株式会社国際協力銀行 総裁記者会見
- 日時)2023年7月13日 14時30分~15時30分
- 場所)国際協力銀行 本店
- 説明者)総裁 林 信光
- 配布資料)最近の国際協力銀行(JBIC)の取り組み
1.ウクライナ・周辺国支援 資料:P.1~2
(1)ウクライナ・周辺国支援は世界的な課題となっていますが、本年は特に日本がG7議長国であるため、日本政府としてどのようにウクライナ・周辺国支援に取り組んでいくかということが課題でした。ウクライナで戦争が継続する状況下で、JBICのファイナンスによってウクライナ及び周辺国での民間企業の活動を支援する機会が限られる中、どのようにしてG7議長国としてふさわしい貢献をするかということが難題でした。そうした中で我々が立ち上げたのが「ウクライナ投資プラットフォーム」であり、欧州復興開発銀行(以下「EBRD」)やG7諸国の開発金融機関等の各参加機関とともに、支援が重複しないよう調整しつつ相互に知見を共有することを目的としています。
そもそもウクライナは戦争前から腐敗が蔓延しており、ガバナンスに問題があったので、日本企業による事業の実施には大きな困難が伴っていました。他方、ヨーロッパ各国は以前からウクライナ及び周辺国で活動する企業が多く、EBRDやG7各国の開発金融機関にはウクライナ及び周辺国での事業活動支援に関するノウハウが蓄積していることから、これらの機関との連携を図ったものです。G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議のタイミングにあわせ、5月12日にJBIC本店において他機関と「ウクライナ投資プラットフォーム」の立ち上げに合意しました。これはG7広島サミットの首脳声明でも歓迎されました。
さらに、6月に英国政府とウクライナ政府が「ウクライナ復興会議」を共催し、林外務大臣が日本代表として参加しましたが、その際にEBRD及びG7各国の開発金融機関のみならず、G7以外の欧州諸国の開発金融機関も加わる形で、「ウクライナ投資プラットフォーム」の立ち上げに係るMOUに署名しました。署名式にはスビリデンコ・ウクライナ第1副首相兼経済大臣にも出席いただきました。
従来、こうした取り組みはEBRDのような国際金融機関や欧州開発金融機関協会(EDFI)といったような欧州の開発金融機関が主導することが通例であり、JBICのような機関が音頭をとることは未だかつてありませんでしたが、本年日本がG7議長国を務めるという責任に鑑みて、JBIC主導によるプラットフォーム立ち上げとなりました。
ウクライナ復興会議には私も参加しまして、パネルディスカッションにスビリデンコ・ウクライナ第1副首相兼経済大臣とともに登壇したほか、日本政府が主催した日本企業とウクライナ企業間の官民ラウンドテーブルでもスピーチを行い、両国の企業間の連携をJBICとして支援していく旨を話しました。このような国際的な場で私が力点を置いていることは、日本がいかに埋もれずに存在感を発揮するかということです。
(2)一方、プラットフォームという形ばかりではなく、実際に日本の貢献が目に見えるように、ポーランド開発銀行の発行するサムライ債をJBICが保証するというトランザクションをG7広島サミットに間に合う形で実施しました。ポーランド開発銀行は、ポーランド及び周辺国のプロジェクトにファイナンスを行っている国営銀行です。前回の記者会見でご紹介しましたが、昨年秋にJBICは同行との間で、ポーランド及び周辺国におけるインフラ整備やエネルギー開発等の支援で連携する旨のMOUを締結しました。当初はポーランド開発銀行が、バルト海・アドリア海・黒海を結ぶインフラや通信等の連結性を高めるという三海域イニシアティブ(Three Seas Initiative)下での壮大なプロジェクトを色々と検討しており、なかなかすぐに具体的なファイナンスに結び付きそうにありませんでした。しかしながら、ポーランド開発銀行との間で密接な議論を重ねていく中で、このサムライ債発行支援のニーズを汲み取ることができました。
ポーランドはヨーロッパで最多のウクライナ避難民を受け入れています。その数はヨーロッパ全域でのウクライナ避難民全500万人のうち150万人程度であり、これはポーランドの人口の約4%に上ります。こうした避難民向けに教育や社会保障を提供するため、ポーランドは「ウクライナ支援基金(Aid Fund)」を立ち上げました。当該基金の資金調達を担っているのがポーランド開発銀行であり、今般資金調達の一環として同行初となるサムライ債の発行が検討され、JBICが保証を供与することで債券発行を支援することになったものです。これまでJBICはサムライ債発行支援ファシリティに基づき、メキシコやインドネシア等のサムライ債の発行を支援してきましたが、今回はポーランドの資金調達に貢献しつつウクライナの支援にもつながる案件となりました。
