株式会社国際協力銀行 総裁記者会見

- 日時)2026年7月28日(火曜日)15時00分~16時00分
- 場所)国際協力銀行 本店
- 説明者)総裁 天川 和彦
- 配布資料)定例総裁記者会見
1. 不確実性が高まる事業環境への対応(資料:p.3~7)
Ⅰ. 足元の3つの対応
①「POWERR Asia FASTウインドウ」を創設・開始(26年5月)
POWERR Asiaは、今回の中東情勢の緊迫化により、石油やガスだけでなく関連製品についても日本への供給に影響が生じうる状況になっていることを踏まえ、本年5月に政府が発表した枠組みです。この枠組みの実施のため、JBICはPOWERR Asia FASTウインドウを創設・開始しました。具体的には、4つの柱を設けています。
- 第1の柱:原油・石油製品などの調達
最も分かりやすいのが、原油・石油製品・天然ガス・NGL(天然ガス液)などの調達支援を行う第1の柱です。具体的には、上流開発や権益取得、日本への輸入に関連した事業に対してJBICが支援を行います。足元、中東地域で供給面の問題が生じている実態を踏まえ、中東はもちろん、アメリカやオーストラリアなども含め、世界全体を支援対象としていきます。 - 第2の柱:緊急資金支援
第2の柱は少し性格が異なります。直接的に資源開発や権益取得を支援するのではなく、今回の情勢変化によって日本企業や日本のサプライチェーンに資金繰り等の問題が発生した場合、それら企業に対して支援を行うものです。いわば緊急支援の枠組みです。 - 第3の柱:エネルギー源多様化・産業高度化
第3の柱は脱化石燃料に向けた対応です。これまでもJBICが支援してきた領域ではありますが、今回も主要な柱として再生可能エネルギー、水素、アンモニアなどの分野を支援していきます。 - 第4の柱:供給能力回復・備蓄インフラ支援
私自身、この第4の柱に大きな可能性を感じています。中東情勢の影響を受けた国々において、生産能力の回復を支援するものです。例えば、情勢の悪化に伴う攻撃によって破壊された施設の復旧支援が挙げられます。また、需要国側で共同備蓄を行う場合、そのためのインフラ整備も支援対象となります。例を挙げますと、アジア域内で共同備蓄を行う際のタンクや関連インフラへの支援などが該当します。
第1の柱も非常に重要ですが、それは既に従来から取り組んできた分野です。新たな取り組みである第4の柱の下では足元アジア各国から実際に問い合わせも来ており、備蓄インフラ整備などのニーズが顕在化しています。私としては、ここには大きなビジネスチャンスがあると考えており、重点的に支援していきたいと思っています。
POWERR Asia第1号案件として、インド国営送電会社向けに融資を実施しました。こちらは、インド西部の再生可能エネルギー発電地帯から中部の需要地へ送電する高圧直流送電(HVDC)事業に対する融資です。本案件は、先ほどご説明申し上げた第3の柱に該当する案件で、再エネ発電そのものではなく送電インフラへの支援という位置付けになります。
② 日米政府の戦略的投資イニシアティブに関する対応
5,500億米ドル規模の対米投資を今後実施するという日米政府間の合意が結ばれています。本合意に基づき、JBICは民間金融機関やNEXIと連携しながら案件を進めていきます。
本イニシアティブの特徴として、日本側が参画するのは協議委員会(Joint Investment Committee)までであり、その後の投資委員会は米国側のみで構成される点が挙げられ、最終的なプロジェクト選定は米国政府側が行う仕組みとなっています。日本側は資金を提供し、米国側は電力・エネルギー供給、規制対応、許認可、土地提供等の現物出資を担う形になります。
③ JBIC法の一部改正による劣後出資等
経済安全保障推進法は3年ごとに見直しがある中、今回の改正では「経済安全保障上必要な海外事業」を支援する新たな制度が創設されました。対象となる特定海外事業は、
- 国際的な輸送網の強靱化のための施設等の設備・運用
