの多くの国で企業活動を進めており、アフリカ進出のいわばプラットフォームとしての役割を果たしています。本年はTICADが6年振りに日本で開催される年であり、万博ではアフリカ諸国の政府関係者が多数来日されることが予定されている中、かかる機会も念頭に置きつつ、JBICはアフリカにおけるプロジェクトをできる限り進めていく所存です。
- UAEにおけるアブダビ国営石油会社(ADNOC)向けクレジットラインの設定につきましては、石油大国である中近東の各国が潤沢なオイルマネーを元手にグリーントランジションを大規模に進めていることが背景にあり、非常に興味深く思っております。ADNOCとはこれまで石油の輸入に係るファイナンスを主体に長年お付き合いをしてきましたが、現在はADNOCから脱炭素やエネルギートランジションに関してJBICのファイナンスや日本企業の参画への期待があり、ADNOCとの協業機会を今後も増やすべく、クレジットラインの設定を行いました。具体的なプロジェクトが先にあって、JBICがそこにファイナンスを行うケースもございますが、クレジットラインの設定をJBICがまず行うことによって、日本企業の進出を促す取り組みも行っております。
- エジプトにおける風力発電事業向けプロジェクトファイナンスにつきましては、過去にあったプロジェクトを拡大するものになりますが、再生可能エネルギーの発電容量の増強に寄与する内容となっております。
3.重点取組課題Ⅱ 我が国産業の強靱化と創造的変革の支援 資料:p.4~9
(1) サプライチェーン強靱化:通信分野
- サプライチェーン強靱化支援の重要な対象分野として、JBICは通信分野を挙げております。データセンターは世界中で投資が進んでおりますが、特に進んでいるアメリカでは、巨大IT企業を中心に、今後もデータセンター向け投資およびそのための電力需要の増加が見込まれています。しかしながら、アメリカにおけるデータセンター事業への日本企業の参入は不十分であるのが現状です。データセンターに対する投資は大規模なインフラ投資であるため、多くの企業がサプライチェーンに参画しているものの、日本企業が競争力を有する分野においても進出が進んでいないため、日本企業の進出を支援していきたいと考えております。
- 2024年12月のドイツにおけるUnited Internet AG向け融資は、日本企業向け融資ではなく、日本企業の海外事業に必要な基盤を支える外国法人に対する融資を行った事例となりまして、一昨年のJBIC法改正によって支援可能となった融資事例であります。ご存じのとおり、情報通信分野は寡占化が非常に進んでいる中、日本の通信事業者はOpen RAN形式で様々な企業の技術やサプライを組み合わせてネットワーク基盤を構成することを提案しているものの、参入障壁が高いという課題がございました。かかる中、欧州で初めて完全仮想化ネットワーク基盤を構築する会社にJBICが融資することを通じて、ドイツにおける日本企業の進出を可能としたものになり、JBIC法改正の内容を着実に実行に移せたという意味で大変意義深いプロジェクトです。
(2) サプライチェーン強靱化:半導体分野
- 日本企業が海外において半導体のサプライチェーンの中で存在感を示していくことを支援した事例として、半導体分野において大きな存在である日本企業のルネサスの事業範囲を更に広げるべく、半導体等を搭載するプリント基板やソフトウェアの設計・開発・販売を行う会社の買収に関しJBICからファイナンス支援を行いました。
- また、高い技術力を背景に半導体製造装置の部品等の製造・販売事業において高いシェアを誇るアドバンテックに対し、ベトナムでの事業に向けた融資を行っておりますが、ASEAN地域やインドにて半導体のサプライチェーンが拡大する中、重要な支援であると考えております。
(3) サプライチェーン強靱化:資源・脱炭素分野
- 銅は脱炭素の文脈において電気自動車や再生可能エネルギーの設備においても欠かせない金属であり、安定した需要があります。日鉄鉱業によるチリのアルケロス銅鉱山開発に対して支援を行っておりますが、日本は銅精鉱に関しては輸入に100%頼っており、日本にとって重要な資源の確保を企図したものとなります。