本件は鈴木財務大臣がG7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議の際に発表したJBICによる10億ドル規模のウクライナ周辺国支援策の一環であり、またG7広島サミットでの日ウクライナ首脳会談において岸田総理に言及いただき、ゼレンスキー大統領より謝意が伝えられたということで、ウクライナ支援について一定の役割を果たせたと考えております。
2.株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律 資料:p.3
先日の通常国会にて、株式会社国際協力銀行法が改正されました。我々は政策金融機関ですので、対象となる案件やファイナンス等が法律で規定されています。したがい、新しい事業を実施する場合には、法律を改正したり、政令に委任されている部分については政令を改正したりといった手続きが必要になります。
今回の法改正の1本目の柱は、国際情勢の変化を踏まえたサプライチェーン強靱化の支援強化です。具体的には、日本のサプライチェーンや産業基盤において外国企業が重要な役割を果たしている場合、例えば外国企業が日本企業に原材料を供給する、日本企業の製品のオフテーカーであるなどの場合に、そうした外国企業も含めてサプライチェーンを全体として支援することや、日本企業が海外で資源を調達して製品を製造・販売する場合にも輸入金融を用いた支援をすること、さらには日本企業が海外で実施する事業に対して国内経由で融資することが、新たに可能になりました。
2本目の柱は、新たな成長分野におけるスタートアップを含む日本企業によるリスクテイクの後押しです。ひとつは、海外事業を行うスタートアップ企業や中堅・中小企業への出資や社債の取得等が可能になりました。それからもうひとつは特別業務勘定の対象を拡大しました。もともとリスクを深堀するために一般業務勘定とは別に特別業務勘定を設けていましたが、これまでは専らインフラ事業を対象としていました。特別業務勘定を設置した当時は、安倍政権下でインフラ輸出が重視されており、インフラ案件におけるライダーシップリスクやカントリーリスクをとることが主眼でしたが、実際のところ日本企業の事業分野やリスクテイクの必要な場面はインフラに限定されないため、資源開発や新技術・ビジネスモデルの事業化、さらにスタートアップ企業への出資等を特別業務勘定の対象に追加しました。
3本目の柱は、国際金融機関によるウクライナ向け融資に対する保証の供与です。国際金融機関がウクライナで企業の活動を支援する際、JBICによる保証が伴うことで、より積極的に融資が実施できるようになります。ウクライナ政府の活動については日本政府が直接的に、あるいは世界銀行を通じて間接的に支援していくことになりますが、企業の活動に関してはEBRDや世界銀行傘下で民間部門向け支援を担うIFCといった機関が支援することになるため、JBICが保証供与の形でこれを後押しするというものです。具体的な支援の形態や対象については現在議論を続けているところです。
3点目のウクライナ支援については4月15日に施行されましたが、1点目と2点目については、例えばどういった外国企業を対象にするのか等、具体的内容を今年度中に別途政令で指定することになります。法案審議やそれ以前の与党の部会において、どのような外国企業を支援対象とするのか等に高い関心が寄せられたこともあり、財務省との間で具体的な中身を協議しているところです。
3.サプライチェーン強靱化 資料:p.4
サプライチェーン強靱化の観点での最近の事例をご紹介します。
1件目は日本製紙のハンガリー子会社によるリチウム電池用カルボキシメチルセルロースの製造・販売事業のための融資です。カルボキシメチルセルロースは、粘り気を強めるために歯磨き粉や洗剤等に使われていますが、リチウムイオン電池の製造にあたって非常に重要な製品となっています。ヨーロッパ各国がEV導入に注力する中で、中国企業等の競合企業と比較して品質の高い日本製紙のカルボキシメチルセルロースの需要が大きいことから、同社によるハンガリーでの製造拠点の新設をJBICが支援しました。
2件目は伊藤忠商事やJFEスチール、神戸製鋼所等が出資するブラジル法人によるペレットフィードプラントの新設への融資です。ブラジルは鉄鉱石の一大産地であり、日本の製鉄各社が同国より製鉄原料を輸入しています。製鉄業はGHG排出量が非常に多い一方で、GHG排出量の削減はハードルが高いと言われています。高炉に比してGHG排出量の少ない電炉で高級鋼を製造する場合には還元鉄を用いますが、この還元鉄の原料をどのように調達するかが、日本の鉄鋼産業各社にとって重要な課題となっています。そのための支援を行うことで、鉱物資源のサプライチェーンの強靱化に貢献しました。