- 重要サービスの提供に用いられる施設等の整備・運用
- 重要技術の海外展開のための施設等の整備・運用
の3つです。
分かりやすく言えば「日本の経済安全保障上は必要だが、そのままでは採算が取れないプロジェクト」を支援する制度であり、JBICが劣後出資を行うことで、通常であれば成立しないプロジェクトを成立させることを狙っています。ただし、案件採択を決定するのはJBICではなく、民間事業者が政府へ申請し、政府が経済安全保障上の必要性を判断した上でJBICにデューデリジェンスを依頼します。JBICは、事業性や必要な支援規模を分析し、政府へ助言を行い、その助言を踏まえ、最終的な実施判断は政府が行います。
新しい制度であり、基本指針は現在策定中の段階となるため、現時点で具体的案件を申し上げることはできませんが、クリティカルミネラルなどは想定しやすい例だと思います。
Ⅱ. JBICの役割拡大を踏まえた今後の方針
本年度は中期経営計画の最終年度に該当します。最初の2年間は重点取組課題として4つ掲げていましたが、最終年度に日米戦略投資イニシアティブが新たに加わり、現在は5つの重点取組課題で構成されています。
- 重点取組課題1:持続可能な未来の実現
1つ目の重要課題は、サステイナブルな社会の実現に向けた取り組みです。主な対象は開発途上国であり、脱炭素に資するプロジェクトや、世界のエネルギー企業の脱炭素化支援などに取り組んでいます。視点としては、日本企業よりもホスト国や世界全体を見据えた取り組みです。 - 重点取組課題2:我が国産業の強靱化と創造的変革の支援
2つ目は我が国産業の強靱化です。サプライチェーンの強靱化、エネルギー・資源の確保に加え、スタートアップ支援も重要な柱となっています。スタートアップ支援については、新たな枠組みを整備しましたので後ほどご紹介します。 - 重点取組課題3:戦略的な国際金融機能の発揮による独自のソリューション提供
3つ目はJBIC自身に着目した課題です。1つ目がホスト国、2つ目が日本企業に焦点を当てていたのに対し、3つ目はJBICならではのソリューション提供を通じて価値を発揮していこうというものです。具体例としては、AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)に関連した取り組みや、多国間連携、アフリカなど日本企業が十分に展開できていない地域での支援、さらにはウクライナ復興支援などがあります。 - 重点取組課題4:価値創造に向けた組織基盤の強化・改革
4つ目は、対外的な融資や投資ではなく、JBIC自身の組織基盤強化です。業務体制の整備やDX推進を通じ、持続的に業務を遂行できる組織づくりを進めています。 - 重点取組課題5:日米戦略的投資イニシアティブに基づく取り組みの推進
こちらは、冒頭にお伝えのとおり、最終年度に追加した新たな重点取組課題になります。
2. 最近の特徴的な取り組み(資料:p.8~15)
Ⅰ. 日本企業の海外M&A支援:日本製鉄によるUSスチールの株式取得資金を融資
日本製鉄によるUSスチール株式取得に対し、JBICは37億米ドルの融資を実施しています。今回の買収は、日本製鉄が米国市場における高級鋼需要の取り込みを目的として実施したものです。日本製鉄はインドにおいてArcelorMittalと共同事業を展開していますが、その次の成長戦略の柱として米国市場に着目し、今回の買収に至ったものと理解しており、JBICは買収資金のうち米ドル建て部分を支援しています。
Ⅱ. 重要鉱物の安定確保:アルゼンチンにおける炭酸リチウム生産事業に対する融資
アルゼンチンにおける炭酸リチウム製造事業に対し、JBICは2億4,000万米ドルの融資を実施しています。事業主体は英Rio Tintoの出資先企業です。生産された炭酸リチウムは、日本の部材メーカーや電池メーカーを経て、最終的には自動車やデータセンター向け蓄電池などに利用され、日本の重要鉱物サプライチェーン強化に資する案件です。