- 脱炭素への貢献が期待される電気自動車のサプライチェーンにおいて重視されている、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の開発を得意とする三菱ケミカルに対して、イタリアにおける製造・販売事業へファイナンスを供与し、サプライチェーンにおける日本企業のプレゼンス強化を支援した実績もございます。
(4) スタートアップ・産業変革
- 今後JBICとして力を入れていきたいスタートアップ投資体制強化についてです。日本におけるスタートアップ企業が企業価値を高め、海外展開を開始していく時期において資金提供者が限られる点に我々として着目しており、日本のスタートアップ企業の成長・海外展開を支援していくことを目的とした投資戦略を策定し、現在、具体的な投資先を選定しているところです。JBICとしてこれまでも北欧バルト地域および中東欧地域のスタートアップに投資を行うファンドへの支援実績があります。これらの経験を今後の日本のスタートアップの支援の展開にも生かしていきたいと考えております。
- 革新的技術・分野における取り組みとして、医薬品業界が最も発展しているアメリカにおいて味の素による米国法人の買収に対する支援を通じて、味の素による新たな治療薬の製造方法の開発をサポートしました。またインドネシアにおいてはドローンを活用したサービスを提供するスタートアップ企業であるTerra Droneに対し、ドローンを通じた画像解析等による最適な農園管理を実現し、児童労働の人権問題の解消および肥料の過剰使用削減といった効果が期待されるインドネシアでの農園管理支援事業の買収を支援しました。
4.重点取組課題Ⅲ 戦略的な国際金融機能の発揮による独自のソリューション提供 資料:p.10~14
(1) アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)に関連した取り組み
- JBICは、AZECの枠組みの中で、インドネシアやベトナムをはじめとした各国政府と課題を特定し、日本企業の技術等を活用した個別のプロジェクトを実現し、課題解決を加速するための対話を継続しております。具体的な案件としては、ベトナムにおける再生可能エネルギーの拡大に不可欠な送電網整備向けの支援、およびインドネシアにおける日本企業が強みを持つ地熱発電事業向けの支援が実現しています。
(2) ウクライナ復興・周辺国支援に関連した取り組み
- JBICは、黒海貿易開発銀行向けクレジットラインを設定しました。また、ルーマニアをはじめとした東欧各国はガスからの脱却および脱炭素推進のための原子力発電の活用に高い関心を持っています。かかる地域の資金調達をサポートすることによって、原子力の分野での日本企業の進出を支援していくことを念頭に、ルーマニア政府が発行するグリーンボンドの一部取得を行いました。
(3) インド向けの取り組み
- インドは、2023年のG20議長国を務めるなど世界の中で存在感を高め、日本企業からの関心も非常に高い国です。JBICは同国の掲げる2070年カーボンニュートラル達成目標に向けて、インドの政府系金融機関に対し再生可能エネルギー事業等向けのクレジットラインを設定しました。加えて、インドにおける鉄道コンテナ輸送事業向けの融資を通じ、同国が抱える物流網の効率化、道路輸送から貨物鉄道輸送へのシフト、その過程でのGHG排出量の削減に貢献しております。
(4) 中央アジア・コーカサス地域向け取り組み
- 人口が大変多いこの地域は今後ますます産業が発展していくことが予見される一方、日本企業にとってはまだ馴染みのない地域であるため、JBICとして先入りし各国の政府省庁との間でしっかりとしたパイプを作った上で日本企業を呼び込んでいきたいと考えております。
(5) 地域金融機関の海外事業モニタリング支援
- 地域金融機関に対しJBICが有するネットワークや現地モニタリング情報等を連携・提供することを通じて、地域金融機関による海外向け融資が実現しやすくなる枠組みを構築することで、中堅・中小企業の海外展開を支援しております。