これら2件はいずれもサプライチェーン強靱化の案件ではありますが、同時にカーボンニュートラル達成への道筋に関わるものでもあり、両方の観点から重要な案件です。
4.サステナビリティの取り組み 資料:p.5~8
(1)サステナビリティの取り組みも推進しています。
1件目は、ウズベキスタンのシルダリアII天然ガス火力発電事業に対する融資です。双日及びキューデン・インターナショナルがフランスのEDF等とともに発電所を建設・所有・運営し、電力をウズベキスタン国営電力公社向けに売電するものです。欧州は再生可能エネルギーへの支援を行っていますが、天然ガスは日本も欧州も引き続き利用しているほか、途上国においてエネルギートランジションの間は不可欠な燃料です。ただし、JBICとしてやみくもに支援しているわけではありません。本件はウズベキスタンで旧ソ連時代に建設された旧式のガス火力発電所を、三菱重工のタービンを用いて最新型の高効率の発電に切り替えてGHG排出量を大幅に削減するものであり、将来的には水素の混焼も可能になるという意義があります。加えて、ウズベキスタン政府はEBRD及び日本政府のサポートを受けつつ、2050年までの電力セクターのカーボンニュートラル達成に向けたロードマップを策定しており、これに沿った事業となっています。また、本件は国際金融機関との連携という観点で、IFCと協調融資をしています。JBICは特に東南アジアにおいては各国政府と緊密に対話しているものの、ウズベキスタンはJICAの支援対象となる事業も多い低格付国であるため、ファイナンスするに際しては国際金融機関との協調融資が必要になりました。
2件目は日本製鉄が出資するインド法人によるハジラ製鉄所の拡張事業への融資です。インドは中国に次いで鉄鋼需要が多く、今後経済発展に伴いさらに需要が増していく国です。他方、中国製品の流入を阻止するべく、“Self-Reliant India”(自立したインド)を掲げ国内産業保護政策を推進しているため、なかなかマーケットに参入しづらかったのですが、インドの製鉄企業エッサールが経営破綻した際、日本製鉄とArcelorMittalが同社を共同で買収(JBICが買収資金を融資)したことでインド市場に参入し、その後エッサールの経営が立て直されたことから、今回製鉄所の拡張が決定され、JBIC単体で30億米ドル、協調融資総額50億米ドルの融資を行うこととなりました。製鉄所の拡張によってGHG排出量は増えますが、新設される設備は将来的な脱炭素技術の導入を前提とした設計となっており、今後脱炭素化の努力が続けられていくことも踏まえて支援するものです。日印関係は非常に緊密ですが、経済関係はこれから深まっていく見通しであり、岸田総理とモディ首相の間で、2022年には以降5年間で5兆円の官民投融資を実施していくことが合意されました。また、インドは2070年のカーボンニュートラル達成の目標を掲げており、本件はこれらの方針に沿ったものでもあります。
これらのGHG排出量の多い事業に融資すると、JBICのバランスシート上のGHG排出量が一時的に膨らみ、2050年にバランスシートのGHG排出量をネットゼロにするという我々自身の目標からは短期的には離れることになりますが、将来的にGHG排出量を減らすためにはこういった事業も支援していく必要があります。
(2)次はインドネシア政府によるブルーボンドの発行支援です。JBICは過去にサムライ債発行支援ファシリティの下で同国政府のサムライ債発行を支援していましたが、現在では同国政府は独力で発行できる状態になっています。本件については、インドネシア政府が年限の比較的長い7年債及び10年債についてブルーボンドでの発行を検討していたところ、足元円金利の上昇が見込まれる中で、投資家が十分に集まらない懸念があったことから、JBICが一部を取得する形で支援しました。インドネシアは日本と同様に島国であるため、海洋分野の環境保護を非常に重視しており、海外発行体によるサムライ債市場でのブルーボンドの発行は初となりました。調達資金は海洋保護、特にマングローブ林の保護に使われることになっています。