Ⅲ. エネルギー安全保障の確保:UAEにおけるRuwais LNG事業に対する融資
アブダビ国営石油会社(ADNOC)が三井物産と共同で進めるLNGプロジェクトに対する融資です。JBICは三井物産向けに融資を行っています。このプロジェクトで生産される年間960万トンのLNGのうち240万トンを日本企業が引き取る予定で、日本のエネルギー安定供給に大きく貢献する案件と考えています。
また、JBICとADNOCは非常に緊密な関係を構築しており、2007年以降、累計7件の融資を実施してきました。最近ではMOUも締結し、原油・LNGだけでなく、水素、アンモニア、CCS、化学品、肥料など、エネルギーバリューチェーン全体での協力を進めています。
Ⅳ. 日本発スタートアップ支援
- スタートアップ投資戦略に基づく投資活動(24年10月以降)
次はスタートアップ支援です。日本発で海外展開を目指すスタートアップを支援対象としています。海外展開を視野に入れたスタートアップを支援するものです。投資テーマは産業変革(Industrial Transformation)およびサステナビリティの2分野となり、投資対象は主に日本発スタートアップですが、将来的にはASEAN企業への展開も想定しています。投資ステージはミドル・レイターステージが中心で、投資額は1億円から10億円程度を想定し、今後3年間で総額200億円規模の投資を目指しています。
スタートアップ投資においてはスピードが重要です。そこで従来の意思決定プロセスとは切り離し、「スタートアップ投資委員会」を設置しました。外部専門家を中心に構成し、課長級職員や役員も参加し、迅速に判断できる仕組みとしています。また、成功確率を過度に気にするのではなく、挑戦そのものを重視して取り組んでいます。 - スタートアップ向け支援実績
昨年度は以下4件の出資を実施しました。- 金属廃棄物リサイクル事業
- ケニア中古車マーケットプレイス事業
- 次世代蓄電池の開発・製造
- 腸内細菌研究による医療サービス・創薬
Ⅴ. AZECの推進
AZECは、経済成長とエネルギートランジションを両立させることを目的として日本が主導している枠組みです。脱炭素だけを優先し経済成長を犠牲にするのではなく、その両立を目指しています。ここではベトナム、タイ、フィリピンの事例を紹介しています。ベトナムでは政府の規制が強いため、JBICがベトナム政府との橋渡し役となり、国営銀行向けクレジットラインを活用しながら案件形成を進めています。他方、タイでは省エネ投資促進のためのプラットフォームとして「AZEC Save Platform」を立ち上げています。フィリピンでは現地財閥とのMOU締結を通じて、民間主導でプロジェクトを推進しています。
このように、それぞれの国の事情に応じてアプローチを変えているのが特徴です。
Ⅵ. ワルシャワ駐在員事務所の開設
最後に、本年3月、JBICにとって19か所目となる海外拠点としてワルシャワ駐在員事務所を開設しました。
中東欧地域はウクライナ周辺国であることに加え、旧ソ連圏として理工系人材が豊富であり、人件費も西欧諸国に比べて低いという特徴があり、非常に魅力的な地域です。加えてドイツに近接しており、製造業やAI活用など実務的な技術力にも強みがあります。こうした観点から、将来性の高い地域であると考えています。
ウクライナ支援については、現時点では直接融資が難しい状況にあります。そのため、
- ポーランド開発銀行(BGK)が立ち上げた「ウクライナ支援基金」を通じた支援
- 黒海貿易開発銀行(BSTDB)への融資クレジットライン設定
- 日本企業によるウクライナ関連事業への支援
などを通じて間接的な支援を進めています。
具体例として、日本の中堅・中小企業であるインスタリム社による3Dプリンターを活用した義肢製造・販売事業への支援が挙げられます。こうした取り組みを通じて、ウクライナの復旧・復興を後押ししていきたいと考えています。





