株式会社国際協力銀行 総裁記者会見
- 日時)2020年7月29日 14:00~14:50
- 場所)国際協力銀行 本店
- 説明者)総裁 前田 匡史
1.成長投資ファシリティ及び新型コロナ危機対応緊急ウインドウの制度拡充について 資料:P.3~5
まず、成長投資ファシリティの拡充の経緯をご紹介します。JBICでは、2019年12月に閣議決定された「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」の一環として、成長投資ファシリティを創設しました。ファシリティの下に2つのウインドウを設置しています。1つは、「質高インフラ環境成長ウインドウ」で、質の高いインフラの中でも、特に地球環境保全に焦点を当て、再生可能エネルギー事業への投資、環境技術の取得を目的とした海外M&A等を支援するための枠組みです。もう1つは「海外展開支援ウインドウ」で、海外におけるM&A・グローバルサプライチェーン再編といった日本企業の海外展開を幅広く支援することを目的としています。
本年4月、コロナ禍を受けた緊急事態宣言とともに、雇用の維持と事業の継続、官民挙げた経済活動の回復、強靭な経済構造の構築等を柱とした経済対策として「新型コロナウイルスの感染症緊急経済対策」が閣議決定されました。これは、海外発の下方リスクを乗り越え、未来の安心・安全を確保するため、海外展開企業の事業の円滑化が重要施策の1つになっています。JBICは、成長投資ファシリティを拡充し、「新型コロナ危機対応緊急ウインドウ」(以下「緊急ウインドウ」)を設けました。外為特会の資金を更に活用し、コロナ禍の影響を受けた我が国の企業の海外展開を支援することを目的としており、原則として日本企業の信用による案件に限定して取り組んでいます。
本年7月、この緊急ウインドウを拡充しました。JBIC法上、先進国向け投融資は政令で指定するインフラ事業等に限定されていましたが、政令改正や財務省告示により、製造業、たとえば部品点数が多く裾野が広い自動車産業等の先進国事業が支援可能となりました。また、時限措置として、従来より支援可能だった中堅・中小企業向け案件やM&A案件等に加え、国内大企業に対しても現地法人への増資や親子ローンを供与するための資金の原資の供給が可能となりました。サプライチェーンが国内或いは先進国、途上国を問わずグローバルに拡大している実態を踏まえた時限措置です。
2.最近の特徴的な取り組み 資料:P.6~8
1件目は、アイルランド法人Exergy Power Systems Europe Limitedに対する出資です。本年6月に出資を決定しました。エクセルギー・パワー・システムズは、2011年に東京大学本郷キャンパス内で設立されたスタートアップ企業で、同社の現地法人に対して最大400万ユーロ出資します。本件は特別業務勘定の案件であり、昨年3月に支援対象に加えた技術リスク・商業化リスクの第1号案件です。
ヨーロッパでは、大規模に再生可能エネルギーへ資金を投入する計画ですが、風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーは、出力が不安定です。そこで、エクセルギーは、自社で開発した次世代蓄電池により系統を安定化する電力調整サービス事業を行う予定です。アイルランド島においてこの事業を社会的に実装することを狙っています。アイランド共和国とイギリスの一部である北アイルランドの国境を越えて島全体に送配電システムがあり、将来的にそのシステムに対する電力の出力調整を行うというものです。日本においても今後再生可能エネルギーをより大規模に導入する際には、この社会実装した事業ノウハウが活きると考えています。
2件目は、米国カリフォルニア州における水素ステーション事業に対する出資です。出資先は、FirstElement FuelというGEの元副社長が設立したスタートアップ企業です。カリフォルニア州は、環境に対する意識の高く、経済規模としても国内総生産(GDP)は3兆ドルを超えています。国だと考えれば、英仏よりも大きく、米中日独に次ぐ世界第5位の経済規模です。燃料電池車(FCEV)向けの水素ステーションの設置数は、日独に次ぐ世界第3位です。
同州において、当社は21ヶ所の水素ステーションを運営しており、今後更に拡大していく予定です。既にトヨタやホンダといった完成車メーカーが参画しており、加えてフランス企業Air Liquide、三井物産が参画をしています。三井物産は、水素事業をバリューチェーンとして捉えて積極的に参画されています。JBICは約2,300万米ドルを特別業務として、いわゆる需要リスクに対応するものとして出資を決めました。
3件目は、アフリカの大型資源開発プロジェクトです。モザンビーク共和国におけるエリア1というLNGプロジェクトに対するプロジェクトファイナンスを7月に決定しました。モザンビークにおいてLNGを製造・販売するプロジェクトです。オペレーターは、元々米国のアナダルコの予定でしたが、持分をフランスのメジャーであるTotalが買収し、同社がオペレーターを務めています。三井物産と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)等計8社がスポンサーとして出資参画しています。プロジェクトファイナンスによる協調融資総額は144億ドルという巨大なものであり、本邦のガス会社等が年間約400万トンのLNGを引き取ります。これは、米国のシェールガスやパプアニューギニアからの日本への輸入を上回る規模です。アフリカ向け取り組みについては、昨年8月に横浜で開催されたアフリカ開発会議(TICAD7)に合わせ、JBICとしては2019年~21年までの3年間で45億ドルの支援についてコミットしており、その一環で、本件については30億ドルを融資します。他国の輸出信用機関やアフリカ開発銀行、民間金融機関等が協調融資しており、アフリカにおける単一のプロジェクトとしては過去最大規模です。いわゆる仕向地条項を緩和し、本邦のバイヤーはLNGを第三者への転売可能で、国内のLNG需給の変動に応じて調整することができ、流動性の高いLNG市場の形成に貢献すると考えています。