2件目はベナンにおける太陽光発電事業の案件です。アフリカについてはTICADが3年おきに開催されており、JBICとしても力を入れて取り組んでいるところですが、実際には我々の金融条件で事業を実施できるのはモロッコやエジプトなど一部の国にとどまり、それ以外の国については足元のエネルギー価格及び食糧価格の高騰による経済的悪影響や、債務問題等も相まってなかなかファイナンスによる支援が困難なのが実情です。他方、ベナンはマクロ経済政策が堅実であることから、JBICとしてファイナンスが可能と判断しました。太陽光発電事業に加えて、小学校向けランタン電化事業も支援しました。同事業は、未電化の地域において、昼間に小学校の校舎の屋根に設置した太陽光パネルで発電された電力でランタンを充電し、児童が帰宅する際に充電済みのランタンを持ち帰り、自宅での学習に必要な明かりとしてもらうことを目指したものです。ランタンは日々充電する必要があることから児童が毎日登校することに繋がり、子供たちの学習環境の向上や通学習慣の定着化等に貢献する、社会的な意義の高い事業です。
(3)より従来型のサステナビリティの取り組みも引き続き実施しています。
1件目はエジプトの陸上風力発電事業向けの融資であり、IFCと協調融資した先行案件に続き、EBRDとの協調融資により支援しました。
2件目はフランスの洋上風力発電事業向けの融資です。日本では太陽光発電や陸上風力発電、地熱発電についてはそれぞれ景観や営業権、温泉等の問題を伴っておりなかなか進まないところ、洋上風力発電を進めていく必要がありますが、それに向けて商社も電力会社もまずはこういった事業に参画することで、経験・ノウハウを積んでいます。
(4)中堅・中小企業のサステナビリティの案件もご紹介します。
1件目は衣料品のネームタグを製造しているコバオリが、既存技術を生かして脱プラスチックにつながる新たな製品開発に取り組んだもので、飼料等にも使用できず廃棄されてしまう米を原料とした、ライスレジンと呼ばれるバイオマスプラスチックを製造する事業に対し融資しました。
2件目は電気機械器具の製造・販売を手掛けるツジコーが、薬品を使わず静電気により殺菌する技術を用い、マメ科の植物であるバタフライピーを原料とした天然由来の食品着色料を製造する事業に対して融資したものです。
中堅・中小企業が優れた技術を応用し、現地で社会課題の解決に挑戦するような取り組みを引き続き支援していきます。
5.スタートアップ支援・日本企業と海外スタートアップの連携支援 資料:p.9
1件目は中東欧ファンド向けの出資です。2019年には、北欧バルト地域のスタートアップを支援しつつ、日本企業とつなぐため、オムロンやパナソニック、本田技研工業といった日本企業にLPとなっていただく形でファンドを設立していましたが、今般中東欧についても同様の取り組みを行うべくファンドを立ち上げました。中東欧では他国に比較して優秀なソフトウェアエンジニアが安く雇用できることから、GoogleやAmazon、Intelといった巨大企業のR&Dセンターが立地しているほか、ドイツに近いことから同国のサプライチェーンとも接続しており、いわゆるIndustrial Techや 産業用のソフトウェアに強みをもつ企業が多いことを背景に、有望なスタートアップが多く育っています。JBICの子会社であるJBIC IGと、米国とポーランドでファンド組成実績のあるff Venture Capitalが共同で、双日、日揮、DMG森精機、KDDI及びSBIにも参画いただきつつ、ワルシャワにベンチャーキャピタルファンドを立ち上げました。日本企業のデジタルトランスフォーメーションに中東欧地域のスタートアップの力を生かすことを目的としています。
2件目は三井物産の実施する医薬品事業に関連した、シンガポールのスタートアップWellestaへの参画です。もともと三井物産はアジアの民間病院グループであるIHH Healthcareへの出資を通じて医療分野に進出していましたが、医薬品のマーケティングに優れたWelllestaとのタイアップによりさらに事業を拡大するべく、同社に参画し、JBICも共同で参画することによりこれを支援したものです。
6.日米豪・多国間連携 資料:p.10~11
日米豪連携はこれまでも取り組んできており、例えば一昨年にはパラオの国営海底ケーブル公社を共同で支援しました。本年3月には、豪州大手通信事業者Telstraグループによる、南太平洋島嶼国地域で相当なシェアを持つ移動体通信事業者の買収を米豪と協調して支援し、豪州が提供する融資に対して、日米で保証を供与しました。
また、日米豪は南太平洋のみならず、ベトナムの脱炭素化支援でも協調しており、JBICは同国の再生可能エネルギー事業を支援しています。
さらに、日韓関係が劇的に転換を遂げつつある中で、もともと関係の良好だった韓国輸出入銀行(以下「韓国輸銀」)との間で、さらに協力関係を強化するための覚書を締結しました。内容としては、日韓両国でインド太平洋や東南アジアといった地域でのサプライチェーン強靱化や脱炭素化で協調することを目的としたもので、7年ぶりに開催された6月の日韓財務大臣級対話の機会を捉えて調印したものです。